ちゃんと兄が出来ているのだろうか (アンドリュー)
<アンドリュー・カストレータ>
食欲が有ることは良いこと。
それは、回復に向かっている証拠。
平民の大衆食堂は不安に思い戸惑うと思ったのだが、アンジェリーナは初めての体験を楽しんでいるようにも見えた。
苦手だった野菜も残さず食べ『美味しい』とまで。
人が変わった ような違和感を覚えたが、三年という時間を知る。
アンジェリーナと目を見てゆっくり話すのは何年ぶりだろうか。
無邪気に笑っていた女の子が、今では優雅に微笑む美しい人に成長を遂げた。
少し……残念だ。
その移り変わりを私は見ることが出来なかった。
離れていったのは私の意思。
悔やむのは間違っている。
ただ、あの頃は一緒にいることが辛かった。
アンジェリーナに避けられるだけでなく、突然婚約者が現れ夢中に追いかける姿が私の心を締め付ける。
貴族としては政略結婚は当然。
幼い頃に決まるもの。
理解はしていた。
想像より早かっただけ。
婚約者は王子。
貴族にとって、婚約者が王族というのはこれ以上無い相手だ。
『良いこと……これは、良いことなんだ』
アンジェリーナの婚約は良いことなんだと何度も自身に言い聞かせた。
妹に対しこんな感情を抱く、私の方がおかしいのだと苦悩する日々。
邪な感情を振り払うべく、学園で多くの人間に会った。
爵位目当てで私に近付く令嬢は沢山いた。
令嬢が私をそのような目で見るのを利用し私は出会う女性とアンジェリーナを比べてしまっていた。
結果としてアンジェリーナを忘れさせてくれる女性はいなかった。
そして、アンジェリーナと殿下が入学すると同時に私は隣国へ逃げた。
国に戻った時にちゃんと兄を演じる為に。
「私はアンジェリーナの……兄だ」
心からアンジェリーナの結婚を祝福できるように、国を出た。
「私は今、ちゃんと兄を演じられているのだろうか?」




