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私の理想は、束の間だった

 お茶会は以前から約束していたテレンシア嬢とキャロライン嬢とだけして、他の誘いは全てお断りの手紙を執事に代筆させた。

 どれだけの人数が私の筆跡を認識しているのか分からないが、分かる人には分かる拒絶の方法。

 彼らとのお茶会を終えて、王都にあるカストレータの屋敷に滞在しているが私としては他人の家に来たかような感覚だ。


 目覚めてすぐに牢屋に入り、釈放されるも王都追放となり王都のカストレータ家の滞在時間は数時間、領地に向かい過ごすもアンドリューの不穏な発言を切っ掛けにサーチベール国に向かい、あれよあれよとサーチベール国の王都に出向いていた。

 全てが片付き漸くシュタイン国の領地に戻れたと思えば再びサーチベール国に呼び戻され過ごしていると今度はシュタイン国の要請により王都に舞い戻る。

 人生をゲームに例えると「スタート地点に戻る」に止まった気がする。


「なんだか疲れる……」


 王都ではあるが、これでのんびり生活を迎えられると思っていた私達のところに急を要する報せがサーチベール国から届く。


「どうしたの? 」


 手紙を読み進めるワイアットの表情が硬くなる。


「……父上が……急死した……」


 ワイアットの父、サーチベール国の国王の急死の報せが届いたのだ。

 思いもよらぬ突然の報せに私の顔が痙攣し始める。


「えっ? 」


 私がワイアットの婚約を受け入れたパーティー時は、国王陛下は元気で病気などもされていなかった。

 正確に聞いたわけではないが見た目年齢や第三王子の年齢からして五十歳程だろうと推測できる。そんな人が急死というのは信じ難い。

 漸く二か国を巻き込む事件が解決したにもかかわらず、不穏な何かが起きているのかと勘ぐってしまう。


 国王についてアンドリューとお父様に報せ、私とワイアットは急いでサーチベール国に戻る。

 休憩だけでなく、宿の滞在時間も短時間に済ませ私達は到着を優先する。

 道中あの事件は解決したと思っていたが、私達は何か見落としてしまったのではないかと事件について思い返す。

 ドレスト伯爵とエーバンキール国の第二王子以外にも計画に参加していた者がいたのかもしれない……


「事件はまだ……終わってないの? 」


 馬車での移動中、何も出来ない時間がもどかしい。


 漸くサーチベール国の王都に到着すると、既に国王が崩御されたことは伝えられたのか街ゆく人々の雰囲気が以前と違うようにみえる。

 王宮に到着するとその雰囲気は顕著に現れる。 

 元から静寂に包まれ緊張感がある場所だったが、今は厳かな雰囲気で何かに支配されているようだった。

 執事に案内されるまま王の寝室へ向かえばヴァージル第一王子と臣下となった第二王子のスタンリー、アビゲイル第三王子の姿もあった。

 彼らに詳しく話を聞くと、国王陛下に不審な点はなく毒殺でも暗殺でもなく疑う事のない突然死だと医師から診断を受ける。


「突然死……」


「最近色々あったからかもしれないな……」


 確かに最近はいろんなことがあった。

 長年王宮に務め信頼できる医師による診断なので誰も疑うことがない。ワイアットも突然の父との別れに言葉を失い立ち尽くしている。国王の崩御を国民に報せ、葬儀の準備が行われていく。


 よくある物語で言うなら国王の座が欲しくて王子達の跡継ぎ争い勃発なのだろうが、サーチベール国では本当に争いは無く葬儀が終えればヴァージルが国王に即位する。

 国王を支持しているのは貴族だけでなく、国民からもあるようで国全体が国王の死を悼んでいる。


 宮廷楽団に奏でられ国王の棺を騎士が抱え、馬車に乗せて教会へ移動する。護衛騎士に守られながら何台もの馬車が連なり運ばれていく姿を一目見ようと国民が溢れかえる。

 十日程の葬儀を終え歴代の国王たちが眠る納棺堂へと下ろされた。


 喪に服す期間を終えまもなくして、国王ヴァージル・サーチベールが誕生する。

 そして他国に向け国王お披露目のパーティーなど慌ただしく、私も当然ながら参加する。目まぐるしく月日は過ぎていき、ルースティンやアビゲイル、エメラインとアイリーンの卒業式が行われた。彼らの卒業パーティーは突然婚約解消宣言するような愚か者はおらず、記憶に残っても恥ずかしくないと言えるパーティーだった。そして、学園を卒業したアビゲイルとエメラインは婚姻しブルグリア侯爵夫妻となって王宮を離れる。


