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真実を話せない苦しみ

「王宮から手紙が届いております」


 アビゲイルから手紙が届く。

 内容は


『婚約者のブルグリア侯爵令嬢とルトマンス伯爵令嬢を王宮医師に内密に診察させたところ、アヘン中毒であると判断された』


「不安……的中」


 そうでないことを願っていたが、令嬢達の体調不良の原因が分かった。


『ブルグリア侯爵に隣国での療養を了承。カストレータ家の領地訪問に前向きである』


 ルースティンの方もアビゲイルの方から報告を受け、婚約者のルトマンス伯爵に隣国での治療法を試してほしいと説得済み。

 ブルグリア家とルトマンス家からカストレータ家の領地訪問という名の治療を受け入れる。

 両家からの返事を確認したので、アンドリューはカストレータ家の領地にいるお父様に手紙を送る。


『我が領地で一令嬢を療養させたいので領地に戻ります。詳細は後程……』


 両家共に令嬢の原因不明の体調不良を心配していたので、アビゲイルやルースティンの提案に頷く。

 両貴族は守秘義務のある医師には相談できるが、他貴族にはなかなか情報を供給出来なかったようで今回二人の手紙で互いの状況を知ったよう。

 両貴族は令嬢が病気持ちとなれば婚約解消になり得る為、どうにか周囲に知られずに解決を望んでいた。

 しかも、二貴族は侯爵家と伯爵家で婚約者も王族と伯爵家。

 二つの家門が婚約解消となり男性側の婚約者の座が空いたとなれば『私が』『私が』と多くの家門が名乗りを挙げ、社交界で一気に知れ渡るのは目に見えている。


 婚約解消の理由が病気であっても、最終的には面白おかしく話されるのが貴族社会というもの。

 今は好意的な対応でも、いつ手のひら返しされてもおかしくない。

 それが分かっていたので両家共に令嬢達の病気の症状など誰にも相談せず、外に漏れないよう使用人にも徹底的に箝口令を敷いていた。


 今回はルースティンやアビゲイルを経由してシュタイン国のカストレータ兄妹がその病状に心当たりがある事を伝え、シュタイン国のカストレータ家の領地で療養してみてはと提案。

 隣国のカストレータ家で人に目撃されても変な噂をたてられることも無いと判断したのと、アンドリューの数年の功績による信頼度から当主達の心は揺れていた。

 それでも躊躇いがあったのを、最後の一押しとして


『このままサーチベール国に留まっていれば、いつ令嬢の体調不良が騒ぎ立てられるのかわかりませんよ』


 と話し(脅し)両家からカストレータ家訪問の許可を得たらしい。

 その後、両家共に『娘のことをよろしく頼みます』と、出発数日前にそれぞれ挨拶を交わす。

 両家は政略的に婚約を結んだと思われがちだが、王族の婚約者候補顔見せの時に子供達の反応を見て良好な関係を築けると判断したので婚約となったらしい。

 当主達は婚約解消され相手との縁が切れることを恐れたのではなく「娘達が悲しむのが分かっていたから婚約相手にも伝えられなかった」と話してくれた。


 本来であれば令嬢が病気など患った時、婚約者側に報告義務がある。

 何故なら多くの貴族は血筋を重んじる。

 嫌な考えだが、貴族は健康な令嬢に跡継ぎを産ませ、家門を存続させる事を第一優先としている。

 言ってしまえば、喩え相手が娼婦だとしても、隔離して誰の子供なのか証明できるのであればそれでいいのだ。

 貴族令嬢だとしても子供を産めない女性と判断されてしまえば、婚約解消を告げられても受け入れるしかない。

 婚約解消に納得せず騒ぎ立て抗議すれば、余計噂となり傷を負うのは女性。

 そうなれば、残酷なようだが修道院に入り貴族社会から身を引くか、貴族籍を抜き平民として暮らすの二択になる。


 婚約者によっては「養子を取るので子供を産めなくても構わない」と婚約を続け婚姻することもあるだろう……

 だが、未来は分からない。

 いつ「自分の子供を欲しい」と言い出すか分からないし、愛人を作り子供を授かる可能性もある。

 実家の繋がりを考え離縁も出来ず、お飾り妻をさせられることもある。

 そんな先の未来を予想してしまえば、婚約者側に事実を告げられなくなるのも仕方がない。

 相手側を信じていないわけではない。

 それだけ、世継ぎを残せないというのは貴族社会にとって重要であり不安の種でもある。

 

 両家共に令嬢の病状が悪化していくにつれて何処か覚悟していたが、「原因に心当たりがあり、治療の可能性も発見」とあればどれほど救われたことか。

 それを婚約者側から申し出てくれた。

 令嬢の病気に気が付き、原因を模索してくれ治療法まで発見してくれた事は嬉しかったに違いない。

 だが回復できなかった時は、きっと令嬢側から婚約についてなんらかの決断を下すだろう。

 一縷の望みを賭け二人の当主は娘を送り出す決断を下してくれた。


 対面した二人の当主は、私達が発見したことになっている原因や治療法に感謝の言葉を語られた。

 まだ治ったわけでもないのに涙を浮かべられたら、真実を口にしてしまいたくなる。アビゲイルの言葉もあり両家にはアヘンの事を伝えるのは我慢するしかない。

 「令嬢達がいつの間にかアヘン漬けにされかけてました」なんて話せば、二つの家門が全力で動くことは二人を見て予想ができてしまう。

 そうなれば犯人に気付かれてしまう恐れがある。

 高位貴族である二人がそのようなヘマはしないだろうとは分かっていても、王子の出した結論を私が覆すわけには行かない。

 後になれば、「なぜ教えてくれなかったのか」と詰め寄られるだろう。

 娘に危害を加えた人間を自らの手でと思うのは親としては当然の反応。

 だげど、犯人の狙いや何処に潜んでいるのかもわからない状態で、アヘンの存在を知る者だけが増えるのは得策ではない。

 一人でも知る者が増えればリスクも増える。 

 両家には冷静な判断が常に出来る状態でいてほしい。


「今回は、最小限で動いた方がいいんだ」


 自分に言い聞かせ、サーチベール国を離れる言い訳を探していた。

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