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夜明け前、国王陛下寝室。
男は王宮の使用人に配給されるメイド服を脱いで、ベッドへと近づく。
まだ眠り続ける国王を無言で見下ろしていると、人の気配に気が付いたのか国王が目覚める。
「だっ誰だ……」
国王は自身を見下ろす人間に、咄嗟に殺されると体が硬直する。
「……誰に見えます? 」
殺しに来たであろう男は興奮するでも威嚇するでもなく淡々と尋ねた。
思わぬ暗殺者の言葉に国王は困惑しながら徐々に明るくなる部屋で相手の顔を凝視する。
「……ルビ……エラ」
その名を口にすると暗殺者は笑った。
「覚えていたんですね」
「……すまなかった」
国王は暗殺者の感情に辿り着き謝罪する。
「……それは何に対しての謝罪ですか? 」
「……身代わりにしてしまった事……それに……犯人を……解放してしまった……」
国王は自身が犯した過去を振り返る。
「その事、王妃はご存じなんですか? 」
「……ベリンダは……知らない」
国王は罪は自身にあり、愛する者は関係ないと……庇う。
「知らないで、能天気に生きてきたんですね? 」
「違う。ベリンダも幾度となく危険な目に遭ってきた」
愛する者を侮辱するような暗殺者の「能天気」という言葉に反応し、どんな時でも愛する者を守ろうとする国王は今後美談として語られるのだろうか?
「貴方の婚約者には常に王族の護衛が本人にも知られぬように配置されていた。盾にされた令嬢には「盾」にされている事も伝えず無防備な状態だった」
「それは……」
「『そっちの令嬢なら襲ってくれて構わない』と、差し出したのではありませんか? 」
「そんな事は考えていない。それに貴族であれば常に護衛を付けるのは当然だろう? 」
「だから関係のない何も知らない令嬢を盾にしても許されると? 貴族なら護衛を付けているからわざわざ令嬢の家族や本人に、婚約を希望している男にも伝える必要はないと? 」
「……あの時は……あんなことになるとは……私が浅はかだった……すまなかった……本当にすまなかった……」
国王の言葉は過去を反省しているのか、それとも今を逃れる為の嘘か……
「王族であれば何をしても構わないと? 謝罪すれば何でも許されると? 」
「……そうは……思っていない」
「今でも苦しんでいる人がいるとは考えたことはありませんか? 」
「私も忘れたことは無い」
暗殺者の悲しみに、国王は張り合うように言い返す。
「愛する者の代わりに盾になってくれた女のことを忘れたことは無い? 箝口令を敷いておきながら? 」
「……本当に……すまない」
「……貴方の「愛」は本物だ。王妃には何もしない。だけど、あなたは生きているべきじゃない。貴方が生きていたら僕達が終われない」
暗殺者が動くと、国王陛下は抵抗せず受け入れる。
手を伸ばせはベルで人を呼ぶことが出来るがしなかった。
暗殺者は国王陛下の上に馬乗りになる。
「すまなかった」
国王の謝罪を合図に、暗殺者は両手で短剣を握り勢いよく振り下ろした。
何度も何度も……その間「ぐふっ」「ごぼっ」という音が聞こえたが、暗殺者は気が済むまで短剣を振り下ろす。
「はぁはぁはぁ……」
暗殺者は腕に怠さを感じるも、そんな事より国王陛下が動かなくなったことに満足し息を整える。
署名のように家門入りの短剣を国王の胸に突き刺しベッドから降りる。
返り血をシーツで拭き取り、再びメイド服に身を包む。
身なりを整えれば、女にしか見えない細身の男。
男は堂々と国王陛下の寝室を後にする。