帰るんだ、私は家に帰るんだ。なんと言われようと帰るんだ
体調が優れないフリでなんとか紅茶から逃げ切り、今は部屋で一人休んでいる。
「はぁ……これからずっとこんな感じなの? ……辛すぎる」
あれから領地に急いで向かったアンドリューとルースティンは伯爵と共にいつもより早く帰宅。
王宮へ登城したことは伯爵にも報告していたので、二人からどんな会話があったのか聞いたのだろう。
アビゲイルも伯爵にアヘンについて報告することは許可を得ている。
報告をすることで婚約者の状態を知られてしまうことになる……
そうなれば伯爵からあの選択を迫られるに違いない。
それでも彼は婚約者の為に、問題に立ち向かうことを選んだ。
アヘンについてや、婚約について……
それでも、彼は伯爵に報告。
「……では、アンドリュー様もお戻りに?」
「はい、そのつもりです」
「そうですか……」
夕食時に私達が近日中にカストレータ家の領地に一度戻る事を報告する。
出発はルトマンス家とブルグリア家の了解が得られ次第ではあるが、伯爵もシュタイン国のカストレータ家の領地に向かう事を了承してくれた。
確信に触れるような内容は使用人がいるため口にしていないが、妙に緊張感のある夕食。
食事が終わる。
「ルースティン、執務室に来なさい」
「はい」
ルースティン一人が執務室に呼ばれる。
どんな話なのか考えなくても分かるので、口を挟むことはしない。
私は部屋に戻り、一人の時間を得る。
「荷物……準備しないといけないわよね……」
無責任なのかもしれないが、私は一日でも早くサーチベール国を抜け出したいと考えている。
マデリーンから遠ざかりたい、アヘン入りの紅茶には巻き込まれたくない。
私はただ、のんびり貴族生活を満喫したかっただけなのに……
今では紅茶も飲めない。
パーティーに行けば不穏なことばかりが耳に入る。
私は何も知りたくないし、何にも関わりたくない。
「今すぐ、カストレータ家の領地に帰りたい……私の安全・安心スローライフは何処にあるの?」
窓に手をつき、月に向かって訴える。




