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忘れた頃に、まさかの目撃

あれは……

 見間違いじゃないですよね? 

 あの方は私が気になっていた本人ですかね? 

 それともそっくりさんとかでしょうか?

 久しぶりに見た。

 ピンクブロンドの髪にピンクの瞳、目元の黒子……


「王族のパーティーで目撃するなんて……」

 

 これは始まっているのかもしれない……あの子がヒロインで私が……


「悪役令嬢」


 この世界では、私をどうにかしてでも不幸にしたいみたい。

 いい気分だったのに、一気に酔いが覚める。

 記憶が戻った瞬間、断罪中。

 心の準備どころではなく状況を理解するよりもその場を乗り切る事に必死だった前回とは違い、今回は確り理解できてしまっている。

 余計な余裕が私に恐怖を植え付ける。

 熱を帯びていた身体が急激に冷えていくのを感じた。


「嘘でしょ……」


「少し疲れたな、控え室に行かないか? 」


 私の変化にアンドリューはいち早く気付き、会場から控え室へ移動を促す。

 あの事には触れず、誘ってくれる。

 アンドリューが他国とはいえ、開始早々のパーティーに疲れる事はない。

 パーティー中に他国の貴族の私達が会場を離れた事に誰も気にしない。

 気付いたとしても、それはアンドリューとダンスをと狙っている令嬢くらい。

 その令嬢も今は第四王子の登場にそちらに照準を合わせている。

 どの貴族でも出入り可能な控え室に入り、ソファーにゆっくり沈み混む。


「大丈夫だ」


 アンドリューはそれだけ言い、その後は静かに横にいてくれる。

 やはり、会場を抜け出したのは私の為と予想。

 アンドリューの優しさを有り難いと思いつつ。今目撃した光景が頭から離れないでいる。


 私が先程見たのは見間違いじゃないのよね? 

 あれはやっぱり、私の知っている女よね? 

 王宮のパーティーにいるってことは、あの女は令嬢ということ?

 他国で追放されてこんな短時間で令嬢になるのは……

 誰かに成り代わっているとか?

 それともどこかの貴族の養女になったの?

 ……あの女は何処に行っても、養女となりヒロインになれるのね……

 ヒロイン補正?

 なら、私は何?

 私は……また、悪役令嬢なの? 

 なんだか、頑張れる気がしない。


 もし、この世界にも元のストーリーがあるとしたら……

 私の人生は……

 前回はなんとか王都追放で免れたけどまた運よく逃れるなんて思えないし、それに同じ手は使えない。

 そもそも、今回の私はこのゲームの予備知識がない。

 なんの知識もない悪役令嬢なんて、不利でしかないでしょ。

 悪役令嬢の末路なんて、良くて修道院・没落・国外追放……そして、暗殺・毒殺・処刑……

 私の周囲だけ気温が下がっていくように寒い。


「……アンジェリーナ……アンジェリーナ」


「は、はい」


 呼ばれたのよね?

 今後の展開を考えると、深い暗闇に引きずり込まれてしまいそうになっていた。

 悪役令嬢が堕ちる闇に無意識に吸い込まれていたのかもしれない。


「何か温かい飲み物を頼むか? 」


 気付けばアンドリューの手が私の手に重ねられ、温もりを感じる。

 彼の手の温かさで、私の手がとても冷たくなっていたことを知る。

 アンドリューは私を助けてくれるが、私はアンドリューを没落に巻き込む以外何かできただろうか? 

 私がおかしな動きをしなかったら、アンドリューは隣国であるこの国で私に巻き込まれずに幸せになれたのかな? 


 私としては今の状況のまま、こうしていたい……

 けど、わかってる。

 いつまでも逃げ回っていても結局は運命に捕まってしまう。

 ヒロインと悪役令嬢は必ずどこかで対峙しなければならない。

 きっと、飲み物を飲んだら会場に戻り、第二章が始まるのかもしれない。

 一度気持ちを落ち着かせて、戦場に戻ろう。


「……はい」


「行ってくる。アンジェリーナはここに」


 返事をすればアンドリューは部屋を出ていく。

 使用人に声をかけ、温かい飲み物を頼んでくれているに違いない。

 一人になると再び不安と恐怖に襲われる。

 今の私は悪役令嬢のようにヒロインに嫌がらせをするつもりはないが、強制力と言うものがある。

 ヒロインは何処に行っても養女になるように、私も何処に行っても悪役令嬢なのかもしれない。

 だけど結末を変えることは出来るかもしれない……

 前回のように。

 

「悪役令嬢ってヒロインへの嫌がらせと、何してたっけ? 」


 それさえしなければなんとかならないかな? 

