地下牢
騎士に案内された地下牢はヒンヤリとしていて薄暗い。
独特のカビ臭さはあるが匂いは次第に慣れていく。
錆びついた鉄格子が開けば耳障りな不快な音を立て、私が一歩入れば再び扉は閉められ鍵も掛けられ役目を終えた騎士は立ち去る。
「牢の中には、ベッドがある……いや、ベッドしかない」
綺麗とも言えないベッドだが、直接床に座るにも抵抗がありないよりかはましだ。
すぐに解放されるとは思っていないので体力を消耗するのは避けたい。
一度ベッドに座ってしまえば抵抗もなくなる。
そしてベッドしかない薄暗い部屋にいると、やることないので寝るしかない。
「はぁ……」
卒業パーティーから直接来たので、私は今ドレスを着用している。
初めての経験で知らなかったが、ドレスで横になるとゴワゴワして寝心地が悪い。
だからと言って、いつ騎士が見回りに来るのか分からない状況で脱ぐことは出来ない。
そもそも石造りの地下牢は肌寒い。
どうにか楽な体勢を見つけて瞼を閉じる。
「断罪の後は……」
ゲームでの卒業パーティー後の悪役令嬢は……家門にはお咎めは無いが、私個人は国外追放。
「追放……」
突然前世を思い出したかと思えば、断罪中。
なんの挽回も出来ずにすぐに『追放』って結構厳しくないですか?
「神様も優しくないなぁ。世の中、厳しすぎる……」
公爵令嬢という貴族の中でもダントツのお金持ちになったのに、お金持ちを堪能する間もなく地下牢に入りこれから無一文で放り出されるんですよね?
「私、なんか悪いことしたのかな? これは何かの罰ですか? ……もしかして、このゲームを『気に入らない』とか『まともな選択肢を出せ』と沢山文句を言ったから? 嘘……ごめんなさい。今までの事は謝罪します。私は恋愛シミュレーションゲームが不慣れであのような発言をしてしまいました。愚かな私をお許しくださいぃぃぃぃ」
独り言を呟きながらも今後起こりうることを考えていた。
ゲームでの悪役令嬢は一度屋敷に戻り、荷物を纏めて国外に出発した。
地下牢に入るという場面は無かった。
「地下牢は私から言い出したのか……」
私の異世界転生は結構厳しめの部類の転生ではないだろうか?
いくら考えても不満しか出てこない。
ゲームでは私が断罪が決行された時には既に『追放』と決まっていたが、実際にはこれからお偉いさん達が話し合い結論を出すのだろう。
私が暴露した内容が事実なのか調査が開始され判明するまで、数日・数か月は地下牢で過ごす事に……
「そうしたのは……私か……」
ゲーム中ヒロインより悪役令嬢に感情移入してしまい、目の当たりにした断罪中でも黙っていられず不満をぶちまけた。
その結果が地下牢であるなら受け入れるしかない。
「もう、私にはやることもない」
私が出来るのはたった一つ。それは、寝て時が過ぎるのを待つ。
「よし、寝よう」