テネイサム・ドレスト (弟)
<テネイサム・ドレスト>
僕は昔から両親に違和感を感じていた。
兄は父似で僕は母似。
母の生家を訪ねると僕を見て皆が驚くが、その理由を聞いたことがない。
成長するにつれて男らしくなるかと期待したが、女性的な雰囲気は消えず母の生家を訪問する度に祖父母が微笑んでくれるがどこか泣きそうにも感じていた。優しい二人が大好きでどうしてそんな表情を見せるのか、不思議に思っていた。
ある時、家族の絵姿が飾られている回廊にカーテンに隠れて今まで気が付かなかったが、一人の人物の肖像画を発見した。
綺麗な女性で、母に似ているが違う人物……
「僕にそっくりだ」
その時僕は確信した。
僕は母の子供ではなく、この人の子供なんだと。
それからその肖像画の人物について調べるも、何一つ記録が見つからなかった。
「何をしているんだ? 」
僕が祖父母の屋敷で動き回っているのを不審に思われ、ついには発見されてしまった。
「僕の……本当の母は……あの回廊の隠されている女性ですか? 」
「なっ、違う。テネイサムはサーシャリンの子供だ。あの肖像画は……」
祖父は慌てたように否定する。そこが僕には余計怪しく見えた。
「あの子はね……サーシャリンの姉、ルビエラよ。二十年前に事……故で亡くなってしまって……」
祖母があの肖像画の人物は母の姉であることを教えてくれる。
十歳の僕なので二十年前と言われてしまえば違うと判断するしかないのかもしれない。
だが本当に二十年前なのかは祖父母の話を真実なのか……僕がその人の子供である可能性について完全に否定されたわけではない。
「事故とはどんなものだったのですか? 」
「……事故は事故よ」
祖母は事故の詳細は教えてくれなかった。
やはり、僕の出生に関係しているのかもしれない。
祖父母だけでなく両親にも気が付かれぬように調べるも何も見つからなかった。
事故であれば何らかの記録があっていいのに。
「何しているの? 」
母に見つかってしまった。
「いや……調べ物を……」
「そう……」
それ以上は追及されず、母は僕の頭を優しく撫で背を向ける。
「僕は……母の子供ですか? 」
捨てないで、という思いがそんな言葉を口にしていた。
両親の子ではない僕はいつか二人に捨てられると不安に思うようになっていた。
「何を言っているの? あなたは私の子供よ」
僕の言葉に驚いている母の姿があった。
「祖父母……の屋敷で……僕に似た女性の……肖像画が……あの人……僕に似て……」
「……それは、私の姉よ」
「……はい」
母の答えは祖父母と同じだった。
僕が納得していない様子を見て談話室へと促され、祖父母から聞けなかった母の姉の死を教えられた。
「そんなっ、酷すぎる……」
想像すらしていなかった内容に衝撃を受けた。
貴族として生まれ刷り込まれるように王族は「偉い人」であり、「逆らってはいけない人」だ。常に公平で正しい人だと信じていた。だが、母から聞かされた現実は絵本のような王様はいないという事実。
理不尽というべきか、どうしてそんな対応をするのか王族に対して嫌悪を覚えた。
「お父様は……姉の復讐をしてくれている。だから、もし何かあればテネイサムは逃げなさい。屋敷にある宝石をいくら持って行っていいから逃げるのよ。そして生きなさい」
初めて見るような母の顔に「覚悟」を見た。
「……お母様は? 」
僕には「生きろ」と言う母は「死ぬ」ことを決意しているように思え、聞かずにはいられなかった。
「私は……」
いくら待っても母からそれ以上の言葉は無かった。
だけど成長し今日の事を振り返ると、母は母なりに復讐の機会を窺っているのだと分かった。
僕は両親が何をしているのかはしらない。
だけど、何かしているのは知っている。
端から見れば、両親は不仲でもなく金銭的にも余裕があり「幸せ」に映っただろう。
僕は二人の復讐が成功することを願って社交界から身を引いた。
僕の余計な言動や振る舞いで二人の復讐を失敗させたくなかったから……もし、失敗したら……
「ここを離れなさい」
鬼気迫る父の顔に、計画外の何かが起きているのだと分かる。
母と一緒に「サーチベール国とエーバンキール国、そしてシュタイン国から離れなさい」といわれ準備されていた金貨と売り捌きやすい宝石の入った袋を渡された。
「お父様は? 」と口にする前に母が頷き腕を掴まれ馬に乗る。
母が馬に乗れることには驚いたが、それどころではなかった。
馬で去る僕達を見送る父が何故屋敷に残るのか……その姿に、これが最後だと悟った。