ヴァージル、サーチベール
<ヴァージル・サーチベール>
父の告白に動揺するも、兄弟四人で事件解決に奔走。
そしてドレスト伯爵を逮捕するも、発端が王族である為に処分を下しても気分が優れない。
本来であれば多数の貴族が巻き込まれたのだから裁判で詳らかにするべきなのだが、そうすると多数の貴族がアヘンに蝕まれていた事まで明らかになってしまう。
余計なことを王族以外の者に話しをさせない為に、伯爵の舌は切り落としている。伯爵自身も捕まるのを覚悟していたのか暴れることも叫ぶどころか一切口を開かず静観していた。
王族からのせめてもの罪滅ぼしとして、伯爵には毒ワインを差し出す。毒入りとは告げていないが、伯爵はすぐに理解しなんの躊躇いもなく飲み干し亡くなった。
夫人と病弱な令息テネイサムは国境付近の森で首を吊っているのを発見。
テネイサムの方は枝が折れ野犬に食い荒らされたのか判別は出来ないが、本人であろうと判断。留学中のウィリアルの方は伯爵からの手紙が届くと周囲に「父が倒れた」と言って、飛び出してしまったと話す。エーバンキール国で行方をくらまし、彼はサーチベール国に戻ってくることは無いだろう。
伯爵からどのように計画を打ち明けられていたのかは今では不明だが、第二王子から信頼を勝ち取り話を持ち掛ける役回りを託されていたに違いない。
どこまでも追いかけ、彼の死を見届ける必要はないと判断した。
事件が解決し、ワイアットの婚約者が決定する。
婚約者となったアンジェリーナ嬢は、今回の事件が発覚する切っ掛けとなった令嬢だ。王族としては感謝すべき人物だが、同時に危険人物でもある。少しの手掛かりで事件に辿り着いてしまう令嬢を今後も王族の傍に置いて平気なのか……スタンリーと意見を交換したが、令嬢よりワイアットの方が夢中だと聞く。
私達王族は一目惚れを大切にし、愛する者を守る為には手段を択ばない傾向にある。私達三人は愛する者と婚姻したのに、ワイアットだけは許されないというのも可哀想なので、スタンリーとアビゲイルが令嬢から目を離さないようにするという決定になった。
「殿下っ」
普段無作法などしない使用人が確認もなく扉を開けることに異常事態を感じる。
「何事だ? 」
「陛下が……陛下が……」
あまりの動揺にまさかと過るも「そんなことはあり得ない」と浮かんだ不吉な事を振り払う。
「陛下がどうした」
「……暗殺されました」
嫌な予感というのはどうしてこうも当たるのだろうか。
使用人から報告を受け急いで国王の寝室へ向かえば、騎士と使用人が集まっていた。現場を荒らしてはいけないと、騎士が扉の前で待機しているの見るに医者を呼んでも手遅れの状態だと知る。私が中へ入ると国王の胸には短剣が突き刺さっていた。確認せずとも国王が亡くなった事がわかる。
私は父の胸に突き刺さっている短剣を引き抜き指示をする。
「不審人物は捕らえろ、但し表立っての行動はするな。スタンリーとアビゲイルを呼べ。シュタイン国にいるワイアットには手紙で報告しろ。但し国王は「突然死」とする、使用人は国王を着替えさせろ。シーツなど血液が付着している物は全て処分しろ」
彼らにとって私の指示は証拠隠滅のように聞こえただろうが、そうするしかできなかった。何故なら私が引き抜いた短剣には家紋が彫られていた。
彼らに暗殺されたと公表してしまえば、「どうして? 」「なぜ? 」と疑問が生れ詮索されてしまう。となると王族は真実を公表しなければならなくなる。この事件を終わらせる為には「突然死」とするしかなかった。過去、事件の隠蔽を黙認した事の顛末は、自身の死の隠蔽で幕を閉じる……
「因果応報……ですよ」
あの時「戦争」を選んでいたら我が国は完全に負け属国になっていたかもしれないが、それでも妥協案はあったのではないか。処刑などできなくとも、なんらかの罰を与える事は出来ただろう……だが、何もしなかった。今回の事件の発端は過去に起きた事の復讐であることをエーバンキール国の王子には報告する。
表向きは第二王子とこちらの伯爵が権力を求めての犯行と事件解決に関わった者に伝える。だが、私達王族ぐらいは真実を受け止めなければならない。
我々の先代の国王の判断が、これだけの事を引き起こしたのだから……
「令息もなかなかやるな……」




