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まさに乙女ゲームが始まるのか?始まっているのか?

「凄い形相だね、もしかして踊れなかった? 」


 笑顔が凍り、瞬きで肯定した。


「大丈夫、俺に合わせて」


 私の張りぼての公爵令嬢という立場を守るために周囲に聞かれないよう耳元で囁かれた。

 第四王子の行動が周囲の人間に多大な勘違いを及ぼしていることに想像が及ばないほど、ダンスで失態を犯すのではないかという不安が私を支配する。

 私は今ダンスをどう乗り切るかで頭が一杯で、笑顔なのか泣き笑いなのか自分でも分からない。

 周囲に悟られないよう振舞うも、手が震えている事で第四王子には伝わってしまっているだろう…… 


 音楽が始まりなんとか第四王子に合わせる。

 王子から耳元に小声で教わりながらダンスをする姿は通常よりとても近い距離でダンスをする二人に映り、最後の王子の婚約者の座を狙っている者の心をざわつかせた。

 ドレスのお陰で足元が見えず、多少バタついても誤魔化すことが出来たと思いたい。

 自身の事に必死だったのだが、ダンスが終わってから『王子の足を踏んでいなかったよね? 』と不安が過る。

 なんとか終わり、礼で締めくくる。


「今度は俺を助けてくれますよね? 」


 なんの事か予測出来ないまま、差し出された手を再び取ってしまった。

 手を握り返され、人波を縫ってテラスへ移動していた。

 先程の『助けてくれますよね? 』は、令嬢からのダンスの誘いを断るのを『助けてくれますよね? 』だった。


 第四王子を獲物として狙う令嬢達の視線はまさにハンターそのもの。

 

『獲物は私のものだ』

『誰にも渡さない』


 殺気の籠った鋭い眼差しに襲われ、捕まれば終わりなきダンスを意味すると悟る。

 ここで私が獲物を生け贄として差し出したところで、とばっちりを回避できる保証はないと判断し仕方なく第四王子と共に令嬢達を交わしていき、なんとか静かなテラスまで逃げることが出来た。

