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早いですね

 翌朝。


「ルースティン様。昨日第四王子とお話する機会がありまして。私からお節介かと思ったのですが、第三王子との面会出来ないかお尋ねいたしました」


「それは……」


「お会いできるか定かではありませんが、第三王子から連絡が来るかと思います」


「ありがとうございます。アイリーンの体調は最近更に悪くなったと感じていたので……」


「まさか何かの病気ですか? 」


 話の流れで質問してしまったが、その質問は家族でない人間がしてはいけなかったのかもしれない。

 貴族令嬢が病気と言うのは、婚約解消に繋がる。

 どう決断するかはルースティンというより、伯爵が決めるもの。

 条件反射で聞いてしまった事が二人の婚約に何かあれば……

 聞いたことを後悔。


「原因は……分かりません」


「令嬢の病気かぁ……」


 伯爵の言葉でルースティンが何かを察したのだろう。

 ビクッと反応したのが視界に入った。


「私も昨日のパーティーで他の令嬢の話を聞いた。病気で領地療養をしていると、まさか令嬢達の間で何らかの病気が蔓延しているのかもしれんな。詳しく聞いてみよう」


「は、はいお願いします」


 伯爵から婚約解消の言葉が出るのかと予想し不安だったが、予想とは違い安堵する。

 病気……

 そうよね。

 同じ環境で過ごしていれば、病気が令嬢達に蔓延してもおかしくない。

 もし、病気であれば令嬢達が快復することを願うばかり。


「そろそろ領地へ行こうか」


「父さん、今日もアイリーンに会ってから向かいます」


「あぁ。分かった」


 朝食を終え伯爵とアンドリューは領地に向かい、ルースティンは婚約者の元へ様子を見てから領地に向かうらしい。

 ルースティンは本当に婚約者を大切にしているのが伝わる。

 二人は親同士が決めた政略的なものと聞く。


「貴族の婚約で上手くいっているのは珍しいのに……私が言うと言葉に重みがあるわね」


 王族主催のパーティーが終わるも、私はまだ領地に戻れないでいる。

 これから私には、第三王子からの連絡を待ち第四王子から呼び出しが来る予定。

 

「パーティー会場で言えない事って何? もう、考えたくなーい」


 私はいつ国に帰れるの?

 

「国が恋しいよぉ……」


 大した思い入れはないですけどね。

 王都の伯爵邸に滞在しても、私にすることはないので伯爵の赤ちゃんに癒しを求めることにした。


「ルイスティーナ」


 ルイスティーナ・フォーゲル伯爵令嬢。

 赤ちゃんの部屋に私が会いに行くと、私の後ろをキョロキョロと見渡す。

 

「えっ、まさか? 」


 子供のうちは口には出せない怖い系が見えるって聞くけど……

 

「私の後ろに何かいる? 」


 怖くて振り向けないよ……

 お願いですからキョロキョロしないで。

 赤ちゃんが周囲を見渡すのをやめると、今度は一切私に興味を無くしたようだった。


「ルイスティーナちゃーん」


 呼び掛けるも全く相手にされず状態。


「ルイスティーナちゃーん」


「う゛ぅ」


 明らかに機嫌が悪い。

 私との相性が本当に悪いのよね。

 嫌われるようなことって何もしてないと思うのだけど。

 悪役令嬢って皆に嫌われるの? 

 そうだとすると、悲しい。


「……もしかして匂い? 私が臭かったとか? 」


 匂いに関しては結構気にしてるつもり。

 

「今日は散歩もしてないから汗かいてないと思ってるんだけど……」


 アンドリューとは仲良さそうなのにね。

 もしかして、アンドリューを探してたとか?


「今日アンドリューお兄様は領地に行ってますよぉ」


 アンドリューの名前を出すと、ギロっと見られた気がした。

 この子、もしや既に言葉分かるのかしら?


「アンドリューお兄様は皆のために働いてますよぉ」


 ウンウンと頷いてる? 

