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約束のお茶会

「では、二人にダンスをお願いしてもよろしいかな? 」


 王族に本日の主役である私達が一曲目のダンスを行うよう促される。


「はい」


 私達がダンスホールへ歩き出せば、自然と避けるのだが貴族達はこれが現実なのか夢なのかまだ受け入れる時間を必要としていた。

 誰も私のダンスレベルに着目していない。


「もう、ダンスには慣れたんだな。ちょっと残念」


 ワイアットは揶揄いつつ私の成長を認めてくれた。

 ダンスが終わり、人気のないところを目指すも道は塞がれあっけなく貴族達に捕まる。

 似たような祝いの言葉を浴びるも、貴族達の本音は私越しに見る王族との繋がりにあやかろうとする魂胆が見え見えだ。

 ワイアットが王族と繋がりを持ちたい令嬢から逃げ回っていたのにも納得する。


 お互い顔を見合わせ「少しこの場を離れよう」「外に出たい」と表情が物語っていた。

 なんとか隙を見てバルコニーに逃げれば、ワイアットと顔を見合わせ一息つく。


「パーティーは疲れるな……」


「……うん」


 パーティーを終えて公爵邸に戻れば念願の自由……には程遠く、時間が過ぎていくごとに積み重なる招待状の山。

 私が追放された時は誰からも心配の声は無かったというのに、身勝手というか呆れてしまう。

 だけど、その中の招待状に気になる物が二通。


「テレンシア・ホフメン伯爵令嬢とキャロライン・フィンメル伯爵令嬢」

 

 二人は私の「道連れ」に巻き込まれ婚約解消となってしまった令嬢だ。

 令嬢達との出会いは、国王陛下から処分が下され貴族として価値を落とした後に手紙が届いた。


「二人は平気かな……」


 婚約者が男爵令嬢に現を抜かし卒業パーティーで恥をかき、婚約解消に至ってしまった事を恨まれているかと思っていたら、まさかの感謝の手紙。

 普通の感覚では貴族の常識は理解できないが、どんな相手であろうと婚約解消は令嬢の傷となる。

 家門によっては愛人がいようと婚約解消だけは許さないとする貴族もいるくらいだ。

 そんな結婚が幸せなわけがないが、貴族はより権力のある者と縁を結びたがる。

 私としては、婚約者のいる令息を籠絡する人間の本性を暴露したに過ぎないのだが思わぬところまで巻き込んでしまったことに反省している。

 二人とは、サーチベール国から戻り次第領地でお茶でもと約束している。


「折角戻って来たんだし、私が誘うべきよね? 」


 約束を果たしたいと思い、どの誘いの手紙よりも先に返事を認める。

 そして数日後、カストレータ公爵家でお茶を開催することになった。

 もちろん招待客はあの二人だけ。


「本日はお招き下さり光栄です」


「私も招待していただき感激です」


 ゲームで登場したのか覚えていないが、直接会う令嬢達は悪役に似つかわしくない程美しく穏やかな令嬢達だ。

 以前手紙を頂いた時はあの事件の直後という事もあり、かなり感情的な印象だったが今は落ち着きを取り戻している。

 時間が解決してくれたのだろう。

 私達のお茶会は自己紹介から始まり、次第に私が追放された後の社交界についてに移っていく。


「あの後すぐに、王族から『卒業パーティーについて他者に話し広める事を禁止する』と箝口令が敷かれました」


 紅茶を頂きながらホフメンは語る。


「それはパトリック王子の復帰を考えての事だと私達は判断しました」


 補足するように語るフィンメルは冷めた印象と言うか、今回の事で王族に対しても辟易しているのだろう。

 周囲の反応もあり、私が隣国へ向かった後二人は交流を深めていたようだ。


「でしょうね……」


 王族が私に対して少しでも後ろめたさがあるのであれば、何かしら接触があったはず。

 だけど、実際は何もない。

 国王は結局は自身の息子の将来を取ったのだ。


「私達の婚約解消が発表され原因など言わずとも誰もが知っており、王族の婚約解消と連なって誰も直接は触れませんでした。お茶会やパーティーに参加すれば……まぁ、突然婚約者が不在となりましたので様々な声を頂くことはありました」


「王族の側近の婚約者という立場を失った私達は、社交界で噂にならないことはありませんでした……ですが、先日のアンジェリーナ令嬢の華麗なる復帰で、あの三人が完全に王都追放が決定されましたので私達への風向きも変わる事になるでしょう……ありがとうございます」


 やはり、被害者であっても社交界では「婚約解消」というのは致命的。

 しかも高位貴族であれば、嫉まれることも多くここぞとばかりに責め立てる者もいる。

 私が逃げたことで、二人に言葉の刃が向いてしまった。

 それなのに私を責めるわけでもなく感謝するなんて……


「いえ……私は何もしておりません」


 それは二人が負けなかった証。私は何もしてない。


「いえ、私達にとってはアンジェリーナ令嬢が王都に『帰って来た』という事実が重要ですの」


「えぇ。アンジェリーナ様、『おかえりなさい』」


 この国で私を迎えてくれるのは、家族以外には令嬢達二人くらいだろう。


「……た……だいま」


 真正面から好意的に受け入れられると照れる。

 それからも、令嬢達との楽しい時間は続く。

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