 私達がテラスに逃げ込んだ頃には次の曲が始まっていたので、この瞬間だけは逃げきり成功だった。


「はぁ、なんとか捕まらずにすんだ。婚約者を決める気は今のところ無いからねっ」


 この発言は令嬢達に言っているが、同時に私にも言っているんだと分かる。

 ダンスしたくらいで「勘違いするなよ」と、遠回しに伝えたいのだろう。


「おモテになって大変ですね」


 嫌味に聞こえるかもしれないが、本当にそう思ったのだ。


「令嬢達は俺ではなく王族と結婚したいのだろ? 」


 意見を聞いているようで「お前もそうなんだろ? 」と決めつけているようにも聞こえる。


「さぁ、どうなのでしょう? 『爵位を守りたい』『安定した生活を送りたい』『人脈が欲しい』と考える方であれば王族はもってこいですね」


「シュタイン国も変わらないな」


「どの国も変わらないかと」


「なら、君もそうなんだ? 」


 そうですねと言えば不快に感じるだろうし、違いますと言った所で内心は信じてないでしょうね。

 そもそも、私が何を言ったところで大して興味もないくせに。

 だったら嘘を吐く必要もないと判断し真実を告げる。

 私の強力な爆弾を食らってどんな表情をするのか見てみたかったりもする。


「私は婚約は懲り懲りです」 


「ん? どういうことだ? 」


「あら、ご存じ有りませんでしたか? 私、婚約解消されたばかりなんですよ」


「……婚……解消……」


 笑顔で答えれば、望み通りの第四王子の困惑顔が拝めた。

 イケメンの困った顔とか歪んだ顔に満足してしまうなんて、私はいつからこんなに歪んでしまったのだろうか……


「ふふっ」


 いつまでも、混乱している王子の姿に笑ってしまった。


「まさかっ嘘か? 」


 私が笑った事で騙されたと思ったのだろう。

 その方が、彼としても気持ちが楽だろうに。

 令嬢が婚約解消されることは、貴族として価値を失うものというのを彼は知識として理解しているようだ。


「いいえ、婚約解消は本当にございます」


「……ぇっ……」


 否定の言葉が来るとは想像していなかったのか、完全に黙ってしまった。


「気にしないで下さい……と言っても難しいですよね。ですが本当に私は辛く有りませんので、そんな顔なさらないで下さい」


「……理由を聞いても……良いだろうか? 」


 私が婚約解消について軽く話すものだから、本来婚約解消された令嬢に理由を言わせるなんて傷を抉るような行為は選ばない。


「私がワガママで高慢で平民差別が激しいから? ですかね」


 ゲームの悪役令嬢はそんな感じの理由で断罪された。


「そうなのか? 」


「だそうですよ」


「相手の男がそう言ったのか? 」


「王子は……どうだったかしら? 」


 あの時は確か……私が一人芝居を始めたから断罪理由は聞いていない。


「お……王子? 」


「はい」


「シュタイン国の王子? 」


「はい。私の元婚約者は、パトリック・ブルーム・シュタイン王子ですね」


「そういえば最近、シュタイン国の王子が辺境の領地を任されていると……」


「はい、その通りにございます」


 噂が収まるまで身を隠しております。


「何があったんだ? 令嬢だけの問題があればそんなことにはならないだろう」


「そうですわね。隠したところで王族の方が調べれば直ぐに分かる事なのでお話ししますが、平たく言えば私が嫌がらせしていた令嬢の為に卒業パーティーで婚約解消を宣言したところ、その令嬢には王子以外にもお相手がいたと言うことです」


 聞きたいと言ったので話したのだが、王子は明らかに困惑顔だ。


「ですので、今のところ私も誰かと婚約する気は有りませんので、ご心配なく」


「……ぁっ」

 

「へんな慰めとかも要りませんからね」

 

 王子が私をなんて慰めようか悩んでいる様子だったので、「その心配はいりませんよ」と伝えたつもりだったのだが、余計気まずい空気が流れ王子は完全に言葉を奪ってしまった。

 私が王子を気に掛けるのも面倒なので、王子が自力で復活するまで夜風に癒されることにした。


「カストレータ嬢は他の令嬢とは違い、阿る事もなく揺るぎ無い姿が凛々しく美しい」


「ふふ。ありがとうございます、ですが慰めは要りませんわ。私傷付いておりませんから」


「慰めているわけではない。事実を申しただけだ」


「そうですか」


「シュタイン国かぁ、気になるな」


「そうですか? では旅行にでも行ってみてはいかかです? 」


「カストレータ嬢が案内してくれるのか? 」


「我が領地であれば」


「領地だけなのか? 」


「婚約解消となった際、私は王都追放となりましたので」


 新たな真実に漸く会話できるようになった王子が再び静かになってしまった。

 王子で遊ぶつもりはないのに、面白いと思ってしまう。

 また、複雑な顔をしておられる。


「もし本当にシュタイン国を観光したいのであれば、兄に伝えておきますわ」


「ぃや、迷惑はかけられないよ。もし案内がほしければ、シュタイン国に留学中の者に聞いてみるさっ」


「……留学中の者……」


 ぁーぁーあーあーあ゛ーあ゛ー。

 私が知りたくなかった情報を今さらっとおっしゃいましたよね、この方。


「シュタイン国に、留学ですか? 」


「ああ、知り合いが留学中でね」


「留学……」


 知り合いって誰?

 サーチベール国の知り合いではなく、別の国の王子だったりするよね?

 これ……正確に確かめる? 

 それとも、このまま聞かなかったことにする?

 どうする?

 深入りするのとか良くないよね? 

 よしっ、このまま気づかなかったことにしよう。

 だって……

 嫌な予感しかしないもの。


「我が国ではシュタイン国は留学先として、人気なんだ」


 あぁ………終わった。

 イヤ始まったのか?

 乙女ゲームが……

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