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紳士よりも貴族らしい夫人達

 <貴族夫人達の会話>


 紳士もどきから少し離れた位置では、扇で口元を隠しながら本心をさらけ出し始めている。


「本当に厭らしいですわね」


「ええ、全く」


「そのような生業で貴族と名乗って恥ずかしくないのかしら」


 誰もが名前を口にせずとも、誰について語っているのか瞬時に把握する。

 扇で顔を隠すも、嫌悪の色は隠せず眉を寄せる。


「夫人は……そのような方に対して何も思わないのかしら? 」


「夫人は……本日も参加しておりませんわね」


「……当然……かもしれませんね……」


「私なら、恥ずかしくて屋敷から出られませんわ」


 本日のターゲットが自身と遠い存在だと気付けば、多くの者が口が軽くなる。 

 更に本人不在であれば何も気にすることなく盛り上がっていく。


「夫が如何わしいことで稼いでいるとなれば、いくら優雅に振る舞っても……ねぇ」


 自身の旦那がその如何わしいとされる店に通っていることを知っているものは笑いで誤魔化し、通っていないと信じるものは夫人を扱き下ろす。

 如何わしい店に通っていなくとも、旦那がこっそり伯爵に借りがある等考えもしていない夫人程伯爵を非難している。


「最近では養女を迎えたそうですよ」


「最高学年に無理矢理入れたとか」


「魂胆見え見えですね」


 自身にも婚約者が決まっていない令嬢が居る者達は内心焦りの色がある。

 家柄も容姿も能力も申し分のない者が突然現れたのだ。

 自身の娘をとこっそり第四王子の婚約者にと推そうとしていた所、思わぬ敵が現れば動揺するのも当然だ。

 王子が手に入らなくとも、高位貴族の令息にも限りがある。

 令嬢一人増えれば、数少ない婚約者のいない令息を奪われる可能性が生れたことになる。

 婚約者のいない令嬢を持つ親は結託して、突然貴族となった令嬢を排除しに動き出す。


「第三王子か、第四王子ですね」


「今では上手く第三王子の婚約者に取り入っているとか」


「まぁ、伯爵と同じく遣り手ですのね」


 扇と笑顔で感情を誤魔化すも『上手く遣りやがって』と苛立ちを隠せずにいる。

 夫人達は次第に何か一つでも欠点が有れば、と粗探しをするのに必死だ。


「このままでは、第四王子に? 」


「そうかもしれませんね」


「貴族派に持っていかれるわけにはいかないわ」


 自身の不安が的を射ているのか疑問を口にすれば同意の答えが返ってくる。

 

「派閥争いを起こすわけにはいきませんものね」


 口では言うものの自身の娘の事で頭がいっぱいだ。


「王族派ですと、誰かしら? 」


「今学園に居る者で伯爵以上の家門は……」


「ルーエンティ令嬢はどうかしら? 」


「ルーエンティ令嬢は怪我をされたとかで領地にいらっしゃるみたいよ」


「それではオルガノ令嬢は? 」


「隣国に居る親戚の所で学んでいるとか」


「ガーゴイル令嬢はどうかしら? 」


「体調を悪くしたとかで領地で静養していると」


「他には……」


 令嬢達の内情に詳しいのは、娘にもチャンスがあるのではと期待しているから。

 自身の娘の名前がいつ出るのかと期待するも一向に出てこず、親が目の前に居るというのに忘れ去られるほど娘は存在が無いのかと落ち込む者がいた。


「であれば隣国の令嬢を勧めた方が宜しいのでは? 」


「……隣国……ですか? 」


「ええ。貴族派にいかれるよりかはその方が良いですわ」


「水面下で動くにはエーバンキール国より、シュタイン国のが良いかも知れませんね」


「ええ。伯爵はエーバンキール国によくいらっしゃるとか、ご令息のウィリアル様も今留学中だと聞きましたわ」


「そちらで探すのは危険かもしれないわね」


「シュタイン国と言えば、フォーゲル伯爵の所に学びに来ている方がいらっしゃったはず」


「確かアンドリュー・カストレータ様ですよね、とても優秀で見目麗しい方だと聞いておりますよ」


 夫人達の間でも、アンドリューの存在は認識されていた。


「貧困改革を行っているのよね」


「まぁ素晴らしいわぁ」


「私一度拝見したことがございますが、まるで彫像のように美しい方でしたの」


 思いだしうっとりする夫人。

 娘と似たような年齢の男性に色めき立っているところを見ると、先程軽蔑していた紳士とさほど変わらない事に全く気付く様子はない。

 下心なく美しいものに惹かれるのは芸術を堪能しているようなもの……

 『若い女に鼻の下を伸ばしている下品な男と一緒にしないでほしい』と見下しながら、同じ行動をしているところをみるに『似た者夫婦』と言える。

 そう感じてはいても、誰も口にしない。


「カストレータ様は公爵家だとかで、まだ婚約者がいらっしゃらないのよね」


 公爵家で『婚約者が居ない』という言葉で、娘が令息だけでなく夫人達からも重要視されていないと落ち込んでいた者も意識が浮上する。


「一度カストレータ様にお会いする必要がありそうね」


「そのようですね」


 自身もその場に参加して、あわよくば令息に娘を勧めるつもりでいる。

 その為にも令息を事前に品定めする為には令嬢を見極める場に同行を決意。

 カストレータ兄妹は本人不在で有りながら、他国の派閥争いに巻き込まれ始めていた。

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