国王陛下……あの日の真実
国王が崩御する数ヵ月前……
<国王陛下>
国にアヘンが蔓延していたのが発覚してからの二回目の報告会議。
「父上、何故ドレスト伯爵はこれほどの事を計画したと思いますか? 」
調査報告を伝えると同時に、自身の疑問をぶつけるアビゲイル。その場にはヴァージルとスタンリーも同席している。彼らもまた、ドレスト伯爵の行動には疑問を感じていた。過去には王族派で忠実な男だったドレスト伯爵。彼が王族派を離脱しカジノや娼館経営に身を乗り出した。誰もが彼の突然の変わりように当時は驚愕したことだろう……
「全ては愚かな私のせいだ」
「……それは、どういう事でしょうか?」
国王は一呼吸置いてから語る。
「……伯爵には恋人がいた」
「ドレスト夫人……以外にですか? 」
国王の言葉から相手が今の夫人でないことを推察する。
「夫人の姉、ルビエラという美しく聡明な令嬢の事だ」
「伯爵は……姉ではなく妹と婚姻したのですか? 」
恋人ではなく妹と婚姻には引っかかるも、貴族の婚約には感情より家門が優先されることがある。
二人も何かがあったのだろう。
「あぁ。ルビエラは……婚約発表の前に……亡くなった」
「それは……病気や事故とかですか? 」
「……令嬢は、ある事件に巻き込まれてしまった」
「事件……ですか? 」
アビゲイルは国王を窺って眉間にしわを寄せ顔を曇らせる。
「……アヘンだ」
躊躇いがちに国王は重い口を開く。
「「「アヘン? 」」」
会話の流れでアビゲイルが代表する形で質問し兄二人は言葉を発さずにいたが、亡くなった理由が「アヘン」と聞きつい二人も言葉にしていた。
「……当時私の婚約者が現王妃であるベリンダと発表される前、令嬢達は自身が婚約者になろうと皆が殺伐としていた。候補者と名高い令嬢達の馬車が細工され、毒を盛られ、時には破落戸を雇い有力候補を襲わせるなど事件が多発していた。既に婚約者はベリンダと内々に決定していたが今の状態ではベリンダが危険だと判断し、私はベリンダではない人物と思わせた……」
「まさか……」
「私はその相手の特徴として「身分が不釣り合い」と口にした。ベリンダは侯爵令嬢なので身分の問題ないが、当時社交界で美しく聡明な令嬢の噂で盛り上がっていた」
「その令嬢が……」
「あぁ。ドレスト伯爵の恋人である、子爵令嬢の「ルビエラ」だ。私はその噂を利用し子爵令嬢が婚約者有力候補と勘違いさせる発言をした。当時のルビエラとドレスト伯爵が恋仲であるのは私の耳にも届いていたし、二人は私の婚約発表が行われた後に婚約を発表すると報告も受けていた。王族が婚約者候補を見繕っている時に婚約を発表することを避けての行動だった。だが、私の言動と彼ら二人の行動を勘違いした令嬢が、王族主催のパーティーで事件を犯した。エーバンキール国の者を唆し当時は禁止薬物に指定されていなかったアヘンを令嬢に盛り二人きりとなるように計画した。だが、男は次第にアヘンを追加し令嬢はショック死をしてしまった。ルビエラが会場にいないのを不審に思った伯爵が捜索し発見した時、令嬢は……男の横で裸で亡くなっていた。男はすぐに捕らえられ「ある令嬢からの贈り物で、その品を受け取っただけだ」と発言した。計画者はすぐに捕らえ一家全員処刑したのだが、実行犯の男はエーバンキール国の宰相の令息だと分かった。こちらとしては我が国で処罰すると手紙を送ったのだが、あちら側から「戦争」をちらつかされた。エーバンキール国の軍事力には圧倒的な差があり、敵わないと判断した当時の国王である父は、その男を罰することなくエーバンキール国に返還してしまった」
「そんなの、酷すぎる。伯爵が恨むのも当然です」
「あぁ、私達は恨まれて当然の事をした。ドレスト伯爵が側室の第二王子と手を組んだのもそういうことだろう。エーバンキール国の被害者を確認すれば、多くが王族派の者と聞く。その中には当然あの男の娘も含まれていた」
私達は皆、復讐されたのだと理解する。
「エーバンキール国では、どうなっているんですか?……その男」
発端の男は今も能天気に貴族をしているのか……
今も変わらず国に守られているのか……
「奴は……既に亡くなっている」
「亡くなって……それは……」
伯爵は復讐を……
「あの事件の数か月後、泥酔状態で階段から落ち……事故と確認されている。伯爵はそこに一切関与していないだろう……」
事故……これだけの事を引き起こした男は事故で亡くなっていた?
復讐に燃えていた伯爵にとって、復讐相手を失う事はどれ程の事か……伯爵には復讐の怨念だけが燻り続けていたのだろう。
「……今回の事件はどうなさるおつもりですか? これだけの被害が出ているのに、今回もまた黙認ですか? 」
アビゲイルの質問に国王は何も答えられなかった。
「分かりました。今回は私が指揮を執ります」
その様子にヴァージルが声を上げる。
「その代わり、どんな結末になろうと父上は何もしないでください。我々が協力を仰いだ時のみ動いてください」
「……分かった」
この時三人は、事件が終わり次第国王には退位を要求するつもりでいた。




