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十日って、何日ですか? 

「アンドリュー、リーナの事を頼んだぞ」


「……もちろんです」


「リーナ、気を付けて行ってくるんだぞ」


「はい。行ってきます、お父様」


 お父さんや執事・使用人に見送られ領地を出発したのは数時間前。

 それからずっと、馬車・馬車・馬車……ずっと馬車。

 前回体験し、身構えていたがやはり気持ち悪くなり、今回は腰と頭も痛くなってきた。

 もう最悪中の最悪な出来事といえる。

 今の私の願いは『早く着いてほしい』の一つ。


 あと何日ですか?


 もう辛すぎてなんでも良くなってくる。

 私はなんでこんなことをしているんだろうか。

 ゲームの続編やシークレットは、私は攻略してない。

 というかあのゲームに続きがあった事自体知らなかった。

 今の私は過去の記憶があったところで、この後の展開を全く知らない。

 ヒロインはアンドリュールートを望んでいたのだろうか? 

 彼女を見た限りゲームを知る人物である確率は高い。

 そんな彼女は逆ハーレムルートを決定づける為に卒業パーティーで行動を起こした。

 だが、突然私が記憶を取り戻したことで逆ハーレムルート攻略できずに終わった。

 私が通常通り悪役令嬢をしていれば彼女はアンドリューに出会うことはなったのか?


 なら……続きがあると言うのは、私の考えすぎ? 


 ヒロインとアンドリューが出会ったのは本当に偶然ということも考えられる。

 ヒロインとは、そういう偶然に巻き込まれるもの。

 

 もし出会いが偶然だとして、二人が恋愛関係となった時何を望んでいるんだろうか?


 公爵家のカストレータ家だとしても、王族に不名誉を着せたヒロインはシュタイン王国で貴族を続けることは不可能だろう。

 彼女がよくある『聖女』でない限り。

 このゲームに『聖女』という設定はない。

 二人が一緒になったところで、ずっと平民。

 彼女の思う幸せが何なのか私には分からないが、貴族で悠々自適というのは難しい。

 アンドリューが隣国で功績を残し爵位を取得できるのであれば別だが、爵位は簡単に授与されるものではない。

 人としてアンドリューを好きになり、爵位など関係なく一緒にいたいのであれば私だって邪魔をするつもりはない。

 

 だけど、シュタイン国に戻り貴族の生活を享受したいというのであれば私は二人の関係を断固反対させてもらう。


 身勝手かもしれないが、私は自身の平穏の為に二人は貴族籍を捨ててもらい我が家と縁を切ってもらわなければならない。

 もしヒロインがアンドリューより貴族としての生活を望んでいるのであれば、アンドリューよりアンドリューがお世話になっている人の方が身分は確かなはず。


 私はマーベルを押し付けているわけじゃない。


 卒業パーティーでのマーベルの様子から皆に『羨ましがられる存在』になれる事を望んでいるように感じられた。

 周囲に憧れを持たれるような分かりやすく『特別な存在』という立場に。

 シュタイン国の次期公爵と結婚したところで、お茶会やパーティへの参加は難しいのではなく完全に出来ない。

 シュタイン国で生活すればマーベルは隠れて生活を送らなければならない。

 皆に自慢なんてしてしまえば王族が黙っていないだろう。

 なら、隣国で爵位を持った良い男性を見つけた方が幸せな人生を送れる。

 それでも悪役令嬢の兄を選ぶとしたら、二人はどんな出会いを果たして時間を過ごせばそんな関係に?

 それはまさに


 真実の……愛?


 考えれば考える程、ヒロインが羨ましくて仕方がない。

 あの子は出会った人物が悪役令嬢の兄だと知っているのだろうか?


「ん?」


 もしかして、マーベルはアンドリューが私の兄だと知っていて近づいたとしたら? 

 マーベルはゲームの存在を知っている。

 アンドリューと私は、見た目はとても良く似ている。

 忘れていたとしても、一目見れば兄妹というのはすぐに分かっただろう。

 もしそうなら、二人が偶然出会っていたとしてもその先は故意。

 アンドリューに近付いたのは……

 

 私への復讐。


 逆ハーレムエンドをぶち壊した私への復讐にアンドリューを利用しようとしている? 

 あり得るのかもしれない。

 そう考えるとアンドリューは踏み台・金蔓・復讐相手の一人。

 あらぬ罪を着せ、カストレータ家全員を断頭台送りにでもするつもりなのだろうか? 


 ゲームにはない処刑エンド。


 もしそうなら、ヒロインはかなりの性格の持ち主ということになる。

 逆ハーレムを狙う人間はこの世界をゲームと捉え、次第に歯止めが利かなくなる傾向に。

 きっと、人の命もリセット出来ると考えている可能性がある。

 私も未だにこの世界は現実ではなくゲームではないか?

 目が覚めれば日本人の私に戻っているんじゃないかと期待してしまう。

 この世界が夢ならば目が覚めるまでの間、選択肢の正解を知っている世界で見目麗しい殿方を侍らせ女王様を楽しみたいと思ってしまうのかもしれない。

 現実では踏みとどまってしまう事をゲームでは簡単に出来る。

 一度味わってしまえば中毒になってしまうのが乙女ゲームの世界。

 どんどんのめり込んでいくに違いない。

 もしそうなら……


「ヴーヴーヴー」


 私はいつの間にか、恐ろしい世界に巻き込まれてしまった……


「どうした? 気分でも悪いのか? 」


 あまりの現状に私はいつの間にか唸っていたよう。

 すっかり、馬車にはアンドリューも一緒だったのを思い出す。

 目の前の見目麗しい男性は心配の言葉を私に向けるも、視線はすぐに逸らされる。


 心配してくれた?


 仲がいいのか悪いのか分からない。

 正直、初対面に近い相手との二人の時間は疲れてしまう。

 アンドリューに関してゲームでは一切登場せず、情報が何もない。

 何の情報もない世界で圧倒的な不利な立場の悪役令嬢は厳しすぎる。

 何をやってもマイナスにはならないヒロインと、一瞬でも気を抜けば直ぐにマイナスに直行してしまう悪役令嬢。

 扱いの差が激しすぎる。

 不公平としか言えない。

 

「酷すぎる」


 私がヒロインなら、誰かの婚約者を奪うことも悪役令嬢を悪役に仕立て上げることもせずに目立たず生きるのに。

 ヒロインではなく悪役令嬢になってしまったのは、そうじゃないとこの世界が盛り上がらないからだからだろうか? 

 私は平穏に生きたいだけなのに……

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ヒロイン・・・なんという豪運、天運、命運はまだ尽きていなかったどころか激しく燃え上がっていた 改心したにせよ復讐心を抱いているにせよ彼女にとってアンドリューは決して手放せない存在であり捨てられたら終わ…
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