始まるのか?始まってしまうのか?
執務室にて、公爵とアンジェリーナの会話。
娘がいてくれるだけで嬉しいのか、公爵はずっとニコニコしている。
お父さん、今はそんな状況ではないの。
「……お父様、お兄様があの女に引っ掛かりました」
娘との会話を楽しむ気でいたお父さんにとって、なんの話をされているのか理解できず時間が止まっている。
「あの女とは誰の事だ? 」
ゲームでは語られなかった兄という存在を受け入れていると、思わぬところで兄がヒロインの魔の手に掛かっていた。
動揺している私はわかりやすく簡潔に伝えたつもりが、完結過ぎて伝わらなかった。
私はまとまらない頭で必死にお父さんにこれまでの話をする。
「お兄様は、国外追放となったマーベルと遭遇し隣国で接触したようです」
その一言で、笑みを浮かべていたお父さんの表情が真剣なものに変わる。
「お兄様は……おそらく、マーベルとの結婚を考えているようです」
「アンドリューが、あの女と結婚? それは……」
お父さんは驚いた後、困惑した表情を浮かべ私に視線を向ける。
難しい立場だろう。
娘の婚約破棄の原因となった女に息子が惚れる……
子供の気持ちを一番に考える父親としては、どうするのが正しいのか混乱しているのだろう。
目の前に婚約破棄された娘ががいれば複雑だろう。
「はっきりと言われたわけではないんですが……きっとそうではないかと……」
報告していて感心してしまう。
王族の婚約を破棄させ国外追放となりどん底のはずなのに、もう虜にしてしまっている。
流石はヒロイン。
何処へ行っても魅力的な容姿で人を惹き付けてしまうらしい。
正直、羨ましい。
これは、八つ当たりなのかな?
「……話は分かった」
話を終える頃には、お父さんは信じられないと言った様子で重苦しい空気が部屋を支配していた。
やっとゲームが終わり一段落ついていたのに、いつの間にか別ルートが始まっていた。
あの女は何処へ行ってもカストレータ家を巻き込み不幸へと落としたいらしい。
今後どうするべきかはお父さんに託すことにし、私は部屋へと戻る。




