去り際は美しく
周囲の反応が私の想像通りの展開となりニヤつくのを我慢することに集中し、私は表情を整えてから頭を上げる。
「王子」
「はいっ」
私としては王子を優しく呼んだのだが、とても良い返事で返された。
私は王子の上官でもなければ両親でもないのでそのような返事をされなくてもと思ってしまう。
この短時間でどれだけ見下していた私に恐怖を抱いたのかしら?
その事を思うと満足げに笑いそうになるのを必死に堪える。頑張れ私。
「この後、どうなさるのですか? 」
「……この後とは? 」
王子は許容範囲を超えたのか、自身が何を発言してこのような状況になったのかを思い出せないでいるよう。
「私は婚約破棄を受け入れます。そしてマーベル様に対して行った様々な嫌がらせも認めます」
そして話はスタート地点に戻る。まるで人生ゲームね。
「あっ……えっと……」
王子は側近二人に視線で助けを求めるが、二人も何も言わない。
私が婚約破棄と嫌がらせを認めたことで、場内の者は固唾を呑んでこの後の展開を待っている。
待っているにもかかわらず、この男は動揺しすぎでこの後どうすれば良いのか頭が回らない様子。
私が王子の『真実の愛』の相手に嫌がらせした事実は認め彼らの計画通りに進み万々歳。
なのに、優れない様子なのは何故なのでしょう?
全く分からないわぁ……嫌味です。
「王子の『真実の愛』の相手である令嬢に嫌がらせをした婚約者の私をどうするおつもりですか? 処刑ですか? 追放ですか? それとも慈悲で修道院でしょうか? 王子が指示を出さなければ控えている騎士は動きませんよ? 」
婚約者を卒業パーティーで断罪し、罪を認めさせた。
処罰を決めなければこの場が終われないことに気づいていないようだったので教えてあげた。
「あっ……処罰は……その……」
断罪を勢いで言ったのか、処罰を言い切れない王子はその続きをなかなか口にしない。
いつまでもこの状況では関係のない人間は卒業パーティーを楽しめないでいる。
「分かりました。私は地下牢におりますので罰が決定しましたら報告ください。そこの衛兵、私を地下牢へ」
声を荒げるような無様な醜態を晒す悪役令嬢になるつもりはなく、潔く凛として退場する。
事前打ち合わせ等していないだろうに、悪女の歩く道が開かれていく。
私の勢い任せの一人芝居だったにしては上手くいったのではと満足して立ち去る。
その姿に、ここにいる誰もが悪役令嬢の強さに心を奪われていた。