 悪役令嬢がヒロインにする事ってなんだ? 

 嫌がらせ、嫌がらせ、嫌がらせ……考えろ。

 確かパーティーでは飲み物をかけるんだっけ?

 ドレスをダメにしたりドレスや宝石を侮辱するのよね。

 後は男達にヒロインを襲わせたりしていたのは……

 あれ?

 それって、このゲームだったっけ? 

 落ちつけ、落ち着け。 

 

「だけど考えれば考える程、どの悪役令嬢も性格悪くて最低よね」


 悪役令嬢はそれらをしなければ助かるのだろうか? 

 私がこのまま会場に戻らないという選択を選べば、ヒロインのドレスに飲み物を掛けるという事もないだろう。

 あれ?

 ……怖い。

 もうすぐ私の手元には温かい飲み物が届くのよね?

 もしここにヒロインが来たら?

 休憩しに来たとか、部屋を間違えたとかでこの部屋に入り、それでこれから来る飲み物が万が一ヒロインに掛かってしまったら……

 どうなる?

 故意ではなく偶然だったとしても、誰が証言してくれる?

 ここにヒロインが来ない保証なんて無いし、飲み物がかからないということも……

 考えれば考えるほど、一人でいるのは危険なのではないかと心配になる。


「お願い……アンドリュー早く帰ってきて……ひゃっ」


 突然のノック音に変な声を上げてしまった。

 ……誰かが来た。

 誰が来たの? 

 怖くて返事も出来ない。


「アンジェリーナ? 大丈夫かい? 入るよ? 」


 アンドリューだった。

 良かった。


「はぁい、大丈夫です」


 声が震えてしまった。

 ソファーから立ち上がり扉の向こうにいるであろうアンドリューを出迎える。

 私が扉を開ける前に扉が開く。


「え? 」


 扉の向こうにはアンドリューが居たが、他にも見知った人物がいた。


「……なぜ、第四王子もご一緒に? 」


 首を傾げてしまった。


「飲み物を頼んだ帰りに物影に隠れているワイアット王子を見つけた」


「なっ隠れたいたって、失礼だな」


「では、逃げ回っていたのですか? 」


 第四王子はアンドリューの追及に応えられなくなっていたのを見るに、きっと令嬢からの終わらないダンスの誘いから逃げてきたに違いない。

 あの時のように……


「ワイアット王子を仕方なく保護してきた」


「……先程から俺に対して失礼だとは思わないか? 」


 確かにアンドリューの第四王子に対する返しは失礼に当たる気もする。

 年齢を考えれば問題ないのだが、相手は王族……許されることなの?


「事実かと、それでは会場にお戻りになりますか? 」


「……ここにいさせてください」


 第四王子とアンドリューの言い合いはアンドリューが勝利し、第四王子は小声で敗けを認めた。

 それでもヒロインではなく私としては安心。

 もし何かあったとしても、第四王子であれば公正な証言をしてくれるはず。

 私は安心して、部屋に二人を招き入れる。

 ここは私の部屋ではないが、先にいる私に主導権があるようだ。

 程なくして使用人が訪れ、紅茶を用意してくれる。

 それから三人で謎のお茶会になった。


「えっと……気分はどうだ? 」


 アンドリューから聞いたのか、第四王子に心配された。


「はい、緊張していたみたいです。今はもう平気です」


「そうか……」


 なんだ?

