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勘違いした私が悪いの?

「本日は夕食を招待させてください」


 ルースティンの登場で、本日は伯爵邸で夕食を頂くこととなった。

 伯爵による貧困層改革の話で盛り上がれば、ルースティンも真剣に耳を傾け頷く姿を見ると彼も貧困層には何か思うことがあるようだ。

 学生という立場で『貧困層改革』に興味があるというのはとても感心してしまう。

 この様子から、とても良い領主に成ってくれるだろうと期待してしまう。


『食料配布だけでなく、継続的に支援が必要』

『新たな仕事と共に……』

『災害に強い領地にする為にも……』


 そんな姿を見ていると、私も前世の知識が役に立つのではないか? と思ってしまうも、参加するべきではないと感じた。

 彼らはちゃんと自分達で思考する力を持っているし、正しい方向へ導く力も兼ね備えている。

 彼らの率いる領地なら、平民も安心して住めるだろう。


『ルイスティーナの為にも不安の少ない将来にしたいからな』

『そうですね、ルイスティーナの為にも……』

『ルイスティーナ……早く会いたい』

『僕の手を握って笑ったんですよ』

『何っ、なら私も……』


 白熱している領地改革の話が落ち着くと、今度は生まれたばかりの伯爵の赤ちゃんの話題に変わる。

 伯爵もルースティンも今すぐにでも会いたいらしく、一度赤ちゃんの話題になると領地改革以上の熱を帯びて話す。

 微笑ましく感じるも、溺愛が過ぎればワガママに育ちそれこそ私のような『悪役令嬢』が誕生してしまうのではないかと心配してしまう。

 それほど、二人の赤ちゃんに対する思いは強い。


「……遺伝ね……」


 食事だけでなく、二人の赤ちゃんへの想いも十分味わったのでお開きとなった。

 そして、私は二人の話を聞き決意していた。

 屋敷に戻り、アンドリューと話す。


「少し……話がしたいのだけど……いい……かな? 」


「もちろん、談話室で話そう」


 柔らかい表情を見せるアンドリューに、これから話すことを頭の中で整理する。

 アンドリューは、この国で出会った女性が私、アンジェリーナの婚約破棄の切っ掛けとなった女性だと思っていない様子。

 偶然出会った女性が身内の婚約破棄の原因だと誰も思わないだろう。

 出会ったのは隣国なわけだし。

 それにゲーム通りに進んでいたのだったら、婚約者のいる人に近寄ったヒロインも悪いが正論で追い詰めすぎるアンジェリーナにも原因はあった。

 相手からすると、正しすぎる正論は凶器だっただろう。

 一方的な婚約破棄ではあるが、ヒロインの甘言に溺れてしまう王子の気持ちも理解できてしまう。

 だからと言って限度がある。

 ヒロインの行動は許されることではない。

 王子だけでなく側近にまで手を出したから、国外追放となる。

 ヒロインが国外追放となったのにはちゃんとした理由がある。

 アンドリューがそんなヒロインと出会い親密になる事に、どうしても躊躇いがある。


 二人の言い分を聞く前に引き離すつもりはない。

 思いを寄せる相手が妹の婚約者に手を出していたと知ったら……

 いや元々王子とアンジェリーナの仲は誰が見ても最悪だったから仕方がないんだけど、他にも手を出していたと知ったら……

 嘘を言うつもりはないが、真実は伝えるつもり。

 そこに私の感情が乗らないように気を付けなければならない。

 アンドリューが全てを知った上で、それでもマーベルがいいと言うなら邪魔をしようなんて思ってもない。

 ただ、もうシュタイン国には戻れないという事実を伝えなければならない。

 

 どう切り出せばいいのか分からず、使用人が準備する紅茶を目で追ってしまう。

 使用人は紅茶を淹れ終えると気を利かせて部屋を出ていく。

 アンドリューと二人きりになると緊張感が増し、何をどう話せば言いのか悩んでしまった。


「どうした? 」


 私から『話したい』と呼び止めたにも拘らず、話をしない私にアンドリューの方から尋ねられた。

 ゆっくり深呼吸し気持ちを整える。


「お兄様は……その……恋人がいらっしゃるの? 」


「ん? そのような関係の人はいないが」


「想い人がいらっしゃるのよね? その方と結婚等考えていたりするのですか? 」


 目を伏せ首を振るアンドリューは少し切ない顔をしていた。


「……その女性とは……結婚出来ない」


 出来ない? 

 私が予想していた返答には無い答えだ。

 もしかしてアンドリューは既にマーベルについて知っていたのかもしれない。

 そうであれば、私はアンドリューの傷を抉ってしまった可能性がある。

 自分で何とか折り合いをつけようとしている時に周りから言われるのって相当苛つくのに、考えなしに発言してしまった私にアンドリューは感情を荒げる事などしなかった。


 もう……完全に諦めたの? 


 今のアンドリューに、なんて声をかけたら良いのか分からない。

 独りにした方が良いのかな? 

 でも、私から聞いておいてすぐに立ち去るのも酷いよね?

