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伯爵からの指示 (マーベル)

 私は掃除係を辞め、伯爵家に住まいを移すことになった。

 今までお世話になったメルバに挨拶をした際、とても喜んでくれた。


「あんたならそうなると思ったよ。ありがとね」


「ありがとうは私です。メルバさんには沢山お世話になりました」


「うん、幸せにね」


「はい」


 別れる間際、メルバと抱き締めあい伯爵家に向かう。

 広くて綺麗な馬車はシュタイン国を追い出された時に乗ったのとは大違い。

 メルバの花屋から伯爵家には馬車で数十分の距離だと知る。

 それでも伯爵は私に馬車を出してくれた。


 伯爵家はこの領地で一番大きな建物なのは当然だか、同じ貴族である男爵だった頃に住んでいた屋敷より洗練されている。

 学園に入学した時は王都の屋敷に住んでいたので家具など拘っていただろうに、比べてしまうと建物も使用人も明らかに質が違う。

 『本物の貴族』がそこにはあった。


「私の屋敷だ」


「……はい」


 伯爵家に一歩踏み入れた瞬間、私は貴族に戻ってこれたのだと実感。

 生活に必要なものは既に準備され、貴族に相応しい高級品で揃えられている。

 拾ってくれた伯爵の求める指示にはたとえどんな理不尽な物であったとしても、全て従う覚悟。


「教師を付けた。礼儀作法を学びなさい」


「はい」


 伯爵からの指示は、横柄なものはなく貴族として当たり前の事で拍子抜けしてしまう。 

 監禁のように外に出ることは許されなかったが、それは礼儀作法を学び教養も身につけ貴族としての振る舞いが自然にできるようにだった。

 私にお金をかけてくれたのが嬉しく思うと同時に、伯爵が私に望んでいるのは完璧令嬢だと言うことも理解した。


「違います。もう一度初めから」


「はい」


 家庭教師は厳しい。

 サーチベール国とシュタイン国の礼儀作法に違いはない。

 シュタイン国でそれなりに勉強していても、身に付いていたかというと敢えてゲーム通り平民感を出して過ごしていたので貴族らしくはないと理解している。

 知識としてはあるので、実践していくだけ。

 それが大変なのだが貴族に返り咲く為と努力した。


「まだ完璧ではありませんが、良しとしましょう」


「ありがとうございます」


 及第点をもらった。


「マーベル様、旦那様がお呼びです」


「はい」


 使用人に案内され、執務室へ。


「教師から聞いた。今後、学園に通ってもらう」


 一瞬、褒めてもらえるのではないかと期待した。

 

「学園ですか?」


「あぁ。だがその前に私が養女を迎えた事を発表する。近々知り合いがパーティーを開催するから、そこで発表するつもりだ」


「はい」


「それと、学園に通っている者も招待されている。私の養女となった事を忘れない事」


 それは、『粗相をするな』という事。

 私は、その為に礼儀作法を学んでいたらしい。


「……はい」


「年齢は十八だったな?」


「はい」


「学園では最終学年に編入だ」


「……最終学年にですか?」


「あぁ」


 この国の事を知らない私が最終学年。

 シュタイン国では優秀な成績だったが、この国でも通用するのか……

 だけど、私は伯爵の指示に従うと決めた。

 反論はない。

 何か考えがあるのだろう。


「分かりました」


「最終学年には第三王子がいる」


 第三王子。

 話が出た時、伯爵の望みを理解。

 私に第三王子を誘惑させる事ね。


「いいか、第三王子には手を出すな」


「ぇ? 手を出すな? ですか?」


 てっきり『近付き、誘惑しなさい』と言われるものだと。

 伯爵の指示には拍子抜け。

 私の可愛さがあれば王子を誘惑するのも簡単なものなのに。


「第三王子の婚約者はエメライン・ブルグリア。侯爵家の令嬢で教養も家柄も申し分ない。敵に回すようなことはするな」


 侯爵令嬢が婚約者なので、伯爵も敵にしたくないと断言。

 私としても婚約者のいる貴族には既に懲りているので、正直安堵した。


「第三王子と婚約者に取り入り、今年入学する第四王子に近づくんだ。第四王子にはまだ婚約者が居ない」


 第三王子ではないのかと正直がっかりしていれば『第四王子』に近付け指示を受ける。

 やはり伯爵は王族との繋がりが欲しいよう。


「婚約者がいないという事は、王子には何か問題でもあるのでしょうか? 女性が苦手など婚約を渋るような何か……」


 王族の婚約は大抵幼い頃に決定する。

 学ぶことの多い王妃教育は時間が重要。

 礼儀作法は幼い頃から身につけさせる必要がある。


「第一王子妃は王妃教育を問題なく終え、次期王妃としてすでに両陛下お墨付きで期待されている。第二王子は王位継承権はあるが降下し公爵となっている。第三王子には婚約者がいるが、第四王子は未定だ」


「未定……」

 

「第四王子の候補の筆頭だった伯爵家のローザン・エッセンド令嬢は、今年に入り病気療養の為に領地で過ごしているのではないか? と噂が広まった。実際学園に入学していない。有力候補だった令嬢が病気という噂が広まったため急遽、婚約者候補が必要となった」


 そこで私の出番というわけか。

 同年代の王子には既に、伯爵家より格上の婚約者がいる。

 波風立てずに王族との繋がりを持つには第四王子の方がいい。

 私も婚約解消させ、その後婚約となると印象があまりよろしくないのは分かっている。

 前回はゲームのシナリオ通りに動いたからで、いくら不仲だとしても私だって婚約破棄・解消はよくないことは分かってる。

 伯爵には過去の私の失態を話している。


『娼婦のように振る舞うな』

『令嬢らしく気品と優雅さを忘れるな』


 指摘された。

 伯爵は私の振る舞いに関してだけでなく、教養についても口にする。

 学んでいくとサーチベール国に関しては覚えが必要だが、それ以外はシュタイン国とも変わりない事を知る。

 私からしたら既にシュタイン国でヒロインに相応しいよう、ある程度の知識を学んだのでサーチベール国の学園でも真面目に学べば付いていける自信があった。


「上位を目指せ」


 伯爵からの指示を受ける。


「上位……ですか?」


 『平均以上は取れる』と甘い私の考えに伯爵は釘を刺した。

 それでも優しさなのか『一位』ではなく『上位』だった。

 伯爵の指摘で私は前回の事を思い出だす。

 前回、あまりにゲーム通り進むので周囲への警戒が甘くなり、結果私は最終ステージの『断罪』で失敗したのだ。

 私はその日から心を入れ替え、勉強面も真面目に取り組む。

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