表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

143/144

ルイスティーナ・フォーゲル

 <ルイスティーナ・フォーゲル>


 目を開けているはずなのに視界がぼやけている。

 それに、言葉を発しているつもりが赤ん坊の泣き声がうるさすぎて私の声が聞こえない。

 我が家に赤ん坊なんていないのに。

 気が付くと意識が途切れ眠っている。

 私の体に何が起きているのかさっぱり分からない。

 もしかして私は卒業パーティーで倒れ、その後おかしくなってしまったのかもしれない。


「アンジェリーナ・カストレータ、この時を持って、君との婚約を破棄する」


 私は卒業パーティーで婚約者から婚約破棄される予定でいた。

 なぜなら私は婚約者が好きではないから。

 あんなガサツで令嬢の気持ちもわかないような鈍感な人は断じてお断り。

 男性であれば女性に優しくスマートに時に頼りがいがあり多少のワガママも許してくれる……

 そんな素晴らしい男性を目指すべきなの。

 そんな人はいないと思いがちだが私は知っている。

 私のお兄様。

 お兄様は何をしても完璧。

 知識も豊富で剣術にも優れ私が欲しい物は何でも分かってくれる。

 だから私はあの男に素晴らしい男性がどんな方なのか婚約者の顔合わせの時に毎回丁寧に教えてあげた。


 それなのにあの男ときたら、なんでもかんでも逃げてばかり。

 勉強の方はしているようですが、お兄様に比べたら「まぁまぁ」剣術も訓練されているようですが「ほどほど」そして私への配慮は「全くない」そんな人と婚約なんておかしくなりそうだった。

 私は婚約が決まった相手にお兄様を求めるようになった。

 だって私はお兄様が大好きだから。

 それなのにお兄様酷いことを私に言った。


「血の繋がった兄妹では結婚できないんだよ」


 そんなの、法律を変えてしまえばいい。

 完璧なお兄様ならそのぐらいできるはずなのに……

 意地悪なことを言うので口を利かないでいた。

 「リーナ、ごめんね」と言ってくれたら許してあげるのに、お兄様は私を避け始めた。


 大好きなお兄様に避けられてどうしていいのか分からなくなり、その感情から些細な使用人の失態に激怒してしまった時にお兄様が私の元へ帰って来た。

 私はその時「これだ」と思った。

 使用人に厳しく振る舞えばお兄様が私を無視できないのだと、私はお兄様の見えるところで過剰に振る舞う。

 成長するにあたり次第に使用人も粗相をしなくなってきた為、作戦を変更するしかなくなる。


 学園に入学して、心機一転するつもりでいた。

 完璧な令嬢となり、お兄様を振り向かせる予定でいた。

 なのに、お兄様は私に相談なく留学を決め出発。

 お父様に私も留学すると何度も訴えるが、許可されなかった。

 いつも私のお願いは何でも聞いてくれたのに……


 お兄様がいない学園には興味がなくなり、惰性で通っていると変な令嬢に絡まれるようになった。

 公爵令嬢の私の横で転んだかと思えば「どうして、そんな酷い事するんですか? 」と、よく分からない事を言いだす。

 頭でも打って私を誰かと間違っているのではないかと思い「貴方。記憶が混濁されているようなので、お医者様に見てもらった方が良くてよ? 」親切で教えてあげたのに、令嬢は泣きながら走り去る。

 転んで頭を打ったのに走るなんて元気なのかおかしくなったのかよく分からない子という印象。

 私としては関わりたくないのだが、その令嬢は何度も私に話しかけてくる。


 私は令嬢と挨拶すら交わしたことがないので、名前も知らないのだが「アンジェリーナ様は私が元平民だから、私の事を汚らわしく思っているのですよね」と泣き出すこともあった。

 社交界やお茶会を経験し色んな人を見てきた私だが、この令嬢のことを恐ろしく感じた。

 ここまで会話が通じない人は初めてで、令嬢の姿を見つけると避けるようにしていた。

 だが、ある時令嬢が私の婚約者と親しげでいる姿を目撃する。

 つい「婚約者のいる相手にその様な振る舞いをしては、令嬢にとって良からぬ噂に繋がる」と忠告しようと思ったのだが、これはこれでいいのではないかと考えなおす。


 婚約者が私ではなく、その令嬢と「婚約したい」と宣言すれば私は彼の婚約者という立場から解放される。

 希望を抱き、二人の行動全てを黙認することにした。


 あちらから「婚約解消」宣言がなくともこちらから不貞を訴えられるように、監視しているとおかしなことに気が付いた。

 あの令嬢は私の婚約者だけでなく、他に四人の令息と親しくしている。

 まず一人目は宰相の息子、彼とは図書室での勉強が切っ掛けだが窓際で口づけを交わしているので数人が目撃していた。

 私から言わせると……


「脇が甘いのよ」


 二人目は騎士団長の息子、彼は令嬢が「婚約者のいる男性と親密にするのは避けるべき」と至極まっとうな忠告されている時に勘違いで助けに入った。


「なんて、間抜けな男」


 三人目は商会の息子、彼には美容関連の商品を融通してもらう為に体を提供しているようだ。

 彼曰く自身の商会で取り扱っている商品の品質確認なのだそうだ。


「物は言いようね」


 四人目はまさかの教師。

 令嬢は勉強は入学当初は真面目にしていたようだったが、次第に試験問題をその教師から横流ししてもらい楽をするようになった。

 彼との見返りは背徳感。真面目過ぎる彼には生徒との邪な関係に興奮しているようだった。


「……教師になるべき人間ではないわね」


 私はあの男と婚約解消を望みつつ、令嬢の破天荒な行動にも興味があった。

 あれだけの男性を虜にする令嬢の手腕を盗みお兄様に実践すれば、お兄様もあの令嬢達の男のように……


「お兄様はそんな愚か者じゃないから、成功しないわね……」


 そう思いながら、令嬢の行動は確認してる。


「これは、婚約解消が有利になる為の監視よ」


 そして、私の望み通りの展開になった。

 まさか卒業パーティーで婚約者から私に「婚約破棄」の贈り物をくださるなんて……

 今まで婚約者から何か頂いた事はないが、これほど嬉しい贈り物はない。

 今までの無礼許しましょう。

 私は嬉しすぎて、天にも昇る勢いだった。

 これでお兄様のところへ行ける……


 なのに、今の私は赤ん坊らしい。

 あの時私は嬉しさのあまり、本当に天に昇ってしまったのかもしれない。

 事実を受け止めきれないでいると、目の前にお兄様が現れた。

 絶対に「離さない」そんな思いでお兄様にしがみ付いた。


 私は別人に生まれ変わった事を受け入れ、今度こそお兄様と結婚してやると意気込む。

 それにいつの間にか「リーナ」から「アンジェリーナ」に変わっていたことを納得していない。

 今の私の名前は「ルイスティーナ」、なので今回は必ず「ティーナ」と呼ばせてみせる。

 

「今度こそ離さない」


 お兄様は私のものよ、誰にも渡さない。

 過去の私の体はその女にくれてやる。

 だから……


「すぐに大人になるからそれまで待っててね、お兄様っ」


 ルイスティーナ・カストレータとしてシュタイン国に戻るのは、それから……


 十五年後。

「ただいま我が家……」


 久しぶりのカストレータ家はあの頃と変わらず……


「んん? お父様……なんだか、老けましたわね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