 この気まずい空気。


「そのドレス……」


「はい、ミューリガン公爵様に頂きました」


「……よく、似合っている」


 令嬢のドレスを褒めるのは紳士の嗜みだと聞いた。

 王子の言葉もそのまま受け取ることなく、社交辞令だと彼の様子から分かる。

 きっと、兄のミューリガン公爵にその辺のことを揶揄われながらも仕込まれたに違いない。

 

「ありがとうございます」


 王子の緊張している様子を不審な目でアンドリューが見ていることに私も気付いた。

 王子の様子に気を取られつつも、紅茶を飲み終えてしまえば会場に戻るのかと憂鬱になりここでの会話を引き伸ばせばヒロインと対峙せずに乗り切れるのではと考え実行に移す事にした。

 何か盛り上がりそうな話題。

 何か……何かないかな……

 そうだっ、あれだ。


「第四王子にお聞きしたいのですが、第三王子はお忙しいのでしょうか? 」


「……アビー兄さん? まぁ、程程に」


 急に第三王子の話になった為、第四王子は分かりやすく私を疑っている。

 まさか、私が彼を『狙っている』と思われているのかしら? 

 婚約解消の話をし、婚約はこりごりと話をしたが疑われてしまったかもしれない。

 婚約をしているとはいえ隙あらば王族との縁を持ちたいという令嬢は口に出さずとも数多くいる。

 私もその一人と思われたのかもしれない。


「そうなんですね、共にお茶などする時間有りますかね? 」


「……アビー兄さんには婚約者が居ますよ」


 予想通りの反応。

 完全に私が婚約者のいる第三王子を狙っていると疑っている鋭い視線。

 私が婚約破棄されたの忘れているのかな? 

 それとも、傷心のあまりなりふり構わずと思われていたりするのかな?


「えぇ、婚約者様の事をお聞きしたくて」


「アビー兄さんと婚約者の仲は問題有りませんよ」


 あれーまだ勘違いしてるよ、この人。


「私がお世話になっているフォーゲル伯爵のご令息が第三王子にお尋ねしたいことがあるそうなんです」


「フォーゲル伯爵の……」


 第三王子に用があるのは私ではなく令息だとわかると、すぐに態度を軟化させてくれる。

 第四王子は「お兄ちゃん思いの子なんだなぁ」と印象を受ける。


「ルースティン様なのですが、本日会場にはいらっしゃるのですが婚約者の方が体調が優れないように見えましたので個人的に挨拶に行けるかどうか難しそうだったのでお尋ねしたのです」


「そうなのか、では今こちらから……」


 第四王子は今すぐにでも兄を呼んできそうな勢いだった。

 有り難いのだが、こちらの準備ができていない。


「王子、それがですねこのような場で話せる内容では……」


「その内容私が聞いても? 」


 ここでは話せない内容と聞き第四王子の興味を引いてしまった。


「フォーゲル令息の婚約者様の事なので、私からこれ以上はお話しできません」


 プライバシーにかかわる事なので私の口から婚約者の令嬢の話をするわけにはいかない。


「……そうだな、わかった。ではアビー兄さんには私から伝えておく」


「申し訳ありません、ありがとうございます」


「令嬢には前回のパーティーでの事もあったので……」


 前回とはなんだ? 

 ……あっ、在籍の事実のない留学生の話?


「前回の……あっ、いえ私が軽率な発言をしてしまいもうしわけありません」


「違うんだ……もしよければ令嬢には王宮でゆっくり話す時間を頂けないだろうか? 」


「王宮……ですか……?」


 他国の王宮に招待だなんて……


「その時は私も参加致しますが宜しいですか? 」


 王宮に呼ばれたことに身構え返事が遅れると、今まで一言も口を挟まなかったアンドリューが会話に入る。


「婚約者のいない王子に呼ばれ二人きりで会ったとなれば有らぬ噂を立てられます、私も同席致します」


「構わない、近いうち使いの者を送る」


「畏まりました」


 あら?

 今、王宮に向かう事が決定しました?

 まぁ、アンドリューも一緒であれば安心だけど……

 これで、問題の一つが解決するのであればいいですけど。

 なんだか王子も先程より安心しているようにもみえる。

 もしかして前回の私の発言をずっと気にしていたのかしら? 

 留学生の存在を否定するだけして、言い逃げしてしまい申し訳ないわ。

 きっと、その後留学について確認してくれたに違いない。

 そちらも解決したとすると、残すはヒロインとの対峙のみ。

 

「あぁ、紅茶が飲み終わってしまった……」


 紅茶を飲みきるまではと先延ばしにしていたが、その紅茶も飲み終えてしまい会場に戻る頃合いだと項垂れる。

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