美味しいな
「ここで食事をする」
「はい」
食事は大衆食堂。
外国の有名なファンタジー映画に出てくるような場所で、内心テンション爆上がりしている。
周囲には気付かれないよう平静を保っていられるのは、目の前にアンドリューの姿があるからだろう。
素敵な人に変に思われたくないので表面には出さないよう心掛けている。
「アンジェリーナ、こういう店は初めてだろう? 何か食べたいものはあるか? これは……」
屋敷で食べるような物とは違い、メニューを見ても決められない私にアンドリューが教えてくれる。
「お任せしてもいい?」
「分かった。なら……これとこれとこれを……それに、これを」
料理が運ばれ目にした途端、急にお腹が空いてきた。
賑わっている場の雰囲気に巻き込まれ、期待値が上がる。
お祭りの屋台でテンション上がってしまうあの感覚に似ている。
目の前に準備された料理を一口食べるごとにフォークが止まらない。
「美味しい」
無意識に言葉が出ていた。
聞かれてしまったのか、共に食事をしているだけなのにアンドリューは何故か笑っている。
何か変なことをしてしまった?
アンドリューは笑い上戸なの?
喜んでいるように見える。
良くわからない人。
公爵家に出てこないような珍しい料理が届く度に興味を惹かれ、恐る恐る一口食べれば止まらなくなる。
ふと我に返り、食事の作法を無視した自身の振る舞いにアンドリューに不快に思われていないか気になり彼を盗み見た。
生まれながらの貴族の彼の所作が美しく見入ってしまう。
「どうした? 口に合わないのか? 」
私が食事の手を止め彼を見ていたので、心配されてしまった。
「美味しいっ」
「そうか」
優しく微笑まれ食事が再開される。
アンドリューといても、気まずさが薄らいだ感じがする。
綺麗すぎる顔立ちの所為なのか冷たく感じていたが、彼と共にいると染み込むように優しさが伝わってくる。
今までのアンジェリーナの行動からアンドリューが距離を置くのは仕方がないとは思う。
それでもこの人はこんなにもアンジェリーナを気遣い、向き合ってくれている。
宿泊する宿も町ごとで雰囲気が変わり、宿を厳選。
一泊なのだからベッドさえあればいいのに、町でいい宿を毎回探してくれている。
今回なんてとてもいい宿。
ここは領地全体に活気があり、領民もどの町の人より親しみがある。
『そこの綺麗なお嬢さん、観光客だろう? これ、名物だよ』
『いや、うちの店の方が旨いぞ』
店員同士の掛け合いが始まる。
殺伐として雰囲気でないところから、日常なのだと分かる。
観光客に慣れているのか、私が町の人間でないのに気が付くと店員だけでなくすれ違う人達に声を掛けられる。
近くには遊技施設があるらしいので、声を掛けることで自衛を兼ねているのかもしれない。
陽が落ちてもなお人の姿が確認でき、周辺の町より時間を気にせず出歩く人が多いように見受けられる。
そんな人達は全員ではないが、お酒を嗜んでいる人が多数。
治安や清潔などを考え遊戯場から少し離れた静かな良い宿を探してくれた。
細かな気遣いをしてくれる、本当に優しい人。




