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ついに (マデリーン)

 サロンまでの間、アイリーン・ルトマンス伯爵令嬢の後ろを追った。

 一言も言葉を交わすこと無く歩き続けるが、令嬢の後ろ姿は模範的な貴族であり勉強になり貴族と平民の違いを目の当たりにした。

 立ち姿勢や歩く姿だけで教養が伝わる。

 仕草や振る舞いなど指摘され貴族の在り方を身に着けようと努力した時、漸く相手の凄さが分かるようになった。

 私は色んな人の努力と時間を無駄にさせてしまっていた。

 気づきたくないのに、過去の愚かな自分を教えられ嫌になる。


『私も、誰もが認める貴族の一人にならなければ……』


 今の状況を肯定的に見れば、サロンに呼ばれた事は貴族達の視界には入っている証拠。

 誰にも相手にされないのは誰の視界にもはいっていないことになる。

 それに、アイリーンは伯爵令嬢。高位貴族からの呼び出しとなる。

 やはり、目立つような行動を避け静かに過ごしていたのが良かったのかもしれない。そしてここからが重要になる。


『何故私がサロンに招待されたのか、そして誰に呼ばれたか……だ』


 サロンにはきっとアイリーンと二人だけという事ではないだろう。

 男女でサロンを使用するというのはあまり無いことだが、伯爵家以上もしくはアイリーンが逆らえない関係にある令息からの遣いという事も考えられる。

 もし、そうであった場合これは最悪な誘いなのかもしれない。

 その時は令嬢を突き飛ばしてでも全力で逃げれるようにしておかなければいけない。


「ん? 」


 ルトマンス伯爵家はどっち派なんだろうか?

 王族派?

 貴族派?

 もしかして、令嬢の誘いに乗ったのは早計だったのかもしれない。


「こちらです」


 令嬢の誘いに乗って良かったのを考えていると、サロンに到着してしまった。

 令嬢によって扉が開かれ、中央に数名の女性の姿が見えた。

 部屋にいるのが令息でないことに安堵するも、もう一つの可能性に再び不安が消えない。

 アイリーンに促されるまま令嬢達の元へ近づけば何処かで会ったことのある令嬢ばかりに気が付く。

 そして、この場を仕切っているであろう令嬢は私が最も待ち望んだ人……

 エメライン・ブルグリア侯爵令嬢だった。


「ご機嫌よう。今回貴方をサロンに呼んだのは私、エメライン・ブルグリアよ。以前アセットイン侯爵家の誕生日パーティーでご挨拶したのだけれど、覚えていらっしゃるかしら? 」


「はい。覚えております」


 忘れるわけがない。

 侯爵のパーティーに参加した理由の中に、貴方を確認する為という名目も含まれていたんだもの。


「そう、嬉しいわ。あの日は多くの方々に挨拶をしていたので私など忘れてしまわれていても仕方ないと思っていたの。本来であればもっと早くにサロンへ呼ぶつもりでしたのですが、試験勉強に専念している貴方を邪魔すべきではないと今になりましたわ」


 私は令嬢達から認められていないと思っていたが、やはり様子を観察されていたらしい。

 試験勉強に専念しすぎて裏目に出てしまったらしい。

 恋愛だけでなく、女性同士の友情を築くにも多少の隙は必要なのかもしれない。

 

「私の事を気にしてくださり有り難うございます」


「フフっ」


 その笑みはどんな意味の笑みでしょうか? 

