謝罪
「マーベル様には、沢山の「真実の愛」が存在するのですね」
攻略対象全員の行為を暴露し、これから悪役令嬢とヒロインの最終対決となる。
「ちっちがっ。そんなこと全部あんたの作り話でしょっ。手紙もあんたの妄想だわ、変なこと言わないで。そんなことより、今重要なのはあんたが私にした数々の嫌がらせのことを言っているのよ」
大声で状況が変わるのであれば変わっただろう。
現実はマーベルが婚約者のいる男性に色仕掛けで迫ったことに真実味を帯びてしまったに過ぎない。
ヒロインの『純粋』『無垢』『健気』というものはどこ行ったのだろうか?
人は嘘がばれそうになると攻撃的・威圧的になる。
目の前のヒロインが実践してくれている。
「少し落ち着かれてはいかがです? 」
混乱している人に『落ち着いてください』という言葉が逆効果と知りながらわざとマーベルに向けて言えば、ヒロインとは思えない表情で睨みつけられる。
今まではゲーム通りに進み、学園の誰もが味方で優しかったはず。
何の綻びもなくメインイベントの断罪まで順調で、これから覆されることは無いと油断していただろう。
まさか暴露されるはずの悪役令嬢に自身の行いが暴露され、断罪するはずが逆転されるなんて思いもよらなかったはず。
周囲から刺すような疑いの眼で観られている現状にまだ気が付いていない。
……だけど、これで終わりではない。
「手紙の主が何故私にそのような手紙を送ってきたのか、私に何をさせようとしたのかは分かりませんが私がマーベル様にとても辛い想いをさせてしまったことは事実です。私のしたことは許されることではありません、そのことについては罰を受ける所存です」
婚約者を取られたからと言って、嫌がらせするのは間違っている。
「ほっほら、やっぱり貴方が一番悪いのよ」
私が罪を認めたことでマーベルは途端に勝った気になり、私を指しながら周囲の人間に見せつけるよう状況を喜んでいる。
私が罪を認めたからと言ってマーベルが婚約者のいる男性に手を出していた罪が消えた訳じゃないのを、分かっているのだろうか?
「あの様なことは本当はしたくありませんでした。けれど、私にはそれしか方法が思い付きませんでした。私と向き合うことから避けている王子が唯一私と向き合うのは、『真実の愛』の相手であるマーベル様が関わった時だけでした。私はマーベル様を利用してしまいました、そのことは本当に……申し訳ありませんでした」
私の知らないアンジェリーナの行為であっても、今私がアンジェリーナなので悔しさに耐えながら震える声で頭を下げるしかない。
床を見つめたまま、耳を澄まし周りの様子を窺う。