伯爵の息子は大物か?
伯爵の領地に到着し、挨拶をした後は夕食までごちそうになった。
翌日から貧困層改革についての説明を受け、領地の案内をされていく。
伯爵の熱心過ぎる思いに申し訳なく思ってしまう。
私はほとんど、うわの空。
そんなに熱く語られても、私が訪れた理由は貧困層についてではない。
アンドリューとマーベルの関係が今どんな感じなのかを知りたかっただけなんだ。
後ろめたさから、伯爵の改革に前のめりで尋ねると却って伯爵を刺激してしまった。
数日間伯爵と共に貧困層について考える日々を過ごすと、王都の学園に通っている伯爵の子息が休日を利用して領地に態々挨拶に訪れた。
令息は伯爵に似て人の良さそうな笑顔で駆けてくる。
まさに遺伝、そっくりだ。
「先生っ」
犬が飼い主を発見した時のように、彼は嬉しそうに駆けてくる。
「やぁ、ルースティン」
アンドリューは、目の前まで駆けてくるルースティンの事をまるで弟のように受け入れている。
「先生、お会いしたかったです。お話ししたいことが沢山あります」
「そうなのかい? 楽しみだ。だけどまずは、紹介からだね。ルースティン私の妹のアンジェリーナ、アンジェリーナこちらルースティン。私がお世話になっている伯爵のご子息だ」
私の存在を認識しつつも、ルースティンはどうしていいのか分からなかったのか何度も私を確認していた。
その様子を瞬時に汲み取り流れを作ってくれた。
「アンジェリーナ・カストレータです。しばらくの間、領地を拝見させていただきます」
「ルースティン・フォーゲルです。先生にはよくお世話になっております、どうぞごゆっくりしていってください」
ルースティンは、見た目だけでなく雰囲気も『好青年』って言葉が似合いそうな人。
「先生、今回の試験では二十一位でした」
「だいぶ成績が上がったようだね」
「それでもケアレスミスで十八点落としてしまいました」
笑いながら自身の失態を告げる姿や彼の醸し出す緩やかな空気……和むわぁ。
「ルースティンは何処か抜けている所があるからね。スペルミスや解答欄のズレ等しそうだね。ちゃんと気を付けたかい? 」
「はい、それらのミスをしっかりとしました」
しちゃったんだ……
しかも、それを笑顔で報告って……
「そんな堂々と言うことではないんだよ」
「はい」
なんだろうなぁ、彼に対するこの気持ち。
恋愛的な意味ではなく素直なのか……
なのか?
『和むわぁ』で済ませて良いのだろうか。
「それでも二十一位はよく頑張ったね」
「ありがとうございます、先生に教わったお陰です」
「本人の努力次第だよ」
「先生の教え方ですよ。ただ先生から『人に教えるとより理解力が上がるから、誰かに教えてみるといい』と言われたので実行しようとして失敗しました」
「失敗? 」
「はい、一緒に勉強をと誘ったら断られました」
断られたことをこんなに笑顔で言う人始めてみた。
おおらかなのかな?
やっぱり何も考えていない『能天気』なのかな?
「まぁ、そういうこともあるよ。気にすることはない」
「はい、婚約者にも『断られて当然です』と言われました」
「ん? それは、どう言うことだい? 」
アンドリューの疑問は私も抱いた。
婚約者さえ断られて当然の相手とはどんな人?
「婚約者が居るのに別の令嬢と二人で勉強したら周囲に誤解されてしまうと注意を受けました」
「……令嬢を誘ったのかい? 」
「はい。最近編入し、以前までは平民だった令嬢を誘いました。いつも図書室で一人で勉強していたので、先生の教えを実行に移すチャンスだと思ったので誘いました」
うわぁ……
それは良くないわ。
喩え善意で有っても、後々面倒事になる事間違いない。
元平民ってのも危険。
平民は男性との距離感について深く考えないので、周囲から誤解を受けやすい行動をする。
婚約者からしたら相手が女性というだけで心配してしまうのに、元平民となれば心穏やかではない。
それはまさに、私が婚約解消となったマーベルが実行した作戦。
そう考えると、その元平民もよく断った。
感心してしまう。
グッジョブよ、グッジョブ。
「勉強会しなくて良かったです。その令嬢は、二十八位だったんです。もし教えていたら僕より優秀だったかもしれません」
おやおや優秀な元平民さんね。
どっかのマーベルとは大違い。
それにしてもルースティンはどんなことが起きても笑顔で話すのね。
大物だわ。