 ……なんだか怖くなった。


「じゃぁねぇ、また来るよぉ」


 急いで赤ちゃんの部屋から逃げだした。

 

「ヤバい」

 

 自身の部屋に急いで向かいながら、受け入れたくない事実に気が付いてしまったかもしれない。

 話しかけた様子から、あの赤ちゃんは多分既に言葉を理解している。

 ここで、ある一つの可能性か浮かび上がった。


「あの子が転生者? 」


 もしかしてヒロインか悪役令嬢のどちらかがあの赤ちゃん?

 とすると……


「私は……結局どんな立場? 」


 伯爵の貧困層改革が成功した場合、あの子はヒロイン? 

 失敗して領民が苦しんでいるにも贅沢三昧したら悪役令嬢よね……


「で、私はどんな位置? 誰にも言わんとこ」


 あの子が転生者ならヒロインも悪役令嬢も私じゃない。

 今回の私は、主要人物の知り合いって立場かしら?

 だとすると……

 

「私は……モブだったのね……モブ……最高じゃない」


 私はやっぱりシュタイン国での悪役令嬢でサーチベール国ではモブだったのね。

 

「モブよモブ」


 ルイスティーナちゃん、私には何もできないけど隣国から見守ってる。

 もし、悪役令嬢側だったら私が逃げ切った方法を話してあげる。

 重要なのは証拠もしくは確かな情報。

 それさえあれば逃げ切れるから。


「私はあなたの味方よ……んふふ……ん? 」

 

 悪役令嬢というポジションから抜け出せたのではないかと喜んでいると外が騒がしく感じる。

 騒ぎのもとへ確認しに行けば、王宮からの使いが来ていた。

 

「もう来たのね、王宮は何事もスピーディーですね」


 ところが、ルースティンは領地に向かってしまったので屋敷にはいない。


「どうしましょう?」


 使用人が困惑している。


「どうしたんですか?」


「アンジェリーナ様、こちらの手紙なのですが……返事を頂きたいとのことで……」


 手紙だけなら貰って終わりだったが返事もとは……


「ルースティンでしたら、婚約者の方の屋敷に向かっていると思うのでそちらに遣いを出してみては?」


「はっ、そうですね。急いで……」


 使用人は、ルースティンの婚約者の屋敷に使用人を送る。


「えっと、応接室でお待ちください」


 王宮からの遣いを玄関ホールで待たせるわけにはいかず、応接室へと促す。


「キャステン公爵令嬢でしょうか?」


「はい」


「ご令嬢宛ての手紙も預かっております」


「私にもですか? 」


「はい、こちらです」


 あぁ、第四王子。

 すっかり忘れていた。

 ヒロインと悪役令嬢はまだ赤ちゃんだから事件イベントは起きないでしょう。

 私の勘違いだったので安心して手紙を受け取る。


「はい」


 内容を確認すれば「三日後の正午過ぎに王宮に」と書かれていた。

 あの時、アンドリューも「同席する」と話していたので私一人で予定を決定するのには躊躇いがある。

 悩んでいるとルースティンが帰ってきてくれた。


「ルースティン様、こちら王宮からの使いの方です」


「そうなんですね、お待たせいたしました」


 ルースティンは使いの者に寄り手紙を受け取る。


「とんでもございません」


「すぐに返事を、アンジェリーナ様はどうされますか? 」


「私の方は『三日後の正午』とあるのですが、お兄様も同席する予定ですので私の一存では難しく……」


「そうなんですね。三日後であればアンドリュー先生も休みを取れると思います……では僕の方も三日後の正午に伺います。万が一先生が同席出来なかった場合、僕が代わりに同席させていただきます」


「いいのですか?」


「僕は構いません」


「では、私の方はお兄様が同席出来なかった場合ルースティン様の同席を許可頂けますか? 第四王子と二人きりでは周囲に誤解を与えてしまいますので。もし条件が叶わなかった場合、次はアンドリューを交えて予定を決めさせていただきたく思います」


