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気付きたくなかったことに気が付いてしまったのではないか?

 翌朝。

 私達は充分な休息を取り朝食も終え馬車に乗り込む際、エメラインとアイリーンの姿を目撃。

 以前公爵のパーティーで二人のダンス姿を目撃したが、その時よりも顔色が悪く痩せている。

 令嬢達の間ではドレスをより美しく見せる為に食事制限をしコルセットで締め上げ細さを際立たせるとは聞いていたが、二人の体型は美しさより病人らしさが勝ってしまっている。


「大丈夫かな? 」


 お付きの使用人とは会話できている事から意思疎通は可能なのだろうと判断できるも、体調の悪さは隠せていない。

 そんな状態で挨拶を交わせば良からぬ噂となることを懸念し私との対面を避けたと考えられる。

 高位貴族であれば挨拶をするのが礼儀なのは理解してはいても、それ以上に令嬢達の今の姿をさらす事を避けたかったのだろう。


 令嬢達の姿を目撃し一日でも早く身体から薬を抜かなければならないと感じ、その為には早くカストレータ家に無事に到着する事を目指さなければならない。

 予定では明日には到着する。

 休息をこまめにとっているとはいえ、長距離移動は体に負担をかけているであろう。


「もう少しだから、頑張ってね……」


 二人には届かないが、頑張れ~と遠くから応援。

 今回アビゲイルは内々に調査を進める為に自身で指揮を執り、その補佐をルースティンが行っている。

 事情を知る者を最小限にする為にはあの日参加した者達が中心となって動くのが一番という事で、ルースティンが選ばれた。

 彼も婚約者が被害に遇っているため、アビゲイルと同じ立場であり信頼できると判断された。

 アンドリューと私は令嬢達を犯人から遠ざける重要な役割を担っているので、彼らとは別行動で先に出発している。

 彼らはあちらで色々有るようで、私達が出発した二日後にサーチベール国を出発する予定。

 アヘンの調査に病気療養とされる貴族達の実際の状況確認等しなければならないことは沢山有る。

 ルースティンも本当なら婚約者の側にいたいだろうが、それを堪え、今はアビゲイルと共に動いている。

 まだ敵、味方がハッキリしていない状況でアビゲイルが信用できるのは弟のワイアット、婚約者が同じ状況のルースティン、そして隣国からの留学生で妹が同じ相手の被害に遇ったアンドリュー。

 私も信用していい人間の一人だとは思うが、隣国の令嬢という事で巻き込みたくないと思ってくれているのか捜査に積極的い絡ませようとはしてこなかった。


「王位継承権とか兄弟の恋愛絡みはやめてね……」


 ここでは、ワイアットが王位継承権やアビゲイルへの嫉妬。

 婚約者への横恋慕からアヘン漬けを企んでいたという可能性は排除している。

 もし王位継承権が関係しているのであれば、こんな回りくどいやり方はしないだろう。

 それに隣国の貴族が「留学生の存在の認識はない」と口にしたからと言って、自分から留学生について調査もしないはず。

 なので、ワイアットを容疑者とは考えていない。

 ワイアットを容疑者にしてしまうと、アビゲイルやルースティンにも同じことが言えてしまう。

 そうなると、余計な発言をした私と兄のアンドリューの身が危険に晒される。


「アヘン入りの紅茶……」


 アヘン入りの紅茶に気が付いてしまっただけでも、既に危険なので彼らが犯人であったとしても気が付かない選択を選ぶだろう。

 公爵家だろうと相手が王族となれば真実なんてどうにでもなってしまう。

 本来のアンジェリーナであれば真実を貫く強さを持っているだろうが、私は違う。


「平穏無事に長生きしたいだけなの……」


 私としては、本格的に捜査に加わるつもりはない。

 相手側からしたらアンドリューに頼りたいのだろうが、アンドリューは延長しているが留学生という立場。

 他国の者にこれ以上頼るのはという思いと、自国の欠点を晒すわけには行かないという王族としての矜持が有るだろう。


『この件は私が指揮を執り、調査を開始する』


 そう宣言した時の彼の目は力強い。

 婚約者を守りたい、国としての矜持も守りたい。

 決意した目。

 守るものが多い人間ほど選択肢が限られてくる。

 そんなの取っ払って婚約者だけを~なんて無責任なことは彼の立場では許されないのだろう。

 だか、その立場があるおかげで貴族の内情に踏み入れることもできる。

 彼らにしかできないことは当然彼らに任せ、彼らの立場ではできない事を私達がする。

 なので私は私のできることを、『私の身を守りながら』やっていきたいと思う。

 まずは二人を安全にシュタイン国に出迎え、その後極秘にカストレータ家にて療養が始まる。

 ほとんど私は要らないのだろうが、女性にしか言えないこともある。

 それでも使用人が居れば事足りるのだろうが、家主の方が時間短縮にはなる。


 私はゆらり揺られてシュタイン国を目指している。

 きっと紅茶が原因で病気療養していた貴族もアビゲイルやルースティンから「紅茶は控えるように」と忠告を受ければ回復に向かうだろう。

 そして皆が何事も無かったように社交界に復帰し始める。

 そして日常に戻っていく……うん。

 いいんじゃない?

 いいんだよね?

 これで……

 何か忘れているような……何か……違和感を感じる。

 

「なんだろう……これ……」


 何かが引っ掛かる。

 何が……何が引っかかるんだ?

 何故、病気療養しているとされるのは学生だけなの?

 紅茶が原因であれば家族も頂いているのではないの? 

 でも夫人や当主が病気療養しているとは聞いていない。

 アヘン入りの紅茶が原因であれば家族も同じ茶葉を使用しているはずなのに、症状を訴えているのは学生だけ……


「なんで? 」

 

 茶葉はエーバンキール産の高級茶葉……

 子供が飲んでいれば親も飲んでいるだろう。

 紅茶が嫌いな人もいるだろうから全員にとは言わないが親……特に夫人は学生とは違い長時間屋敷にいるので紅茶に触れる機会も多いはず。

 なのに症状が現れたというような話は聞いていない……


「どういうこと? 病気療養していると発言した貴族全てが、アヘン入り紅茶が原因とは限らない? 」


 茶葉に隠れて違う事件も起きている……とか? 

 「病気療養している」と発言する貴族の言葉を安易に信じるべきではないのかもしれない……


「『病気療養』という言葉で、子供を隠している……とか? なら、駆け落ちは? 駆け落ちも行方不明って……こと……だよね……あれ? 」


 なんか、また気付かなきゃ良かったことに気付いてしまったのではないか? 

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