貴族も酒が回ればただの人
<とある貴族>
貴族達の作法も曖昧になり無礼講となり始める頃、漸く緊張感が薄れていく。
「いやぁ、ドレスト伯爵は本当に素晴らしいですね」
「あぁ、カジノは大変好調だとか」
「嬉しいことに、領地も領民も潤っていますよ」
互いにアルコールが入っているにもかかわらず、ドレスト伯爵は紳士のままだ。
「あちらの方も」
「カジノの上の店もね」
一気に男達の顔に下品な姿が現す。
紳士として気品等を身に纏うも酒が入れば簡単に剥がれ落ちる。
彼らが話すカジノの上とは、娼館の事。
紳士的なドレスト伯爵には不釣り合いな仕事。
伯爵が買い取る前の娼館は劣悪な環境で、女性達も酔った客から金品を盗むような娼婦ばかりだったと聞く。
伯爵が娼婦達に接客の仕方や身の安全に住む場所などを提供することで、質が上がり貴族の常連客も増えた。
優秀な人間はどんな職でも優秀さを発揮してしまう。
「そこら辺の店とは格が違いますよね、教育が行き届いていますよ」
「入れるのは限られた人間だから安心ですしね」
「ドレスト伯爵は人を見抜くのが本当に素晴らしい」
「あの子達には気品が有りますからね」
「また行きますよ伯爵」
男達は一斉にドレスト伯爵の店を絶賛する。
「……はい、お待ちしております」
下品な言葉は無くとも男の本能の話をする姿はご夫人方からは不評だ。
娘と同じ年頃の子を相手にしていても、相手はプロだから許される。
自身の子と他人の子。
年齢は同じなのに一体何が違うというのか。
金を払えば何をしても許される貴族の思考は実に都合が良い。
夫が娼館に通っていることは夫人や娘には秘密であろうに、アルコールで簡単に口を割ってしまう。
「この会場には、夫人や娘も参加している事を忘れているのか?」
娼館に通う者達の中には夫人にバレている者も居る。
その夫人達には大層ドレスト伯爵は嫌われている。
外に愛人を作り、いつ『この子は貴方の子供です』と女達が屋敷に押しかけるのか分からない。
そんな不安を作る娼館を疎んでしまうのは当然の事。
そんな醜聞が社交界で拡散されては自身の貴族としての矜持にも傷が付く。
そう考える夫人達は少なくなく、怒りの矛先が商売人の女の子達に来ないようドレスト伯爵は徹底的に女の子たちの身の安全を保護管理している。
なので、娼館の外で女の子達を見かけたことは一度もない。
ドレスト伯爵は身内と認めた人間は全力で守るようだ。
それが、伝わっているのかドレスト伯爵が治める領地の領民達は伯爵に絶大な信頼を置いている。
ドレスト伯爵は、ご夫人方には嫌悪されるも多くの者には慕われていた。
「俺が言う事ではないが、別の仕事であればあの人はもっと出世しただろうに……王家からの信頼だって得られただろうに……」
言わずにはいられなかった。
俺も酒が回っているらしい。




