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テネイサム・ドレスト (弟)

 <テネイサム・ドレスト>


 父の言葉で僕と母は馬で領地を目指す。

 何度も領地と王都を行き来しているが母が使う道は初めて通る。

 僕が先導して道案内するべきじゃないかと思うも、母に迷いはなく付いて行くのに必死だった。


 王都から領地までの道路を他領地の許可を得て、率先して整備を入念にしていたのは父だ。

 渋る貴族も当然いたが、「全額負担する」と言えばどの貴族も反対せず満足そうに納得する。もしかしたら、父はこうなることを予想し道路整備に着手していたのかもしれない。母を信じ慣れない道を走ると、普段より確実に時間を短縮できていると実感する。母と父は仕事に関しても深く話しているようには見えなかったが、情報はしっかり共有していたのだろう。


「二人の人生は、本当に復讐に捧げたんだな……」


 いつも穏やかに微笑む母からは「復讐」という言葉は不釣り合いで、実際そんな素振りを感じる事も無かった。

 だが、今の後ろ姿を見ると着実に……入念に何かを準備していたのだろう。


「道なりにまっすぐ行けば、シュタイン国に行ける。シュタイン国から抜けて別の国を目指しなさい」


「……お母様は? 」


「二人で逃げれば目立つわ……テネイサム、大丈夫。ウィリアルもどこかで生きているから……あなたも「生きる」のよ」


 母の言葉はあの日、真実を知った時を思い出す。

 母の言葉通り別れた。僕達が通って来た道は、きっと追手の心配もない。

 それでも母が無事にこの場を離れるのを見届けてからと、後姿を追った。

 母は迷いなく進んでいき、小さな村に到着する。母には似つかわしくない小屋の前で止まる。ノックをして家主を待つと、不衛生な男が現れた。


「……まさか」


 復讐に捧げていると思っていたが、もしかして母には父とは別に愛人がいたのか? と信じたくない光景を目撃した。

 母は男に父に渡された袋差し出す。

 あの袋の中は、金貨と宝石。

 男は中を確認すると満足そうに頷き、一度小屋に入るとすぐに出てきた。

 二人は人通りのない道を進み、別の小屋に入って行く。あまりの光景に暫く立ち尽くしてしまった。


「……もう……行こう」


 母と父の関係は愛情はなくとも強い絆で結ばれていると思っていたが、それは僕の思い込みだったようだ。

 現実を知り立ち去ろうとした時、二人が大きな袋を抱え出てきた。


「なんだ? 」


 二人は荷車に大きな袋を乗せ、森の中へと消えていく。

 見失わないよう急いで二人を追いかけると、開けた場所で二人は立ち止まり木を見上げて相談していた。 

 二人が何をしているのか予想も出来ず、気付かれないよう近付く。

 そして、何か決まったのか二人はロープを一度枝に掛けた。


「まさか……そんな、ダメだ……」


 もしかして、母は首を吊ろうとしていくのか? 「そんな事はさせない」と、駆けだすと二人がロープを結んだ枝が折れた……


「良かった」


 失敗に終わるも二人は今度は先程持ってきた袋の中身を取り出す。


「えっ」


 二人が取り出したモノは……人間だった。

 遠目なので分からないが、生きているとは思えない男。

 その死んだような男を折れた枝の横に寝かせ、母と一緒に来た男は腰に持参していた斧でその死んだような男の顔を傷をつける。

 顔の判別が出来なくなると、母はしゃがみ込み死んだ男の腰に何かを差し込んでいる。その間、男は再び枝にロープを掛ける。何をしているのか眺めていると、ロープを掛けただけで母から更に袋を受け取ると地面に四つん這いになる。


「ダメだ……母……さ……ま」


 母は男を踏みつけロープに頭を潜らせ、男から降りた……

 仕事を終えた男はすぐにその場を離れるので、俺は走って母のもとへ向かう。


「いやだ、いやだ、いやだ」


 母のもとへ到着した頃、母の腕ダランと垂れ下がっていた。


「どうして……」


 母は「やることがある」と言っていたのに……僕には「生きろ」と言っていたのに……

 

「なんで……」


 母の足元で泣き続けた。

 ここで騎士に発見され連行されてもいいと思う程、母と離れたくなかった。

 どのくらい泣いたか覚えていないが、ふと横たえていた男が気になって確認する。

 男をよく見ると、病死だろうと思う程痩せ細っていた。そして、見覚えのある服を着ている。


「……僕の服だ……そんな……」


 僕の服を着た男だと分かり、全てを察した。母は、僕を逃がすために「僕」を作ったのだ。それが分かると再び涙が込み上げてきた。そんな事をするぐらいなら一緒に逃げてほしかった。

 母の行動には全て意味があると分かると、死体に対してしゃがみ込んでいたのを思い出す。何をしていたのかを確認すると、死体にはドレスト家の家門入りの短剣が腰ベルトに刺さっていた。見知らぬ死体が我が家の大切な剣を所持しているのが我慢できず、僕は剣を取り返した。


「これは……僕のだ」 


 僕は剣を握りしめ、馬で近くの村まで向かう。

 すぐ、平民の服を手に入れ村に溶け込む。

 幸い、僕は長年社交界に参加せず、王族のパーティーでも前髪で顔隠していたので王宮の騎士が捜索に訪れるも、堂々と顔を上げて過ごした。


 その後、偽の紹介状を手配してくれる人間と知り合い王宮で使用人として働くことになった。

 そこでは自身の体の細さを利用し、女性として振舞う。

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