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サーシャリン・ドレスト (夫人)

 <サーシャリン・ドレスト>


 私には生まれた時から大好きな姉がいた。

 綺麗で優しくて優秀で、そんな姉が自慢で妹であることが嬉しかった。

 成長するにあたり、姉の美しさは磨かれ周囲も姉を完璧な令嬢と噂する。

 同年代には王族もいたが、姉には大好きな人がいた。名前はレイニング・ドレスト令息。

 学園在学中に二人は知り合い徐々に仲を深めていき、屋敷にもよく訪れていた。

 私の大好きな姉がどんな人を好きになったのかを観察している姿は、不審にしか見えないのにドレスト様は寛大な対応で受け止めていた。

 彼は優しく優秀で同じお茶会やパーティーに参加していない私にもドレスト令息の人気は耳にしていた。

 二人の関係は公表はしていないが、隠してもいない。


「今すぐにでも婚約を発表すればいいのに~」


 幸せそうな姉を揶揄いながら、どうして婚約を発表しないのか疑問を口にした。

 その頃の私は国の情勢なと頭になく、全てが姉中心となっており、王族がどうとか考えたことはなかった。

 貴族ではあるが、私達と王族は世界が違うと切り離していた。


「王子様の婚約が発表されるまでは、控えないといけないの」


 王子の婚約者候補が決定し準備が整うまでの時間に婚約を発表してしまうのは、「王子との婚約が嫌で急いで婚約しました」と思われない為の配慮である。

 既に王族の婚約相手は決定した(と噂されている)ので他の貴族が婚約を発表しても構わないのだが、高位貴族は些細なことでも批判されてしまうので二人も王族が婚約発表を終えてからと決めていた。

 急がなくても二人の婚約が揺るぐことは無いとその時は思っていた。

 なのに、姉は王族のパーティーに参加して亡くなった。


「なんで……」


 王子の婚約者として選ばれるのが姉だと勘違いした人間の策略に嵌り、アヘンを飲まされ男に乱暴されて殺された。

 その男を処刑しろと抗議したが、隣国の宰相の息子でありあちらの王族から「戦争」という文字が手紙に認めらたことで、今回の事件はサーチベール国の王族としては黙認すると判断された。

 事件を計画した女の家門は既に抹消され一家全員処刑された。

 だが、肝心の実行犯に対しては私達がいくら抗議しても聞き入れてはもらえず。

 尚且つあの現場を目撃した人間には箝口令を敷かれ事件が風化された。

 その後、王子は何事もなかったかのように自身の婚約を発表する。


 私達家族の怒りは収まらず謀反を考えるも、ドレスト令息に止められた。


「貴方は家族じゃないから、止められるのよ。私は姉の為だったらなんだってする。邪魔しないで」


 どこにもぶつけられない怒りを私はドレスト令息にぶつけた。


「なら、俺が復讐する」


 私は今すぐにでも実行犯を殺して王族にも責任を取らせたかったが、「復讐」と口にするドレスト令息の気迫に負けた。

 この人なら、私が考えるものより冷酷で残酷な復讐をしてくれると感じた。

 それから私は姉がするはずだったドレスト令息と婚約した。

 姉とドレスト令息の関係を把握している者からしたら私達の婚約に困惑した事だろう。

 私はどうだってよかった。

 誰と結婚しても誰に抱かれても何とも思わない。

私の大好きな姉を奪った奴らに復讐できるなら、私はなんだってする。

 姉の大好きな人とだって婚姻する。


 月日が流れ、彼は爵位を継ぎドレスト伯爵となり何かを実行しているのに気が付いた。気が付いたけど私は止めなかった。

 あの日、事件の存在を知りながら声を上げることなく王族に従った貴族達のように、私もドレスト伯爵の行動に口を噤んだ。私が止めていれば数人の犠牲者で済んだであろう。

 だけど私は黙認した。

 家族以外で姉を今でも思い出してくれるのはあの人だけ。私はあの人の復讐を邪魔するつもりはない、万が一失敗した時の為に備えるだけ。


「ここを離れなさい」


 ドレスト伯爵の言葉は復讐が成功したのか失敗したのか私には判断できなかった。

 屋敷を出て領地に向かい、最後を託す。

 そして私は復讐が成功するよう願い、首を吊った。

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