シュタイン国
<シュタイン国・王宮執務室>
シュタイン国の国王陛下はサーチベール国から突然の報せに困惑する。
我が国を追放した者が、今度はサーチベール国にて問題を起こしていると。
我が国としては「追放後の人間とは無関係だ」と突っぱねたいところだが内容は審議を必要とするものだった。
「あの者は高位貴族令嬢達に振る舞っていた紅茶に、アヘンを混入させていたらしい」
「……アヘンですか?」
思わぬ事実に、国王の横で待機していた宰相も事実に困惑する。
一時は辞職するほどだったが、国王の説得により宰相職を続行している。
「もしかすると、令嬢は我が国でも同じように令息達にアヘンを口にさせていた可能性があったのではないか?」
たった一人の人間に、我が国は三組の高位貴族の婚約が破談となった。
どれも令息側に不貞の証拠があったが、そのうちの一人が王子とあって速やかに処分し箝口令を敷いた。
婚約解消の原因は令息達は誑かした令嬢にあるが、簡単に唆された令息側にも問題はある。
息子の将来を優先し、噂が落ち着くまで「王都追放」を言い渡し、時が来れば王都に戻す予定でいた……
それが、今回息子達の愚行は我が国で禁止薬物に認定されている「アヘン」が原因だったのではないかと浮上。
彼らを教育し直す為にも新天地に送り込んだが、過去の彼らの愚行は令嬢のアヘンによる洗脳だったのかもしれない。
「あの三人の健康を確認し、医師の診断を受けるように」
あれから、半年以上も経過しているので彼らの体内にアヘンが残留しているとは思えない。
継続していない限り、既に証拠は発見されにくいだろう。
「出所を確認する必要がありますね。我が国では製造・販売も許可が必要ですからね」
「そうだな。過去あの者が接触していた人間達を一人残らず、調査する必要がある」
「……あれを養女として引き取ったマヤウェ男爵は、令嬢が追放されると行方をくらましました」
「……捜索する必要がありそうだな。そちらも進めてくれ」
「畏まりました」
サーチベール国からの手紙で目を背けていた事件が再び動き出す。
あの者と関係のあった者達を調査するも彼らに「アヘン」の存在は確認できず、また婚約解消を選んだ愚か者達も今は「アヘン」の検査中。
マヤウェ男爵の周辺も怪しい物は無かったがあの娘が養女として引き取られる前、平民として過ごしていた場所を確認した時だ。
「団長、こちらを確認してください」
あの者は村でも少し離れた位置に住んでおり、様々な木々に囲まれているような場所に住んでいた。
家の周辺を捜索。
「これって……」
「あぁ。ケシの花だな」
隠れるようにケシの花が咲いているのを確認。
アヘン採取用とは別の小型種だが、アヘンの抽出が可能な花。
男爵令嬢となってからこの辺に近付いた情報はないが、あの者が王子やその側近にお菓子を手渡しているのは確認されている。
もしかしたら、その時からあの者は「アヘン」で周囲を操作していた可能性が浮上するも、断定することは出来なかった。
「手作りのクッキーを頂いた事は何度かあります」
被害に遇った三人はあの者からのお菓子を口にしたことは認めるも、届いた検査結果からは彼らの体内にはアヘンの存在は確認できず。
処罰を下し実行して数か月、今さらあの者の犯行を明らかにさせても遅い。
学園での彼らの愚行は知れわたり「アヘンが原因でした」と公表しても、今度はそんな人物は次期国王に相応しくないと判断されかねない。
これ以上王族の名誉を地に落とすわけにはいかず。
口を閉ざすしかなかった。
そして自身の国では真実に辿り着けず罪人を追放した結果、隣国に迷惑をかけたことでシュタイン国は頭が上がらなくなってしまった。




