国境を抜けるのは時間が掛かる
どうしよう……
私の疑問をアンドリューに聞いてみようか?
だけど聞いたら取り返しのつかない方向に行く気がしないでもない。
知らない方が良かったってことも有るし……
どうしよう……
「アンジェリーナ、なにか聞きたいことがあるんじゃないのか」
「ふぇっ……」
突然のアンドリューの言葉に心臓が飛び跳ねる。
なんで? どうして?
アンドリューは、もしやエスパーですか?
「先程からチラチラ見ていただろう? 」
えっ、私アンドリューの事見てました?
聞くべきが止めておくべきか悩むあまり、アンドリューを何度も見ていたらしい。
私のバカッ。
「いえ……なんだか不安が拭えないと言いますか……少し後ろめたい気持ちもあり……考えれば考えるほど悪い方向に行ってしまって……」
私が気になったことをアンドリューに聞いてしまえば、優しい彼は中途半端にすることなく調査してくれるに違いない……
それが今は怖かったりもする。
すっきりしたいが、知りたくないような……
「今日にはシュタイン国に着く。そうなれば不安も少しは和らぐはずだ」
「……はぃ」
私は目を瞑り口を閉ざした。
もし私の不安が的中していたとしても、私は領地に戻りたい。
……ごめんなさい。
今も苦しんでいる人が居ることは分かってる。
けど、私も平穏に暮らしたい。
『私は私で領地で出来る事をするのでサーチベール国を離れることをお許しください』
サーチベール国を出発し、もうすぐシュタイン国に入る。
一番近い村までは森の中を進む。
その道は馬車が通る幅は有るものの、街中のように整備されているわけではないので心許ない。
すれ違う際は譲合いをしなければならない。
そんな時に盗賊に襲われることもある。
騎士が護衛しているとはいえ、馬車が停車すると緊張感が漂う。
こんなところで襲われてしまえば逃げきるのは難しい。
それに、こちらには病人が二人いる。
『問題なく、到着できますように……お願いします。これからは大人しく領地で過ごしますから。神様、私の願いを叶えてください』
カストレータ家、ブルグリア家、フォーゲル家、ルトマンス家、更にはアビゲイルの命によりサーチベール国の優秀な騎士も護衛に付いてくれている。
どの家門も高位貴族で騎士の能力も優れている。
自身に言い聞かせ、安心しようとするも不安が過る。
こんな中で襲われるとは思いたくないが、国境付近は危険。
夜になる前には何とか抜けシュタイン国の村に到着したいと考えているので、休息は今までより回数は少なく時間も短い。
「国境だ」
シュタイン国に入国の際、国境には多くの騎士が待ち構えていた。
当然と言えるのだが、身元を確認し貴族だと証明されても国境では荷物など調べられる。
一つ一つではないが貴族の反応を見極める。
不審な物、人身売買の被害者などないか細かく調べられる。
その為、国境警備は潔癖ともいえる人格者でなければ職に就くことは出来ない。
賄賂に靡くような意志の弱い人間では国の警護は務まらないだろう。
こちらがいくら、
『高位貴族で病気療養が必要な状態なので調査を緩くしてほしい』
訴えたところで考慮されることはないし、あってはならない。
『金貨を差し上げるから通して』
等は決して通用しない人物であらねばならない。
馬車の中から彼らの実直な仕事を眺めていれば、馬車が動き出す。
私達の身元や荷物の確認は終わり問題ないと判断された。
疚しいことは無いし調べられても問題ないが、それでも緊張してしまう。
「……ふぅぅぅぅぅ……」
国境を問題なく通過。
『ここを通ればシュタイン国……もうすぐ……もうすぐ、帰れる……』




