焦りは禁物と解ってはいるが (アンドリュー)
ドレスト伯爵は如何なる評判にも臆せず助けを求めた時、救いの手を差し伸べてくれる男と言うのが周囲の評価。
果たして本当にそんな寛大な男なのだろうか……
「胡散臭い……」
アンジェリーナを追い込んだ時の手腕を気に入り利用し、王子達に近づかせようと考えているなら分かりやすく単純。
その程度であれば特別伯爵を警戒する必要はないだろう。
だが、以前その話があったにもかかわらず養女を迎え入れることはなかったと聞く。
その女が誰なのか、何処にいったのかは不明。
本当にそのような女が居たのか。いくら調べてもその女については情報を得られなかった。
「もし本気で王子との繋がりを欲しているのであれば、あの女をすぐに養女にするはず。しなかった場合は、只の従業員という可能性もある……もしくは……あの女の見た目が好みだったか……」
伯爵ともあろう人間が、あの女に対してそのような感情があるとは思っていない。
簡単に籠絡された王子や側近と違い、女達の見え透いた色仕掛けというものを貴族であればこれまでに体験したことはあるだろう。
調べた限りドレスト伯爵自身が若い女に心酔するような趣味の人間という遍歴はなった。
女を欲する人物に見えなければ、権力を欲するような男とも違う。
「ドレスト伯爵は……本当に善意からくるものなのか? 」
なんの見返りもなく助ける善人なだけ……
王子狙いの方が話は簡単だった。
シュタイン国でのあの女の失態を話せば身元を差し出すと考えたが、善人意識が強ければ『過去は過去、彼女は人生をやり直そうとしている』などと言われ提案を断られる可能性がある。
「リーナと同じ事が再び起きる可能性がある……王族に報告するべきなんだろうが、そうなるとあの女の処分が難しくなりそうだな」
いち早く処分したいところだが、色々面倒な事に。
「万が一あの女が貴族の養女になった場合、年齢的に判断すると第三王子か婚約者のいない第四王子辺りか……男に取り入るのは娼婦並みに優れている女だからな……」
第四王子なんて簡単かもしれないな……
「はぁ……」
今のあの女はカジノの営業時間により昼過ぎから働き、朝方に寝る。
寝泊まりしているのは花屋の二階。
一人になる瞬間は昼間だが、花屋の店員とは家族のように受け入れられ近所の人間とも既に打ち解けている。
「あの女の周囲に溶け込む術は、異常な程に優れているのだな」
あそこまで周囲に顔と名前を憶えられては、拐うのはリスクが大きすぎる。
事は慎重に動かなければならなくなった。
リーナが地下牢から釈放された時には、あの女の事は全て終わらせたかったのだがそうもいかなくなってしまった。




