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納得のいかない者

 〈トラウデン・シャガール〉


「何故だ」


 俺は卒業パーティーで冷酷な女を断罪していたはずが、気付けば謹慎を言い渡されていた。

 何が起きたのか考えても俺は何一つ間違いなど犯してはいない。

 それなのに……


「何故俺が廃嫡されなければならないんだっ」


 マーベルは次期王妃になる人間だと判断した。

 だから俺は騎士の忠誠を捧げた。

 俺はマーベルがパトリックとも関係があるのを知っていた。

 その事でマーベルが悩んでいた事も気付いていた。


「それだけ俺はマーベルの事を見ていたんだ」


 マーベルはパトリックに愛されながらも、『俺への想いを止められない』と涙を見せた。

 

『養女として受け入れてくれた男爵の指示には逆らえないの……』


『男爵の指示……』


『あっ、これは聞かなかったことにして。誰にも話しちゃいけないのに……トラウデンの前だとつい……』


『誰にも? あいつにもか?』


『……うん。トラウデンにだけ……』


『そうか……俺の事は気にするな』 


『トラウデン?』


『何がなんでも王妃になれ』


『トラウデン……』


 恩がある男爵の指示はマーベルにとっては王命のようなもの。

 頭では受け入れても感情がどうにもできず俺の腕の中で涙を流す。

 そんな姿を見せられては、マーベルをこれ以上追い詰めることは出来ない。

 俺への感情を断ち切らなければいけないと分かっていながら気持ちを抑えることが出来ないと何度も訓練場に走って来ては俺は彼女を抱きとめた。

 涙する彼女に対し護ってやりたいと思うのは男として当然だろう。

 俺のことでこんなにも苦しんでいるのなら、俺はマーベルの為に俺との関係を公にするべきではないと判断した。

 それでマーベルの心が護れるのなら。

 俺は騎士の忠誠をマーベルに捧げた。


「それの何が悪いんだ」


 まさかイーリアスとも関係が有ったなんて思わなかったが心優しいマーベルだ、イーリアスの想いを拒むことが出来なかったのだろう。

 マーベルは誰もが魅了される女性だ。

 愛してしまうのはしかたがない。

 ただマーベルが愛しているのは俺だ。

 その想いだけで俺は十分。


「マーベルが追放されるのなら俺の忠誠も白紙になるはずなのに、何故生涯一兵卒という処分が下されるんだ。おかしいだろう」


 それにシャガール家は俺が継がなければ誰が継ぐというんだ? 

 その方が問題だらけだろう。

 尊敬していた父だが、今回の事で理想化しすぎていたのを知る。


「マーベルは素晴らしい女性なんだ」


 あんな素晴らしい女性だったら相手が何人いてもいいじゃないか。

 本当なら俺一人にして欲しいが、マーベルが苦しむのなら俺が耐える。

 それに相手がパトリックやイーリアスなら認める。


「あいつ等とは幼い頃からの仲だ」


 パトリックは国王となり、イーリアスは宰相、マーベルは王妃に、そして騎士の俺が生涯かけて護り抜く。

 俺は婚約者と結婚するが、愛してるのはマーベルだ。

 王妃になって最初はパトリックの子を産み、その後は俺の子を産んで欲しい。


「完璧じゃないか。それなのに、なぜ邪魔をするんだ」


 謹慎を言い渡され数週間が過ぎだ頃、父の執務室に呼ばれた。

 貴族が愛人を持つのは珍しいことじゃない。

 以前の俺だったら、婚約者と結婚し騎士として生きていく覚悟があったので、愛人など考えもしなかった。

 だが、マーベルと出会って共に過ごすうちに世界が一変した。


「騎士は剣術を鍛え上げ、ただ強いだけじゃダメなんだ。誰か大切な人を護る気持ちが大切なんだ」


 それをマーベルが教えてくれた。


「それなのに、マーベルが追放? 俺が廃嫡? どうしてこんなことが許されるんだ? 」

 

 それだけじゃない、婚約者はどうするんだ?

 俺が結婚してやらないと婚約者も困るだろ。

 全てがめちゃくちゃじゃないか。父も国王も間違っている。


「何もわかっていないっ」


 俺は屋敷を出て走り出す。

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