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この世界は私の思い通りにいった試しがない

 いつまでも控え室にいるわけにはいかず、会場へはアンドリューの二人で戻っていた……はずなのに気付きゃ傍に第四王子もいる。


「どうして?」


 さっき何処かへ行きましたよね?

 控え室を出て行く時に、左右に分かれましたよね?

 何故今一緒にいるの?

 なんだか距離近くありません?

 私としては、誤解されたくないんですけど……

 もう、用は済みましたよね?

 あのう……


 私、目立ちたくないので遠くに行っていただけませんかね?


 兄と三人とはいえ、婚約者のいない第四王子と一緒に歩いているのを目撃されてはなんて噂されるのか考えるまでもない。

 王子はダンスのパートナーとしてマデリーンを選んだのよね?

 なら、マデリーンと一緒にいたらいいのではいか?

 なのに何故私といる? 

 私を乙女ゲームに巻き込まないでいただけます?


「むぅぅ」


 多くの疑問が生れ王子に視線を向ける。

 王子は十六歳ではあるが、百七十センチは超えている。

 ヒールを履いている私よりも背が高い。

 私と目が合うと、王子はニコッといたずら的な笑みで微笑む。


 何を勘違いした?

 そうじゃないんだよ。

 王子には伝わらないと感じアンドリューとの距離を縮める。


「大丈夫」


 私の思いが伝わったかは分からないが、アンドリューに縋る。

 だが、私が会場に戻るや否や恐ろしい人物が近づいてくる。


「アンジェリーナ嬢」


 声をかけてきたのはミューリガン公爵夫妻。


「ミューリガン公爵様、この度ドレスを贈っていただき大変感謝しております」


「まぁ、こちらがあの……? 」


 夫人の発言から、公爵のパーティーで被害に遭ったのが私と言いたかったのだろうか?


「あぁ、そうなんだ。ドレスとても似合っているね」 


「そう言って頂き何よりです」


「ワイアットもここにいたんだね、今日はダンスしたの? 」


 兄弟の会話に私が反応して良いものか悩むも、目の前でされては聞こえてしまう。

 第四王子はダンスの話をされ眉間に皺が寄るのを確認できた。

 だけど彼が先程マデリーンとダンスをしていた。

 ヒロインとダンスしたにしては怪訝な表情……

 それでも、他の令嬢とダンスしたくないのであれば『先程しました』って言えば良いのに。

 何故、何も言わない?

 素直に認めれば兄の追及から逃れられ、前回のようにはならないはず。

 早く断ってしまえばいいのに。

 嫌な予感を察知。

 第四王子の断れない様子に、巻き込まれないうちにゆっくり彼らの視界から存在を消させていただく。


「はぁ、全く。アンジェリーナ嬢よろしいかい? 」


「はい? 」


 何故私の名前が呼ばれた?

 この流れは前回と同じではないか……

 第四王子、先程ダンスしましたと正直に言え。

 それだけで良いんだ。


「アンジェリーナ嬢、ワイアットとダンスしていただけないか? 」


 うわぁー来ちゃったよ……

 マデリーンとダンスしたって正直に話せばいいのに……

 話せない何かでもあるの? 

 ヒロインによくある乗り越えるべき障害か? 


 どんなに頭の中で第四王子を責めたところで、私としては隣国の公爵から誘われたら断れない。


「……ダンスの思い出が私でよろしいのですか?」


 あの事の記憶が私で上塗りされてしまうわよ……と遠回しに訴える。

 彼は兄に対して逆らえない何かでもあるのだろうか?

 それでも確り断ってほしい。

 第四王子に向き直れば、見開いた目で兄を見つめている。

 嫌ならハッキリ『嫌だ』と言いなさいよ。

 私を巻き込むのは止めて。

 これで、ヒロインに目を付けられ悪役令嬢認定されたらたまったものじゃないわ。


「ん……だ、ダンスを……」


 何?

 どうした? 

 第四王子緊張してんの?

 先程まで普通に話していたじゃない? 

 ダンスだって私たちは二回目だし、あなたは先程もダンスしていたじゃない?

 何?

 本当にどうしたの?

 やめてよ、こっちまで身構えるじゃない。

 次のダンスに何か深い意味でも?

 まさか、生贄が決定するとか?

 私、そんなの嫌ですからね?


「ダンスをいいか?」


 ……誘われてしまった。

 保護者たちの前で断ることも出来ず……


「……はい」


 第四王子のエスコートでダンスホールへと再び足を踏み入れることになってしまった。

 ミューリガン公爵の登場の時点で多くの視線を集め、更に第四王子にエスコートされた事で視線から逃げることは不可能。

 言うまでもないが本日はミューリガン公爵から頂いたドレスと宝石を身に付けている。

 身に付けないという選択肢は私には無い。

 それらは、当然ながら良いものだろう……

 第四王子との二回目のダンス……

 二回目となると、周囲も私を警戒。

 怖い……怖い……怖い。

 令嬢達からの視線が怖い。


 憧憬、切望、願望、羨望、嫉妬。

 令嬢達の包み隠さない感情丸出しの視線が突き刺さる。

 もう、悪役令嬢卒業したいです。

 誰か……

 代わって……

 お願いだから。

 この視線の中、ダンスが何事もなく無事に終えられるのか不安。

 私、初心者なのに……

 

