王族は絶対チェスとか強いと思う
ミューリガン公爵との約束の日。
私はこの日を待ち望んでいた。
この日が過ぎれば私はもう帰れるんだ。帰りたい……
フォーゲル伯爵家は朝から大忙し。
ミューリガン公爵が現れるということで、昨日から掃除の気合いがすごいすごい。
謝罪に来るのにおもてなしの準備が施される。
奇妙な光景。
ミューリガン公爵が到着される十分前から皆さん出迎えの準備が整っております。
使用人に伯爵、夫人とアンドリュー、かく言う私も確りと待機しております。
「おぉ、ミューリガン公爵家の馬車が来ました」
馬車だけでも威圧感が半端無いです、謝罪される側なのに緊張してきました。
やはり相手が王族だからですかね、正直怖い。私達は一斉に頭を下げ出迎える。
馬車の扉が開き、公爵が降りて来るのが分かる。
「面をあげてくれ」
言われるがまま頭を上げれば、あの時の整った顔の男性がいた。
「本日は時間を取って頂きありがとう」
「いえ、滅相もない事でございます」
謝罪に訪れた公爵を出迎えているのだが、雰囲気に飲まれ立場があべこべに感じる。
爵位が優先される貴族社会なので、謝罪であってもわざわざ公爵が訪れて頂いたので家族? 総出でお待ちしている。
私の頭では、何が正しいのか分からなくなっている。
「令嬢にも迷惑をかけたね」
うわぁ、こっち来た。
「いえ、私も替えのドレスまで用意していただいたのに途中退出してしまい申し訳ありませんでした」
「令嬢に非はありませんよ」
とっても素敵な笑顔。
この笑顔に多くの人が惑わされたのではと勘繰ってしまう。
ダメダメ下世話人間。
今は出てこないで。
「公爵様ここでの立ち話もなんですし、どうぞ中へ」
「そうですか、それでは」
伯爵の言葉で大名行列のように応接室へ向かう。
もう謝罪が終わったような気もしなくもないが、まだなにか有るんですか?
公爵様に伯爵、夫人にアンドリューそして私の五人が席についた。
「アンジェリーナ嬢、パーティーでは我が家の使用人が申し訳なかった」
「いえ、私はなんともありませんでした。ですが、あのドレスは夫人の物なのです」
「ええ、もちろん。夫人に対しても謝罪致します。貴重なドレスを汚してしまい申し訳なかった」
私が夫人の物と発言したので、会話は公爵と夫人に流れる。
「いいえ、故意でないのであれば受け流すのが貴族です。あまり深刻になさらないでください」
へぇ~そういうものなんだ……
よくある物語では、ドレスを汚された方は激怒し、不注意であったとしても汚してしまった人は顔色を青くして何度も謝罪していた。
それでも許されず社交界から遠のいたり、より身分の高い相手が現れない限りその場が収まることは無い。
私が見てきた物語が偏っていたのかもしれない。
良識ある人達であれば、事を荒だてないのが品位なのかもしれない。
「そう言って頂けて何よりです、先日のドレスはこちらで洗濯させていただきました」
公爵が連れてきた使用人に合図をすれば、使用人は持っていた大小様々な箱を三箱テーブルに置く。
はい。
それずっと気になっておりましたぁその箱達。
「こちらがドレスです、そしてこちらの箱がお詫びの品です。受け取ってくれないだろうか」
確かに大きな箱には私がパーティーで着ていたドレスが丁寧にしまわれていた。
そして小さい箱を開ければ、子供の頃に遊んだおもちゃのように大きく光輝く宝石がついたネックレスが現れる。
公爵の謝罪の品……偽物……なわけないですよね。
王族が謝罪に来て、偽物を渡すなんて事は……無いですよね。
……お詫びの品にしては凄すぎません?
「こちらが伯爵夫人、こちらは令嬢にだ」
夫人と私、二人分用意されている。
あれ?
私、パーティでドレスは夫人の物と話しただろうか?
混乱しすぎて自分が何を話したのかさえ覚えてない。
目の前の謝罪の品を見つめて混乱している。
これは本当に私が受け取ってい良いものなのだろうか?
いや、受け取れないでしょう……これは。
謝罪にしては絶対貰い過ぎだもの……「受け取ってくれないだろうか」って言われて、受け取れます?
こんな大層なもの。
もしや、今私達は試されている?
遠慮なく受け取れば図々しいとか、拒絶を見せて宝石に目がくらんでいないのかとか。
それくらい、謝罪の品だという宝石は豪華すぎる。
これ程の宝石、貴族なら当然のように受け取るものなの? と疑問に思い夫人を見れば、夫人も驚きを隠せないでいる様子。
やはり、この謝罪は大袈裟すぎる。
「これは少々頂きすぎなのではありませんか? 」
私達の気持ちを読み取った伯爵が遠慮がちに発言する。
そうよ、伯爵。
頑張って。
「いえ、これは私の気持ちなので是非受け取って欲しい。詫びに来ておきなから烏滸がましいのだが令嬢にはこれを」
公爵の胸ポケットから手紙を渡された。
私に?
緊張しながら受け取れば、見知らぬ家紋の印が目にはいる。
「王族からだな」
隣にいたアンドリューが小声で教えてくれた。
王族……
私とサーチベール国の王族にはなんの接点も無い……
嫌な予感しかしないんですけど……
恐る恐る丁寧に手紙を開ければ、招待状が出てきた。
「令嬢には突然かもしれないが、毎年この日は王宮でパーティーを行う。令嬢も是非参加しては頂けないだろうか? 我が国の貴族には既に一ヶ月前には招待状を出していてね」
「あぁ、私にも既に届いている」
王族自ら招待状を届け、兄であるアンドリューにも渡し、目の前で参加の有無を問われて断れる貴族は居るのだろうか?
「私が参加してもよろしいのでしょうか? 」
「もちろんだ。シュタイン国の貴族であり、領地経営に興味があり隣国まで学びに来る優秀な令嬢にもぜひ参加していただきたい」
あっ、なんか勘違いされてる。
私が隣国まで訪れたのはアンドリューが変な女に引っかかっているのではないかと確認する為で、領地経営は偶然というか……全く興味ありません。
誤解なんです。
でも……もう、断れないですよね……これ……
「……とても光栄に思います。参……加させていただきますわぁ……はは」
乾いた笑いが無意識に出てしまった。
私の心の中は……
うわぁ、またパーティー?
しかも、今回は王族?
なんで?
どうして?
帰りたい。
だ。
「それとドレスはこちらで用意する、三日前には届くようにするのでドレスの心配はしなくていい」
「そんなっ、ドレスまでご迷惑おかけするわけにはいきません」
「いや、これは……令嬢に受け取って貰いたい。そこでネックレスも一緒に身に着けて参加してほしい」
うわぁぁぁ……
逃げ道はありませんね。
「ネックレスも一緒に着けて」なんて、謝罪の品は一つで充分なのでネックレスを断ろうとも思ったのに断れなくなってしまった。
王族って相手の逃げ道塞いで思いどおりに動かすのお上手なんですねぇ……
怖いです。
「恐悦至極にございます」
私、今ちゃんと笑えてますか?
目のあたりがピクピクしているのは気のせいですか?




