気付かない振りをするのは悪いことですか?
アンドリューの事も無事?
解決して、気持ち的に余裕が生まれた。
これからは本当のスローライフが私を待っているはず。
「お金持ちを満喫するぞぉ」
気合いを入れ込むも、こちらの領地はザ田舎という風貌なのでカジノ等の娯楽施設はない。
「あの時参加しなくても、会場の雰囲気だけでも味わえたら……帰りも同じ道を辿るだろうから、帰りに立ち寄ってみようかな~」
カジノについてアンドリューの許可を得られるとは思っていないが、参加せずに見学したいと言えば彼の監視付きで雰囲気だけでも味わえる。
期待しながら、今後ののんびり生活を想像していた。
私を悩ませていたものから解放され、町を見学すると以前までと違った光景に見えて楽しい。
「はぁ~悩みが解決されるっていいわぁ」
アンドリューは伯爵と共に領地内で特に治安が悪いと言われている箇所を見回っている。
その間は私は危険だという事で同行せず、屋敷で一人でいるのも暇だったので散策することにした。
アンドリューの指示もあり、私が外出する時は必ず護衛騎士を付ける事と約束させられている。
護衛という存在に気を取られ楽しめるのかと考えたのもつかの間、彼らの存在が気にならない程楽しんでいた。
「お嬢様。お手紙が届いております」
久しぶりの人込みに疲れを感じ屋敷に戻ると、私を待ち構えていた使用人に手紙を渡される。
誰からなのか宛名を確認すれば、前回見た家紋が押されていた。
「差出人は……キャロライン・フィンメルね」
あの長文の手紙を頂き、早めに返事を書いて届けてもらった。
誰かと文通なんて初めての事でちょっと楽しかったりもした。
携帯やパソコンが無い世界では当たり前なのだけど、私からすると新鮮な時間だ。
届いた令嬢の手紙には、お茶会の際は当然カストレータ家の領地に伺うという事と、いつ戻るか分からない私に日程は全て合わせるとも書いてあり、最後には気になる文面があった。
『私達の学園在学中、サーチベール国からの留学生はどの学年にもいなかったと記憶しております』
更に詳しく調べてくれていた。
『今年入学した生徒の中にもサーチベール国からの留学生は一人も居りませんでした』
「……伯爵の勘違いだったのかしら? 」
シュタイン国ではなく、エーバンキール国と勘違いされているとも考えられる。
勘違いであれば深く考える必要もないだろう。
嫌な予感が過るも、私は勘が鋭い方ではないので気にしないことにした。
きっと伯爵の勘違いか、すでに留学を終えて帰ってきている可能性だってある。
私はただのんびり過ごしたいだけなんです。
「神様、私に平穏をくださぁい」
確か、今日はどこかの貴族のパーティーに呼ばれていると伯爵が以前仰っていたような……
そこで伯爵にもう一度確認してもらえば解決だろう。
きっと、誰も『シュタイン国に留学している』と言わないはずだ。
「そんな事言われたら、もう事件だから。それは完全に事件だから」
乙女ゲームに付き物のイベント発生。
『攻略対象と一緒に事件を解決して仲を深めましょう』ってやつだよ。
「私はこれから悪役令嬢にならず良い子にするので、ゲームに巻き込まれませんように…にお願いします」
翌日も伯爵とアンドリューは領地改革について互いの意見を交換している。
私の入る隙はないのだが、学園を卒業し追放処分になるような人間なので彼らと共に真面目に過ごし反省を見せなければと勝手に思っていた。
万が一シュタイン国の遣いの者が現れ、私の様子を確認しに来ないとも限らないのでアリバイを作ることにしている。
追放処分という事を理解せず隣国に遊びに来ていました、と報告されては困る。
そうなると、カジノに寄らなくて良かった。
カジノなんて、どんな理由を口にしようが『反省している』と訴えても信じてもらえないことだろう。
「お兄様。あの時私を止めてくれてありがとう」
今になって、アンドリューの判断に感謝している。
もしかしたら、あの時点でアンドリューはそう考えていたのかもしれない。
罰を受けた私が能天気に誰かの心配なんて烏滸がましいのかもしれない。
私なんかよりアンドリューのが物事を見えている。そんな彼が間違った判断をするとは思えない。
「私の心配は無用だったのかも……」
伯爵には、昨日のパーティーで留学について新たな情報があったのかどうか確認したい気持ちがあった。
だが、二人の真剣な会話に口を挟む勇気は無い。
私としては早くハッキリさせて楽になりたかったが、そこは我慢するも運がいいことに休憩時に偶然パーティーの話になったので尋ねてみた。
「昨日のパーティーは学生は参加しておらず、長期休暇となったら多くの生徒が参加するはずですよ」
『留学している』等の話にはならなかったそうだ。
残念なことに、私の不安は持ち越されることになってしまった。
休憩時間が終われば再び、領地経営や隣町からの移住者の管理の仕方についてなど意見を交わしている。
私は二人の話し合いを邪魔しないように存在を消すしかなかった。
「もう、シュタイン国に戻ろうかな? 」
私の本来の目的でもある『兄とマーベルの関係を見極める』は勘違いだったことが判明したので、このままサーチベール国に長居する意味は私には無い。
寧ろ早く離れたい気持ちが強くなる。乙女ゲームというのは基本、悪役令嬢には厳しいもの。
悪役令嬢が失敗したら処刑も選択肢に有るので下手な動きはしたくない。
一番簡単な事は、『そのイベントに参加しない』『巻き込まれない』のが一番の安全策だと考えている。
今の私は攻略対象もイベント内容も、お助けキャラも何もかも分からない状態で事件解決ははっきり言って難しい。
「悪役令嬢って事件解決前に事件に巻き込まれて殺されるとか有るよね? そんなの、絶対に嫌。もう、帰りたい」
アンドリューはまだやることが有るだろうから残るにしても、私は一人で帰って良いですか?
あぁあ、なんで私留学生の事とか手紙に書いちゃったかなぁ。
あんなことを書かなければ、何も知らずにのほほんとお気楽貴族ライフを満喫できていたのに。
「……いやっ大丈夫」
まだ誰もシュタイン国に確実に『留学している』とは言っていない。
伯爵の聞き間違い、勘違いかもしれない。希望を捨てる必要はない。
「大丈夫、みんな別の国に留学しているのよ。きっと、そうに違いない」
決して令嬢達は事件に巻き込まれているわけじゃない。




