お風呂に入りたい
地下牢に自ら志願し約二週間程経過した。
最初の頃はもしかしたら今日解放されるかもしれないと淡い期待して日数を数えていた。
二週間過ぎてからは頑張って考えないようになった。
本当は今日があれから何日経っているのか気づいてはいるが、気づかないふりをしている。
「はぁ……今日も暇だ」
私は今、必死に能天気になろうと実行中。
地下牢に入った時、食事は乱雑に置かれ虫やカビの生えた固いパンで良い物ではないと予想していた。
だが実際は意外にもまとも。
柔らかいパンと温かなスープと新鮮な野菜もあり、地下牢に入るような罪人が食べるような粗末なものではなかった。
「王宮だと、地下牢でもまともな食事なのね」
ゲームでは地下牢に入ることなく、すぐに『国外追放』だった。
私がゲームとは違う行動をした結果。
文句は言えない。
言えないのだが……
「お風呂に入りたい」
三日以上お風呂に入らないと体臭やらが気になってくる。
今は既に匂いを探知する鼻が機能していないので私には分からない。
それでも私は女なので、食事を運んでくる男性騎士がどう感じているのか気になってしまう。
言っておくが、その男性騎士が私のタイプなどではない。
人として、女として私が臭いのかが気になっている。
それを判断できるのは、私に食事を運んでくる騎士の反応しかない。
だが、彼は感情を表に出す人間ではないのか全く分からない。
分からないので油断してしまう。
彼が罪人の食事運び担当で匂いには慣れているのか、それとも私はまだ気になる程匂いを発していないのか……
「お風呂……国外追放される前に、髪を……せめて身体だけでも拭きたい」
許されるのならすっきりしてから、隣国に旅立ちたい。
そのぐらいの猶予はもらえないのだろうか?
帰ったら、問答無用で追い出されるのか?
寝るのが大好きな私でも、何週間も寝るだけの生活だといい加減飽きてくる。
「テレビが見たい。ゲームがしたい。何でもいいから小説を読みたい」
ストレスなど溜まっていないが、今の状況を発散するにはカラオケか?
カラオケならここでも出来る。
地下牢は皮肉にも反響がいいのできっと気持ちよく歌えるだろう……
だろうが、本気で熱唱している時に店員さんが部屋を訪れると、私は歌うのをやめるタイプ。
熱唱している最中に食事を運ぶ騎士に聴かれでもしたら恥ずかしい。
それに今の状況でこの国では聞いたことのない珍しい歌を歌っていたら、『憑りつかれた』『呪術を行っている』など噂されかねない。
そうなると今度は『魔女』と呼ばれる可能性がある。
「一応この世界はファンタジーだけど、魔法はないのよね」
前世の記憶では、絵本の『魔女』は良い魔女・悪い魔女がいる。
良い魔法を使いであれば、主人公を助けたり試練を与え物語の展開に必要な存在。
もし中世ヨーロッパ的な『魔女』であれば魔女狩り・魔女裁判などが行われ残酷な扱いを受ける。
「私だったら、どっちの魔女なのかしら?」
一人になり、静かすぎると独り言が多くなる。
「私が今いるのは地下牢……」
呟きながら、反響を確認する。
歌ったら気持ちいいだろう。
婚約者に卒業パーティーで多数の生徒が見ている中で婚約破棄され、地下牢にいれられた事で正気を喪い狂ったとされ『死刑』を宣告される可能性がある。
なので、何もなくても出来るカラオケも危険行為に繋がってしまうので却下。
もしかしたら、外にいる誰かと暗号で会話していると勘違いされる恐れもある。
となると、私に出来ることは……
「……寝よう」
大人しく硬いベッドの上で目を閉じる。




