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レイニング・ドレスト

「招待客のリストも完了。会場を彩り頼んだ花屋も、今年は良い物が手に入るだろうって。シェフ達も当日のケーキを気合を入れて試作中。婚約式には必ず間に合わせると言ってくれた。招待客に帰り際贈り物をしようと思う。候補があるんだが見てくれないか?」


「もう、そんなに決めたの? まだ日程も決まっていないのに」


「日程が決まったらあっという間だから、今のうちに決められることは決めておかないと。本当なら今すぐにでも婚約したいのをこちらは、我慢しているんだ。すでに相手が決まっているなら公表すればいいものを、もったいぶりやがって」


「レイったら。サーシャリンみたいなこと言わないの」


「サーシャリン嬢?」


「そうよ。あの子も『今すぐ婚約すればいいのに~』って」


「私とサーシャリン嬢は気が合うな」


「貴方は最初、警戒されていたけどね」


「ふふっ、あぁ。ルビエラに会いに来る度、植え込みや木の後ろに隠れて監視されていたよ」


「扉の隙間からとかね」


「あぁ。認められるまでずっとだったな」


「だけど、その後直ぐよね? 二人が仲良くなったのって」


「あぁ。君に送る誕生日のプレゼントを考えている時に『ピンクダイヤは贈るな』と言われた」


「そうだったの?」


「あぁ、自分が贈るから私には別の物を贈れと。私は既にピンクダイヤでデザイナーと相談していたので断った。そうしたら『どちらがサーシャリンに似合うアクセサリーをデザインできるのか勝負、勝った方がピンクダイヤを贈れる』という勝負を持ち掛けられた」


「もう、二人で何しているのよ」


「それからだな、会話するようになったのは。彼女、センスがいい」


「だから、あの時二人でコソコソ話していたのね」


 王族の婚約が発表され落ち着いた時、私達の婚約も発表する予定だった。

 なのに……


「ルビエラ……ルビエラ……ルビエラ……どうして……」


 王宮のパーティーに出席し、あの男から話があると言われ王族専用控え室に呼ばれ戻った時。

 会場に戻るとサーシャリンの姿なかった。


「ルビエラを見なかったか?」


 友人に訪ね回った。


「ルビエラ嬢? 気分悪くなったのか会場を出ていったぞ」


「そうか、ありがとう」


 先程まで体調が悪いようには見えなかった。

 不安になり控え室を探し回る。

 そして、ある控え室でルビエラを発見した。

 あられもない姿を隠すことなく天井を見上げている。

 近付くも、一切私に感心を示さない。


「ルビエラ? そんな……お前っ」


 彼女の体を隠すようにシーツを掛け、隣の男を殴りつけた。

 何度も何度も、痛みなんて感じることなく殴り続けた。

 騎士に取り押さえられても私は男へ向かっていく。


「やめろっ、触るなっ」


 冷静になったのは、続いてやってきた騎士がシーツを捲ろうとしていた時だ。

 ルビエラの姿は誰にも見せたくなかった。

 取り押さえていた騎士を振り払い、ルビエラに駆け寄り彼女を屋敷まで連れ帰った。

 屋敷に連れ帰り、私が彼女の体を綺麗にした。

 あの姿で子爵家へは行けない。

 抵抗したのか、ルビエラの爪には相手の皮膚や血がこびりついていた。

 

「あの時、離れなければ……」


 後悔ばかり。


「どうしてお姉様を一人にしたのよっ」


 サーシャリンの言う通り。

 あの時、一人にさせなければこんな事にはならなかった。

 王宮で起きた事件の為、騎士によって捜査が行われている。 

 と言って、事件は明白。

 犯人も既に確保されている。

 残すは処罰のみ。


「相手は帰国? 何の処分もなく、帰国させたのか?」


 王宮へ呼ばれ、今回の事件について殿下より報告を受けた。

 

「あの男はエーバンキール国の宰相の嫡男という事が判明した。昨日、エーバンキール国から手紙が届いた。令息への暴力については不問にするので、そちらも穏便に済ませよ。でなければ戦争も辞さないと……」


「何言っている? ルビエラに薬も盛って暴行し死なせておきながら穏便に? 私が相手を殴ったのと同罪だと言いたいのか? ふざけるなっ」


「相手が言うには、ある女性が『貴方に興味がある女性が部屋で待て居る。行ってあげて』と案内された部屋に向かっただけだそうだ」


「ルビエラがそんな事するわけないっ」


「あぁ。令嬢も騙されたそうだ。ある人物に薬を盛られ、休んでいただけ」


「誰だ、薬を盛ったのは」


「その犯人はマヤダ・バーンズ伯爵令嬢だ」


「マヤダ・バーンズ? 彼女が何故ルビエラを?」


 彼女とはそこまで親しい関係ではないが、不仲でもない。

 高位貴族と親しくている令嬢で、子爵のルビエラに対してなんの感情もない令嬢という印象だった。

 それが何故?


