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私は何が何でも帰ります

 令嬢二人にはフォーゲル伯爵の領地を目指してもらう。

 王都の伯爵邸に立ち寄ってからでは、令嬢二人には遠回りになってしまう。

 健康な人間でも長時間の馬車移動は大変。

 今の令嬢達の体調を考えると、少しでも距離は短い方がいい。

 こまめに休息を取りながら伯爵の領地を目指す。

 そこまでだけでも長い道のり。

 

「体調不良の令嬢達は大丈夫かしら?」


 令嬢達は自身の馬車で専属使用人と共に伯爵の領地を目指している。

 今回は急ぐことなく、何泊もしてフォーゲル伯爵の領地を目指す。


「お二人共、無事到着されたようです」


 宿は事前に同じ場所を予約していた。


「良かった。お二人にご挨拶を……」


「それがお二人共、移動により体調が優れないようで本日はお部屋で食事を取らせていただきたいとのことです」


「そうですか……分かりました。こちらの事は気にせず、ゆっくりお休みくださいと伝えてもらえる?」


「畏まりました」


 夕食時には挨拶をと思っていたが、今回は控えた。


「アンジェリーナ、私と二人で食事をしよう」


「はい」


 アンドリューと二人での食事。

 翌朝も長時間の移動。

 挨拶などに気を遣わせることはせず、伯爵の領地を目指す事を優先。

 ルースティンの婚約者は貴族として恥ずかしくない令嬢だと聞き、そんな令嬢が共にするアビゲイルの婚約者も貴族として相応しい人だと判断できる。

 そんな令嬢二人が食事だけでなく挨拶さえ断るのは相当なのだろう。

 それでも、この長距離移動に耐えている根性に令嬢としての誇りを感じる。

 何度も休息を取り無理な移動日程にならないように気を付けはいるが、やはり心配ではある。

 令嬢達の使用人と何度も密に連絡を取り、様子を確認しながら移動している。

 

「フォーゲル伯爵邸に到着ですね。まだお昼ですが……」


「相談してこよう」


 アンドリューがこの後の予定を確認。


「アンジェリーナ。二人とも昨日より体調が安定しているので、伯爵邸には寄らず移動したいとのこと」


「そうですか」


 私達は移動を続ける。

 伯爵も令嬢達の状況を知っているので、無理に会って挨拶しようとはしていなかった。

 私達はサーチベール国に入国して間もない頃に宿泊した、カジノで栄えているあの町を目指す。

 私達の選択が正しかったのかは分からないが陽が落ちてから大分過ぎた頃、町に到着。


「ん? どうしたんだろう?」


 それから宿を探している最中、前を走る商人の馬車が立往生していた。


「馬車が脱輪したか、荷物に何かあったのかもしれないな……少し様子を見よう」


「はい」


 前の馬車によって、私達も数十分程足止めを余儀なくされた。


「……動いたみだい」


 彼らが動き出すと、同じ方向に向かう。

 まるで先導されているかように馬車が連なる。

 商人の馬車はカジノの裏手に入っていく。

 私達は泊まり客なので、カジノの向かい側にある宿に停車。

 アンドリューとしてはカジノから少し離れた別の宿を望んでいたのだが、本日は何処も満室のようでカジノの目の前になってしまった。

 どうしてそこまで気にするのか疑問に思い尋ねた。


「お兄様。あの宿はお嫌いなのですか? 」


「嫌い……というよりカジノ付近は夜ともなれば酔った客が多く騒がしくなる。安全面も今までの街より警戒しなければならない」


「あぁ……」


 確かにアンドリューの言うとおり。

 時間が回ればアルコールの摂取も制限なくなるだろう。

 そこにギャンブルも加われば相乗効果で気分は高揚し判断能力が欠如する。

 冷静さを欠いた人間が付近を徘徊していると考えれば、貴族令嬢には危険が及ぶ可能性がある。

 こちらには高位貴族の令嬢二人をお預かりしている。

 何かあってはいけない。

 相手側を罰したとしても、被害者である令嬢も非難されてしまう。

 そうならない為にも自衛は必要。

 食事も彼らの視界に入らないよう、目立たない恰好を選択。


「今日は、何にしようかなぁ……ん?」


 アンドリューと共に席に付きメニューで悩んでいると、ふと周囲の視線が気になった。

 チラチラと確認されるような、値踏みされているような不快な視線。

 以前はそんなことを気にする余裕はなかったが、今日はやたらと感じる。


「リーナ、あまり周囲を見るな。目が合うと絡まれる」


「あっはい」


 カジノが近いだけでこうも客層が変わるものだろうか?

 アンドリューの助言通り、視線をメニューに戻す。

 領民に溶け込めそうな服装だが、貴族だと知られてしまったのだろうかと不安になる。

 この領地は他の領地の人間と違いギラついた感じはなく平民自体もお金に執着しているようには見えないが、やはりカジノ目当ての客には私達から金品を奪おうと物色しているのだろうか? 

 見知ったカストレータ家の騎士が周囲にいるのを確認し、安心して食事を始める。

 不安と緊張が入り混じったアンドリューとの食事は終わると、逃げるように部屋へ。

 気を張っていた所為か美味しさなどは分からなかった。

 変な緊張感を味わってしまったが、明日の朝に出発し陽が落ちる前にはシュタイン国に入国する予定。


「早くシュタイン国に戻りたいな……」

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