第1関門 (マデリーン)
あれ以降、令息だけでなく生徒に声を掛けられることなく一人図書室で勉強ている。
そして、試験を迎えた。
シュタイン国での経験もあり、私としては上出来といえる。
努力し私の持てる知識を全て出し切れたので、試験に対して悔いはないといえる。
残すは結果だけ。
『上位を目指せ』
試験期間中、伯爵の言葉が何度も蘇る。
シュタイン国以上に勉強し気を張っていたので、当分は教科書を開きたくないし図書室にも行きたくない。
「これからどうしよう……」
一息つくも私に休んでいる暇はない。
試験はブルグリア侯爵令嬢に近付くための下準備であり、本番はこれからだ。
編入してからの時間試験の為に時間を費やしてしまい、エメライン・ブルグリアからの誘いは一切ない。
周囲を見渡せば、他の令嬢からも未だに距離がある。
令息については私が避けているのだが、令嬢には何もしてないはず……
「何処かで間違えた? どうしよう……」
今までは伯爵に状況を尋ねられても、
「試験勉強に集中していた為エメライン・ブルグリアとは接触していません」
としか答えられず、伯爵も追及はしてこなかった。
試験では『上位を』といった伯爵なので今の状況を指摘することは無いが、表情が変わらないのが恐ろしい。
淑女教育は相手に弱みや感情を読ませないために学ぶと聞いたが、その通りだと実感する。
「淑女教育……」
悪役令嬢のアンジェリーナにも言われた事を思い出す。
アンジェリーナは確かに口調はキツイが、間違った事は言っていない。
すぐに感情を荒くする性格だが、そうなるように引き出すのは天真爛漫に振る舞う無知な私。
あの頃の私は、貴族になったのに貴族になろうとはしなかった。
心は平民のまま。
なんの努力もせず、良いところだけ貴族を持ち出していた。
「思い出せば出すほど自分が嫌になる」
これから本格的に動かなければならないのに、ふとした瞬間過去を思いだしてしまい気持ちが落ちていってしまう。
メアリーと接近しなければならないのに、方法は全く思い浮かばず過去の自分の所業に勝手に気分を落ち込ませていた。
「令嬢達はどうやって高位貴族令嬢に近づくの? 」
ゲームでも令息に近づく為の選択肢は有っても、令嬢に近づく為の選択肢は無かった。
リアル乙女ゲームは難しすぎる。
攻略対象が女性では過去の私のゲームの知識も役には立たない。
「令嬢に近づく方法を考えないと……」
「マデリーン・ドレスト伯爵令嬢」
私を呼ぶ声が幻聴だったのか分からず、振り返れば見たこと有るような無いような令嬢がいた。
相手が知り合いなのかも分からない令嬢の時はどんな対応するべきなのか、何が正解なのか分からず返事をすることすら忘れていた。
初めて令嬢から声を掛けられたのに、何もできずにいる。
「私はアイリーン・ルトマンスと申します……伯爵家の者です」
名乗った令嬢は金髪で青い瞳。
名乗られなかったとしても貴族と判断できる容姿と気品の持主。
笑顔が素敵な令嬢でどこかで見たことがあるような無いような……
もし、私があったことがあるとしたら、学園に入る前に参加したアセットイン侯爵のパーティーでしかない。
あの日、多くの人に挨拶をしてさらにはブルグリア令嬢を意識していたので他の令嬢の事はほとんど記憶にない。
「私は……マデリーン・ドレストです……ドレスト伯爵の養女となりました」
相手は私の名を知っていたが、何て返せばいいのか分からず名乗ってしまった。
何が正解なのか分からないが、間違えてしまったと思えば思うほど頭が真っ白になっていく。
「私達が用意したサロンがあります。その場にドレスト様をお誘いしたくて伺いましたの、お時間はありますでしょうか? 」
サロン?
そうだ、学園にはそんなところがあったんだ。
シュタイン国では、殿下と二人きりになる時にたまに使っていた。
「はい……私の様な者が伺ってもよろしいのですか? 」
「もちろんです」
「それでは伺います」
「はい」
突然の令嬢からの誘いに疑うことなく、返事をしてしまった。