「大丈夫……大丈夫」


 大丈夫、大丈夫あんなに練習したんだもん。

 さっきだってアンドリューと問題なくダンス出来た。


「令嬢?」


 曲が始まり第四王子との距離が縮まる。

 第四王子は前回のように私の耳元で指導してくれようとしたが首を振る。

 彼は困惑気味な顔で私の様子を窺う。

 その様子から見て、一曲目のダンスを私が既に無事に終えているのを知らないよう。

 あんなに大勢いて私を見て欲しいとは思わないが、少し悔しくもあった。

 私がダンス出来ないのを知るのはアンドリューとルースティンにフォーゲル伯爵夫人、そして第四王子だけだ。

 この短期間でダンスを修得した事を驚き誉めてくれる人間はたったの四人だけ。

 そのうち三人は攻略済み、残すのはこの男のみ。

 言葉には出さないが


『さぁ、私のダンスを誉めなさい』


 視線を送る。

 ダンスが進み次第に自信が溢れてくる。

 ニヤ付けてしまうのを必死に我慢するも口角が上がるのを抑えられない。

 私がダンスが出きるようになっていたことに驚きの顔をする第四王子を見逃さなかった。


『フフフすごいでしょ、私。これが悪役令嬢の真の実力、本領発揮よ』


 視線で彼に訴える。

 私の思考を読み取ったのか、第四王子もニヤっとしたように見えたが気のせいか?

 今自慢げに出来るのは私だけのはずなのに。

 本当に出来る人なら彼の態度に挑発されダンスで振り回すのだろう。

 ポンコツ悪役令嬢の私にはそんな芸当出来るはずもなく、失敗なく終えるのが目標。


「ふぅぅぅ」


 私としては完璧といえるダンスをやり切った。

 第四王子にエスコートされアンドリューの元へ視線を送れば、そこにはミューリガン公爵だけでなくフォーゲル伯爵にフルーリング侯爵夫人も勢揃いしていた。


「何この面子……」


 戻ってこない方が安全だったのでは?

 誰か『私をダンスに誘ってくれないかなぁ』と辺りを見渡せば、ギロリと獲物を狙う女ハンター達の姿が目に入る。

 逃げ道を見出だせず、結局第四王子のエスコートで彼らの元へ行くしかなかった。


「お二人とも素晴らしいダンスでしたわ」


 すぐに私達を迎え入れたのはフルーリング侯爵夫人。

 第四王子は軽く会釈。


「ありがとう存じます」


「もっと見ていたかったくらいよ」


「お褒めに与り光栄です」


 数日の練習でそこまで褒められる出来栄えではない。

 貴族が褒めるのは社交辞令であるので、そこは謙遜することなく受けとるのが礼儀。

 人間関係を円滑にするための潤滑油で深い意味はない。

 私はこの国の者ではなく、いずれシュタイン国に戻る他国の貴族という立場。

 喩え目の肥えた夫人からしたら私のダンスを『拙い』と感じたとしても、そこは波風立てずにやり過ごすのが世渡りというもの。

 この場にいる皆さんが考えているのはシュタイン国との良好な関係だろう。

 それしかない。私のダンスを純粋に褒めてくれる人はもういない。

 いつまでも第四王子の手を取っていたことに気付き、離そうとすれば逆に掴まれ引き寄せられた。


「ぇっ」


「素晴らしいダンスでした。短期間でよくここまで、驚嘆致しました」


 耳元で囁かれ第四王子は離れていく。

 わざわざそれを言う為に一度引き寄せ耳元で告げるなんて……

 確かに、私がダンス下手だったのを周囲に聞かれては私の名誉が損なわれると気遣ってくれたのかもしれないが、周囲に誤解されるような大胆な行為。

 振り向くのが怖い。

 令嬢達の視線が背中に突き刺さる。

 だけど、それだけではない。

 今の私は耳が熱くなるのを手で覆い、恥ずかしさをアンドリューの背で隠す。

 私達の姿を様々な人間が様々な思惑で見続けている。


「はぁ……やっと……」


 第四王子との接触がなくなると、周囲の厳しい視線からも解放される。

 パーティーは程無くして幕を閉じ、私達は伯爵邸へ戻る。

 王族のパーティーではなんとか問題もなく終えられたのではないだろうか。

 パーティーの最中、ルースティンと会話することが出来なかったので第三王子の事を伝える事が出来ずにいた。

 

「屋敷に帰ったら忘れずに報告しないと」


 伯爵に確認したところ、ルースティンの婚約者は体調が回復することがなく途中退出していた。

 体調の悪い婚約者を一人にするのを不安を感じたルースティンは、婚約者と共に屋敷まで送っている。

 初対面の私でも令嬢の体調は気になっていた。

 それでも王族のパーティーに参加しなければならない貴族は大変だと思う。

 第三王子の事はルースティンが帰ってからでも遅くないだろう。

 明日の朝食時でも間に合うはず。

 

「忘れないようにさえすれば平気よね」


 今日はもうこの苦しいコルセットを脱ぎ、化粧を落としベッドで眠りたい。


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