乙女ゲームは勘弁してくれ
ルースティンの話。
「元平民で伯爵家の養女となり一ヶ月前に最高学年に編入してきました」
最高学年であれば、私の一つ年下。
「最高学年に編入なんて珍しいですね」
「はい。僕もそう思いましたが、令嬢自身とても優秀な方でした。元平民と聞いていましたが、既に貴族としてのマナーをある程度身に付けており、学園に通う令嬢達に受け入れられています。とても物覚えが良く、努力家です。特に第三王子の婚約者から気に入られていると専らの噂だと話す」
「それは大変優秀な方なのねぇ」
「はい。優秀なのを見込んで伯爵も養女にしたのだと思います」
貴族が平民を養子に取るのには二つの理由がある。
一つ目は。優秀な事。
能力を見込まれての養子縁組。
二つ目が、貴族の結婚相手になりそうな外見が優れている者。
「伯爵ってどんな方なのかしら?」
「伯爵ですか? 有名な方ですよ。代々続く家門で隣国との繋がりも有ります。貴族からの信頼も厚い方です」
「そうなの」
「学園では令嬢は噂ばかりです。多くの貴族が注目し、長期休暇では様々な貴族が令嬢を社交界に招待すると噂が出ているくらいです」
私からすると、まさにゲームに出てくるヒロインのような令嬢。
と言うことは、その令嬢は王子の事を狙っていたりするのだろうか?
「先程、第三王子の婚約者とも仲がいいと……」
「はい。毎週のようにお茶会をしているみたいですよ」
王子の婚約者に気に入られているとルースティンは語る。
そのような関係性で王子を略奪すれば、修羅場になる事間違いない。
私の経験上、『その令嬢は危険なので警戒しておくべき』と助言したいところだが……まだ、確定ではない。
いい人すぎるルースティンにはまだ話せない。
確実となった時にでないと、話した途端彼なら相手に確認のため突撃してしまう可能性がある。
それを切っ掛けに王子と仲良くなられたら、私は王子の婚約者に申し訳ない。
「まさか、ルースティンも攻略対象だったりして……」
あり得るのかもしれない。
彼は伯爵令息で、爵位で見れば高位貴族。
対象となる位置にいる。
「攻略対象……あり得る」
ヒロインと悪役令嬢が追放エンドというのは私の経験上聞いたことがない。
この世界が続編だと仮定して、この後の乙女ゲームの展開は……
「出会いイベントが起こり波乱の開幕……」
私の考えすぎであったとしても、ルースティンだけはゲームから遠ざけたい。
まずは、ルースティンにその令嬢をどう思っているのか確認する必要が有る。
「もう、乙女ゲームのゴタゴタは勘弁して欲しいわ」
そんなのマーベル一人で十分なんだが、この国にもマーベルのような人物がいるってことよね?
国が変わるとヒロインも変わって、また新たな乙女ゲームが始まっているって事?
それとも継続してマーベルがヒロインてこと無いわよね?
それだと……悪役令嬢は……
「私? それってずるくない? 私もヒロインなりたいし……ん? 」
ルースティンは、『第三王子』って言ったよね?
婚約者がどうのこうのって……
平民上がりの令嬢が王子の婚約者と仲良くなったら、それはもう乙女ゲーム?
「もしかして、既にゲームは開始しているのでは? 」
気付かぬうちに私はルースティンを訝し気に確認していた。
あなたは決して婚約者を断罪なんてするような人間には見えない……
見えないのだが……
お人好しで騙されそうで、なんだか危なっかしい。
「この人……大丈夫なのだろうか?」
ルースティンの話によれば、そのヒロインは勉強やマナーに関しても問題なく優秀。
伯爵令息であるルースティンの誘いも断る程には常識がある。
「おかしなヒロインのマーベルとは違って、ゲーム通りの真面目なヒロインっポイわよね」
なら王子と婚約者が不仲だったり、どちらかに問題がなければ婚約解消・断罪にはならないはず。
それにヒロインがまともなら、後は本人達の問題だから私が焦る必要はないのでは?
「余計なことに首突っ込まない方がいいわね」
私は辛うじて貴族という身分だが、ここは隣国。
私にとっては他国。
「出しゃばる必要なんてない……わよね?」
申し訳ないけど、私は静かに暮らしたいの。
やっと平和にお金持ちを満喫するはずだったのに、隣国に来てまで乙女ゲームに巻き込まれるわけにはいかない。
私はこれから全力で、他人の振り致します。
「私はもう、悪役令嬢は引退よね? 」
王子に婚約者がいるなら、王子の婚約者が悪役令嬢なはず。
隣国で王都追放となった令嬢が、他国で暴れるのは無理があるわよね。
「って事は、私は悪役令嬢じゃないのよね? それなら悪役令嬢さん、頑張ってね」
王子の婚約者がどんな人か知りませんが勝手に悪役と決めつけてすみません。
謝ったので、私を巻き込まないでくださいね。
心の中で神に祈りを捧げていると、現実での会話が聞こえた。
「僕の婚約者もドレスト令嬢と親しくなり、良くサロンで紅茶を頂くと話していました」
あの後もアンドリューとルースティンは会話が続けられていた。
「そうなのか、あまり婚約者以外の令嬢と親しくなりすぎるなよ。勘違いされて困るのはルースティン、君だよ」
「大丈夫ですよ、会話をしたのは図書室に誘った一度きり。その後は婚約者の言葉もあり声がけはしていません」
「そうか」
その令嬢との関係を尋ねようと思っていたが、私が尋ねる前に答えを聞けた。
『よかったぁ』と先程から一人小さく呟くも、二人には気づかれていない。
その後、平民の生徒と話していないと告げるルースティンのの判断は私も正しいと思う。
今後もその姿勢を貫いてくださいと願うばかり。
それもなんだが、アンドリューの問題もある。
以前話していた『マーベル』の事。
本気なのかを確認しないといけない。
私としてはマーベルなんてどうでも良いけど、お兄様の行動で我がカストレータ家の存続が危ぶまれ私のノンビリ生活がかかっている。
それだけは避けたい。
私の悠々自適な生活を送る為には、その事を早めに解決しておかなければ……