 淑女の笑みとは、相手に考えを読み取らせないというのを体験する。

 会話の主導権は爵位の高い者が握るという教えと、令嬢自身が何を考えているのか分からないという二つで私から何か質問することは出来ない。

 不躾な視線を送り様子を窺うしかできなかった。


「どうぞ、座って」


「はい、失礼します」


 促されるまま、空いている席に座った。


「何故呼ばれたのか分からないって表情ね」


「……はい」


「アイリーン様、貴方から話した方が良いと思うわ」


 メアリーは主導権を私をサロンまで案内をしてくれたアイリーンに渡した。


「はい、では私からお話しさせて頂きます。マデリーン様は、試験前に廊下でとある令息に図書室での勉強を誘われたとお聞きしたのですが、それは本当の事でしょうか? 」


 なにを尋ねられるのか身構えていると、試験前に令息に声を掛けられたことについての確認だった。

 試験に集中していた為、すっかり忘れていたがそんな出来事もあったのを思い出す。


「はい。勉強を教えてくださると声を掛けて頂きました」


「二人で図書室に? 」


「いえ、そのようなことはしておりません」


「そうですか。それは何故です? 」


 なんだが令嬢の問いは、試されているように感じる。


「令息の試験勉強のお誘いは学園に不慣れな私には大変有難いことでしたが、質問が有れば先生に聞いておりますし、令息に婚約者の方がいらっしゃった場合誤解をさせてしまうと思いました。伯爵にも「誤解されるようなことはするべきではない。学園に通える環境に感謝し、学問に専念しなさい」とお言葉を頂いております」


 頭を回転させ令嬢達に好印象となる言葉を選んだのだが、果たして正しかったのか分からず様子を窺う。

 その場にいる皆さんはにこやかな表情をして私を見つめている。

 同じ年の令嬢を恐ろしいと感じたのは初めてかもしれない。


「その男性は、私の婚約者でしたの」

 

 アイリーンの言葉で、制服の下で鳥肌を立てていた。


「彼はルースティンと言うの。『試験勉強に専念するあなたの姿を見て、勉強に誘った』と私に話してくれたの。誘いに深い意味はないと話してくれたのだけど、貴族社会はそれだけで終わらないでしょう? 」

 

 令嬢の会話は牽制なのだろうか? 

『あの時の彼は私の婚約者です。あなたを誘ったのに深い意味はないから誤解しないでね』

 という事なのだろうか?

  そうであったとしても、私の言い分としては『ちゃんと断りました』と言いたい。


「ドレスト伯爵は貴方の真面目さを見抜いていたのね」


 私は自身の行動が正しかったのか分からず、言い訳もできず言葉を飲み込む私にアイリーンは微笑む。

 この笑みの真意は……


「その話を聞いて、ドレスト令嬢に興味を持ちましたの」


 私に『興味を持った』のは侯爵令嬢。

 第三王子の婚約者の立場として王族派のエメラインにとって貴族派の養女となった私がどういう人間か興味があり見極めていたのか?

 それとも新しく貴族の仲間入りした人間がどんな人間なのか単純な『興味』なのか……

 後者なら深く考える事は無いが、前者なら学生の身でありながら派閥を考えている責任感や精神面に感嘆しつつ恐ろしい令嬢だと。

 私はこの人に認められ第三王子を紹介され、その後第四王子と親密にならなければならないのが私の計画。

 

「ドレスト令嬢。そう緊張なさらないで」


 私は既に令嬢達に試されていたと知り、己の行動を振り返っていた。

 私……まだ、失敗していない……よね? 

 無理矢理笑顔を作り、サロンに招待されているメンバーと談笑を続ける。

 私の行動が正しいのか教えられずに会話が進んでいく。

 会話は、私がわずかな時間で礼儀作法を修得したことについてや勉強への姿勢、令息達への対応についてだった。

 令嬢達は私が元平民という事前情報から今の私を見て評価している。

 口に出して『元平民』と言わないのは令嬢の達の優しさなのか、それとも言葉で皮肉っているのか。

 緊張しすぎて判断できない。

 高位貴族を前にして緊張するという経験を初めて味わう。

 お茶会が終わりに近づき、エメラインが締めの言葉を贈られる。


「またサロンでお茶会を開くわ、その時も是非いらしてね」


「……嬉しいです、ぜひ参加させてください」


 私は令嬢として合格を貰えたと判断した。

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あれ、常識を身につけたらいい子になってきたぞ?
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