 過去に女同士で恋愛話で盛り上がるものの、男性から恋愛相談なんてされたことないからなんて会話を続ければ良いのか分からない。


「……お兄様がもし我が家の事で悩んでいるのなら、気にする必要はありません。私はお兄様を出きる限りお手伝い致します」


 マーベルが相手では面倒な事は沢山あるが、それでもマーベルが良いと言うなら反対はしない。

 沈んだ表情を見せるアンドリューに『その女は、私の婚約を破棄させる原因となった女です。なので諦めてください』なんて言えない。

 寧ろ、背中を押してしまいたくなってしまった。

 喩え相手がマーベルであっても、幸せになれるかどうかはアンドリュー次第。

 私が必要以上とやかく言うことではない。

 それに、少しマーベルが羨ましく感じてしまった。

 ヒロインという役ではなく、女として魅力的だから多くの男性がマーベルに惹かれているのかと思うと完全に女として負けたと思いしらされる。


 私も誰かにこんな風に想われたい……


 嫉妬から他人の恋路を邪魔する『悪女』にはなりたくなくて、応援することにした。

 

「いいんだ。相手が幸せであれば、それで十分」


 自分の幸せよりマーベルの幸せを願うなんて……

 優しすぎない? 

 アンドリューが相手なら誰でも幸せになれる。私が相手になりたいくらいだ。

 他人の幸せを願うより、アンドリュー自身が幸せになってほしい。


「今でも気になっているんですよね? 」


 アンドリューからの返事はなく無言が続く。

 もしかして、私の事を気にしているとか? 

 確かに妹の婚約者を奪った相手に想いを抱くなんて簡単に認められないか……

 どんなに不仲であっても兄と妹。婚約者だけでなく兄まで同じ相手に傾倒してしまったとなれば、妹を追い詰めてしまうと思っていたり? 

 私としては、まったくもって問題ないのですが……

 どうしたら良い?


「私の事は気にしないでください。王子と婚約破棄になったのは私の所為ですから。お兄様がマーベルを想っているのなら、私は反対しません」


「……マー……誰の話しだ? 」


「誰って……マーベルですよね…? 」


「何の話だ? 」


「何ってお兄様の思い人の話です」


「それで、何故その女が出てくる? 」


「ぇっ? 」


「思いを寄せている相手は居るが、それはマーベルという女ではない」


「あれ?」


 アンドリューが何を言っているのかさっぱり分からない。

 結婚したい人と想いを寄せている人は違うって事?


「結婚出来るならしたいが、その女性とは結婚出来ない。マーベルとはマデリーンと名を変えた女だろう? あの時アンジェリーナの質問は気になっている女性は? と聞かれたからマデリーンと答えたまでだ」


「マーベル……マデリーンさんを気になっているんですよね? 」


 マーベルはやはりマデリーンで、気になっているのは想いを寄せているから……ですよね?

 この式あっていますよね?


「気にはなっているな、あの女はアンジェリーナを陥れた忌々しい女だ」


 あれ? 私が思っていた式とは違うぞ。

 アンドリューの思い人は結婚出来ない人で、マデリーンを気にしているのはアンジェリーナを陥れたから……

 という事は、アンドリューの思い人はマデリーン……では……ないということ?


 はぁああ゛あ゛(怒)

 結婚したい相手の話の後に、気になる女性の話を聞いたらそれはイコールで繋げるでしょ? 

 何? 

 私の聞き方が悪いってこと? 

 結婚したい相手と気になる女性が別人なんて思わないよね?

 じゃぁ何、私は何の為にここ迄で来たの?

  何日も、気分を悪くしながら耐えた馬車移動はなんだったの? 


「お兄様は確か森で迷っているマーベルを助け、家や働き場を紹介し真面目になったマーベルに興味があるって……マーベルを追い出した私か憎いと仰って居ましたよね」


「違うっ。正確には森で彷徨っているマデリーンの死を確認するため追いかけていたところ、花屋の女性が助け仕事場を紹介し真面目にしている姿に違和感を覚え監視していた。アンジェリーナを罠にかけ侮辱しあまつさえ王都から追放したにもかかわらず自身は他国でまた貴族をしていることに腹立たしく、あの女は不愉快でやることなすこと憎くて堪らないということだ」


 ねぇ、それって全然違くない?


「では、お兄様はマーベル……」


「マデリーンだ」


「どっちでもいいです」

 

 律儀に名前を訂正されるも、マーベルだろうとマデリーンだろうとどちらでも構わない。


「そうだな」


「マデリーンの事は愛しているとかそういう意味ではない……と」


「当たり前だ」


 語気を強めるアンドリューの姿に嘘を吐いているようには見えなかった。


「……そうですか」


 すげぇー疲れた。

 アンドリューがマーベル……マデリーンにそのような感情が無いことに安心したけど……

 なんだろうなぁこの感情。

 今はとにかく休みたい。

 話を終わらせ、ふらふらしながら私の部屋である客間で休んだ。

 ベッドで横になり先程の会話を想いだし怒りが込み上げるも、結婚したい相手がいるのは事実のようだったと思い出した。

 結婚したいのに出来ない相手って……もしや……


「既婚者? それはダメよっ」


 勢い良く起き上がり誰も居ない部屋で声を上げた。

 

「不倫ダメ絶対」


 想い人を否定したくないが、皆に祝福される相手にしてほしい。

 マーベルも嫌だが既婚者も駄目よ。

 お願いだから反対しなくていい相手にして……


「してください」

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