シュタイン国に戻ってこれたのに嬉しさは……
シュタイン国に戻って来た。今までなら嬉しかったことなのに、今日は違う。
王宮のパーティーに出席するので王都に滞在している。
王子との婚約解消で王都追放となり二度と足を踏み入れることがないと思っていたのに……
「戻ってきちゃった」
何日も掛けてサーチベール国からシュタイン国を目指し、領地ではなく王都にいる。
私の帰りを待っていた使用人が張り切りパーティーの準備を進める。
彼らにとっては卒業パーティーで婚約者に婚約を解消されそのまま投獄された令嬢に仕えていたことで、使用人界で肩身の狭い思いをしていた事だろう。
それを返上できる機会に気合が入っているのかもしれない。
彼女達は公爵に仕える使用人から、王子に「婚約解消」を言い渡され「王都追放」までされた令嬢に仕えていた使用人に格下げされた……それにもかかわらず辞職することなく、変わらず公爵家に仕えてくれた。
私の王都復帰は私だけの問題ではないのだと……巻き込まれて私の「道づれ」になった令嬢達はどうしているのか。
あんなことが起きて、婚約者が婚約者以外の令嬢に懸想し騙されていた。
経緯を把握していても令嬢達は社交界で「婚約を失った令嬢」として話題に上がるだろう。
高位貴族の不幸を表向きでは同情しつつ、言葉で追い詰める。
そんな社交界から私は逃げ出したが、令嬢達は今も戦っているのかもしれない。
私が返り咲く事で令嬢達の立場を少しでも払拭できればと思う。
「なんだか、人生をゲームに例える遊びでいう『スタート地点へ戻る』って気分ね……」
パーティー当日シュタイン国王族から馬車が手配されるも、私とワイアットはサーチベール国の家門入りの王宮馬車で向かう為にお断りした。
アンドリューやお父様はカストレータ家の馬車で向かう。
王宮に到着すれば隣国の家門入りの馬車が優先され別の入り口から入場する。
私の姿は貴族に目撃されることなく王宮へ入ることが出来た。
今回のパーティーは一カ月前に貴族達に招待状が配布されたので、遅くとも三カ月前には招待状の配布が終了し出欠席の確認まで終えられる普段のパーティーからすれば急なものと言える。
その為、今回のパーティーで王族から貴族達に何か重大な発表が行われるのではないかと推測し情報を出し合い探り合っている。
パーティーの目的が、隣国の第四王子の婚約発表とは異例と言える。
大抵、王子の婚約であっても自国で発表するもので他国でわざわざパーティーを開催する必要はない。
なので招待された貴族達は今回のパーティーは、隣国の第四王子の婚約発表のパーティーとは誰も思う事はないだろう。