 私はワイアットが学園を卒業する間、サーチベール国の第四王子の婚約者としてお茶会やパーティーに参加しつつ、シュタイン国でも公爵令嬢として社交に出席する。

 半々の生活を送っている。ワイアットと話し合った中、私はいずれサーチベール国に嫁ぐ予定なので今からでもサーチベール国に移住しようと考えたのだが、私がシュタイン国のパーティーに出席することでテレンシアとキャロラインの不名誉が払拭され、尚且つ嫌味から解放されるらしい。


 社交界に出れば私にすり寄り「エーバンキール国の王子と婚約者の関係は良好なの? 」「サーチベール国には優秀そうな令息はいるの? 」と、自身の娘に見合う令息の情報を得ようと必死で、母親の言いつけなのか私のご機嫌取りする令嬢が増えた。

 もしそんな素敵な人がいるのなら私は貴方達の娘にではなく、テレンシアとキャロラインに紹介している。


 あの四人の卒業後翌年にはワイアットが卒業した。本来なら再来年の卒業なのだが、一年飛び級していた。

 なので今年、彼が卒業し数日後には私達は結婚する。


「……私達がドレスト伯爵が治めていた領地を請け負うのですか? 」


 婚姻後、ワイアットは伯爵位を叙爵し領地までも授かることが決定した。


「そうなんだ。ドレスト伯爵が治めていた領地の領主は未だに不在で、例の件に関わった者を領地内で詳細に調査したところ町ぐるみで協力していたことが分かった」


「町ぐるみで? 」


 あれだけの事をしたのだから協力者はいるだろうと予測していたが、町ぐるみとは思い浮かばなかった。


「伯爵の計画を詳細に知っていたわけではないが、見慣れぬ人間が現れたら監視し町に住むようであれば見目麗しき人間はカジノの掃除係に推薦すること。採用されれば報奨金が得られる。有力な情報にも伯爵は金銭を払っていたので、領民達は率先して町の侵入者を報告していたそうだ」


 思い返せば確かに、ドレスト伯爵の領地の人間は旅行者に対して親し気で必ず声を掛ける。

 そして宿や定食屋に入れば値踏みされるように査定されていたのを思い出し納得する。


「……確かに、今思えば町全体が異様な雰囲気でしたね……」


「犯罪に関与していた者は処罰を受けるが、情報の売り買いに参加していた者は侵入者の報告だったので領主に報告することは罪ではないと判断され処罰の対象外となった。その者達に下手な領主が赴任させれば伯爵の二の舞になると判断したそうで俺達が指名された」


 領地を持たない私達が彼らを管理するには適任と思われたらしい。

 そして、私達はドレスト伯爵の領地だけでなくカジノや娼館も引き継ぐことになった。


 ドレスト伯爵のカジノや娼館は治安や風紀の乱れなど考え廃止するべき声もあったのだが、カジノに不正などは確認されず利益に関しては寄付したり支援に回しており、更には仕事のイロハを教えていて社会復帰に貢献しているという意見が浮上した。

 娼館の方もそのような仕事がある事で無差別に女性が襲われる事件が減少しているのも事実。

 結局二つとも廃止にはできず、信用できる者に管理を任せるという話し合いで決着。理由があるにしろ、そのような職を任されては夫婦に亀裂が入る恐れも考え、王族であるワイアットと今回の件を全てを把握している私が適任なのではないかと判断された。


「……信用されているのか、良いように使われているのか……」


「巻き込んですまない」


 今回の最終決定は国王陛下であるヴァージルの決定。という事は、ワイアットの身内が判断した。

 そこに私を巻き込んだのをワイアットは申し訳なく思っている。

 事件があったのだから信頼のできる者に任せる判断をするのは当然だ。


「いえっ、誰かがしなければならないことですしね」


「ありがとう」

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