「畏まりました」


 使いの者は王宮へ戻っていった。


「ルースティン様、婚約者様はその後の様子はいかがです?」


「アイリーンは咳や熱が有るわけではないんです。本人からは倦怠感が続き最近は不眠症気味だと。僕が気になったのは鼻を啜ることが多くなり瞳も潤んでいる状態です」


 咳や熱がないって事は流行り病とは考えにくいよね。

 なんだか花粉症の症状に似ていなくもないが……

 違うよね?

 となれば、もっと重い病気とか?


「身体の何処かが痛いとか吐き気がすると言うのは? 」


「痛みは感じていないと言っていました」


 ダメだ素人にはそれだけ聞いたんじゃ病名なんて出てこない。

 こういう時は医者転生物語っしょ。

 私は普通の人だから無理よ。


「お医者様の診察はなんて? 」


「診察してもらったそうですが、原因は不明だと……」


 原因不明……

 不治の病と同じくらい辛い。


「そうなんですね。やはり第三王子に伺ってみた方がいいですね。王族御用達のお医者様を紹介していただけないか尋ねてみてもいいかと……」


「……そうですね」


 明らかに気弱になっている。

 この状態の人に気安く慰めなんて出来ない。

 令嬢に万が一の事があったりしたら……


「……そろそろ僕は領地に向かいますね。王宮から手紙があり三日後の正午伺うことになったと先生には伝えておきます」


「ありがとうございます。では、お願いします」


 しまった……

 逆にルースティンに気を使わせてしまった。何をやっているんだ。

 転生してるからって病気の知識なんてこの国に住んでいる人とそうかわりないし、どんな病気が分かったとしても薬を作れるわけでもない。


「現代人の知識なんて転生先では役に立たないわね……」


 現代人は病院に行って薬を貰うか、ネット検索でサプリメントを通販するかの二択でしょ。

 きっとヒロインなら原因を偶然見つけたり、聖女っぽい力で治したり出来るんだろうが悪役令嬢の私にそんな能力は無い。

 

「同じ転生者なら私にもその力を少し分けて欲しい。どうしてチートって、ヒロインにしか許されないの? 


 ヒロインを認めさせる為に否定していた人間の周囲に怪我や病気の人が現れ助かる……

 悪役令嬢の周囲の人間は助からないの?

 

「ヒロインと悪役令嬢は平等にしてよ。ヒロインはずっと幸福で、悪役令嬢には不幸にしかないの?」

 

 努力しても認められるのはヒロインで、悪役令嬢の努力は認められないただの引き立て役。

 物語を盛り上げる為なのかもしれないけど、人生平等にして欲しい。

 多少不幸多めの人生でも、幸福が有れば生きていける。

 幸福が続いていれば、不幸になっても乗り越えられる。

 幸福が無い人生と知らされたら、もう頑張れない。

 後もう少し頑張ったら幸福になれたかもしれないのにって言われたとしても、そこを生きてる人間には幸福はずっと先の未来にあるかもしれないという状態。

 あまりにも不公平な人生だと希望さえも見えなくなる。

 物語の悪役令嬢は不幸で人生を終える……

 

「私はどう頑張っても幸せになれないの? 」


 例えヒロインを邪魔しなかったとしても不幸にはならなくても幸福にはなれない? 

 私はいくら自分は悪役令嬢ではない、モブだと思い込もうとしても心のどこかでは諦めている。

 

「私はいつまで経っても、悪役令嬢のアンジェリーナ・カストレータ……」


 領地からアンドリューが戻る。


「三日後は私も同席する」


「予定は大丈夫なのですか?」


「問題ない。伯爵にも許可を得ている」


「お兄様が一緒に来てくれたら、安心です」


 私が粗相をしても、お兄様ならフォローしてくれるはず。

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