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マデリーン

 <マデリーン・ドレスト>


「何がどうしてこうなったの? 」


 ドレスト夫人とテネイサムが突然屋敷を出て行った。


「テネイサムの容態が悪化して領地で療養することになった。妻も一緒に向かうが心配するな」


 伯爵が慌ただしく告げる。

 テネイサムが病弱なのは以前から聞いていたし、ともに同行する夫人に対しても不審には感じなかった。伯爵は執事に留学中のウィリアルにも「緊急の手紙」を渡していた。遠くにいる家族に「緊急の手紙」を指示していたので、もしかしたらテネイサムの容態は私が目撃した以上に悪いのかもしれないと心配する。


 しばらくすると無作法にも訪れた騎士にテネイサムの悪い報せだと勘が言っていた。


「我が国で禁止薬物「アヘン」を貴族に盛っていた罪でレイニング・ドレスト、サーシャリン・ドレスト、テネイサム・ドレスト、マデリーン・ドレスト貴様ら全員連行する」


 訳の分からない罪で私は騎士に捕らえられ、護送された。次に解放された時は、薄暗い部屋に押し込められた。その後、私の犯した罪を騎士から伝えられた。


「学園で令嬢達に振る舞っていたエーバンキール産の茶葉だが、アヘンが検出された」


「アヘン……そんなの私、知らないっ」


 私は伯爵が隣国に訪れた時に買い付けた「最高級茶葉」だと聞いていたから皆に振る舞っただけで、私悪くない。


「わっ、私もその紅茶を口にしたわ。私も被害者よ」


「令嬢は見る限り健康だな。令嬢と一緒に紅茶を頂いていた者達は明らかな健康被害を発症している」


 私が必死に訴えても、騎士は端から私が故意に毒を盛ったと決めつけているのが分かる。


「それは個人差でしょ、私だって同じものを飲んでいたわ」


 疑う騎士の目は鋭く、自然と涙が溢れていた。私がいくら無実を訴えても誰も信じてはくれず牢屋に入れられた。意味のない尋問が数日続き、伯爵が自供したと話す。私には伯爵がアヘンを混入させていたことが信じられなかった。


「嘘よ……」


 私が見る限り伯爵に後ろ暗いところは無かった……それに使用人だけでなく領地の人間にも慕われていた。そんな伯爵が「アヘン」。誰かに嵌められたとしか考えられない。誰に嵌められたのか考えると、一人の人物に思い当たった。


「アンジェリーナよ、あの女が犯人よ。あの女この国でも見たわ。アイツは悪役令嬢なの。早く捕まえて」


 今回のゲームはしらないけど、悪役令嬢はあの女と決まっている。私を罠に嵌める為にわざわざ追いかけてきたのよ。もっとあの女について伯爵に伝えていればこんなことにならなかったのかもしれないのに……


 悔しい。私はまた、あの女に負けたの?


「お前は勘違いしている。伯爵は何年も前からアヘンに関与している」


「何年も……まえに……」


 なら、あの女は関係ないの? もしかしてヒロインの私が伯爵の犯罪を暴かなければならなかったの?

 そう考えると、王子達と接触するも好感度に手ごたえを感じなかったのも、攻略対象がいまいち魅力を感じなかったのも納得してしまう。


「またしても、バットエンド……」


 またしても私はしくじったらしい。その後も騎士が訪れ伯爵は様々な違法を犯していたことが発覚。伯爵は禁止薬物だけでなく、誘拐、奴隷などに手を染めていた。騎士の報告に理解することを放棄し、言葉が頭に入って来なくなった。何日も牢屋で過ごす。


「ヒロインが牢屋エンドって聞いたことないよ……」


 私は一生牢屋で過ごすのかと呆然と天井を見つめる。


「おいっ」


 毎日違う騎士が私の事情聴取をする。

 私が知っていることなんて何一つないのに……


「お前の釈放が決定した」


 釈放と聞いて嬉しさより、疑問が支配していた。


 ……伯爵は茶葉にアヘンが混入していたことを認識していたの?


 それを私を通じて令嬢達に飲ませていた。これは逃れようのない事実なのに、まさかの釈放……もしかして攻略対象が助けに来たのかもしれない。


「お前が伯爵の計画を知らなかったのは認める。だが、令嬢達に知らずとはいえ禁止薬物を飲ませていた事実は変わらない。なので、マデリーン・ドレストの国外追放が決定した」


 また、国外追放だった。二度目になると少し慣れを感じていた。


「ただし今回の件を口外しない事と、我が国とエーバンキール国に二度と足を踏み入れないと誓うならだ」


「……エーバンキールも? 」


 何故エーバンキール国も禁止なのか分からない。


「ドレストはエーバンキール国でも同じようにアヘンを撒いていた。あちらの国でもドレスト一家は入国禁止どころか発見次第処刑となる」


「処……刑」


 犯罪を犯したのは伯爵なのに、どうして私がこんなことにならなければならないの? 

 今回はちゃんと貴族をやったのに……


「おいっ、どうする? 一生ここにいるのか? 」


「……今回の事は口外いたしません、サーチベール国とエーバンキール国には足を踏み入れません」


 私にはこれ以外の選択は無かった。

 その後、騎士にシュタイン国でもサーチベール国でもエーバンキール国でもない国の国境まで運ばれた。

 馬車を降ろされ歩いていく、騎士は私の姿が見えなくなるまで確認していた。


「もう、貴族になんかなりたくない……こんなことなら、平民が良い……もう、疲れた」

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