「令嬢は、私の婚約者をルビエラだと勘違いして、薬を盛ったと話した」


「王族の婚約者と勘違いされたという事か? どうしてっ。すでにベリンダ侯爵令嬢とと決定していたはずです」


「……私の婚約者は身分が問題で婚約が先延ばしにされていると勘違いし、子爵家のルビエラをが婚約者になると思い込んだらしい」


「そんな勘違いでルビエラが狙われたのか、ふざけるなっ」


「バーンズ家は令嬢毒殺の犯人として処罰する」


「勿論、事実を公表し処刑ですよね? 実行犯は? 騙されたからと言って、ルビエラが亡くなったのは事実。なんの処罰なく終わりだなんて許されない」


「ドレスト……すまないが、公表も相手側に処罰を求めるのも……」


「求めるのも……なんです? 求めないという事ですか?」


「相手は、我が国の婚約者争いに巻き込まれたにすぎないと。用意された女性と楽しんだだけで、誘拐した訳でも薬を盛った訳でもない。それなのに暴力を受けたので『被害者』だと。今回の件を問題にするようなら、徹底的に争う覚悟だと……戦争にでもなったらこちらは歯が立たない。相手側には慰謝料など請求する。王族からも出来る限りドレストには見舞金や今後の援助も約束する。だから、今回は納めてくれないか」


「ふざけるなっ」


 王族は今回の件を公にせず、相手国にも処罰を求めないと決定。


「どうしてそんなことになるのよっ。アイツらがお姉様を殺したのよ」


 子爵家へ報告すれば当然の反応が返って来た。

 相手国との関係性を気にして真実を葬る訳にはいかない。

 王族に対抗するには人数を集めればいい。

 

「エーバンキール国に対して抗議をするつもりだ。今回の事件を風化させたくない。署名してくれないか?」


 貴族を回り署名を募った。

 だが直接の被害者でない人間は


『すまない、エーバンキール国を敵に回すのは得策じゃない』

『取引の関係で、署名は出来ない』

『冷静になれ、こんな事をしてもエーバンキール国に勝てるわけない』

『今回の件を利用して、王族を支配すればいい。それなら協力する』


 誰もが否定的。

 それだけでなく…


『今回の事は忘れろ』

『彼女を亡くして辛いのは分かる。俺の妹なんてどうだ? アイツもお前に興味があるらしい」

『いい女は他にもいくらでもいる。いい女がいる店を紹介してやる』

 

 ふざけるなっ。

 何が忘れろだ。

 忘れられるわけがない。

 男は女性が受けた苦しみを軽視し過ぎだ。

 女性なら気持ちが分かるはず……


『ドレスト様、今回の事は大変残念に思います。私が慰めて差し上げます』

『私も婚約者とはお別れしましたの。私達似た者同士ですね。お似合いだと思いませんか?』

『私は身持ちが堅いですから、ご安心ください』


 拳を握りしめ耐えた。

 女性なら気持ちが分かると思っていたが、誰もルビエラを悼む者はいない。

 寧ろ、彼女自身の行いのせいで事件が発生したと思う者もいた。

 事実を公表しないせいで、ルビエラの名誉が汚されていく。

 いつの間にか事件について、箝口令まで敷かれていた。


「正攻法が使えないなら……」


 真正面から戦いを挑めないのなら、相手国へ出向き犯人を殺すつもりで乗り込んだ。

 

「……あいつは死んだのか?」


「こちらの旦那ですか? 数週間前に足を滑らせ階段から転落したそうですよ、お酒のお好きな方でしたからね」


 到着した時には、奴は事故で亡くなり葬儀も終えられていた。

 復讐さえできずに帰国。

 

「サーシャリンやめなさい」


「止めないでっ」


 子爵家へ挨拶へ出向くと、夫人とサーシャリンが言い争いをしていた。

 あの二人は仲が良く、初めて見る光景だった。


「サーシャリン、何しているっ」


 すかさず止めに入る。


「何よっ、あんただってどうせ『忘れろ』とか『今は、自分を大事に』とか同じ言葉しか言えないんでしょ。私の邪魔しないで」


 サーシャリンも同じようにルビエラの死を消化できずにいる。

 このままでは、ルビエラの大切な家族まで壊れてしまう。


「俺に任せてくれないか」


 それから計画をした。

 戦争を持ち出し事件を葬った相手国。

 身内を守る為に貴族を売った王族。

 被害者が自身の身内でないからと口を噤んだ貴族。

 全員に私と同じ気持ちにさせてやる。

 私と同じ立場になっても同じ事が言えるのか。

 時間を掛けて入念に。

 調査していくうちに、ルビエラが勘違いされる原因も知る。


「あの男、ベリンダを守る為にルビエラに目が行くよう発言していたのか……」


 ルビエラ、すまない。

 君がこんな事を望むような人間ではないのは知っている。

 だけど、我慢できない。

 君の死を踏み台として扱うような人間達を。

 私は許しはしない。

 こんな事をする私は、死んで君に会えることは無いだろう。

 それでいい。

 こんな醜い私は、君に相応しくない。

 

「ルビエラ、君にこんな世界を見せることが無くて良かった。安らかに眠っていてくれ」

 

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この世界を「乙女ゲーム」だと思っていた二人、アンジェリーナとマーベルは、この「裏の真実」をずっと知らないままなのだろうなぁと思うと、不思議な気持ちすらします。 それぞれにとっての真実があって、大切にし…
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