パーティー 続
王族の挨拶が終わりパーティー開始の合図として、一組しかダンスすることが出来ない時間となる。
一組しかダンスすることが許されないこの瞬間、貴族令嬢であれば誰もが憧れるものらしい。
国王両陛下がダンスされることは久しく、最近は次期国王に任命されたヴァージル第一王子が務めるか、婚約者を発表したアビゲイル第三王子が務めることもある。
臣下となったスタンリー第二王子は婚約中に経験はしても婚姻してからは控え、第四王子は婚約者が未定の為開始ダンスをしたことはない。
私達は開始合図の王族のダンスの為にホールを開ける。
「まぁ、どういうことかしら? 」
「もしかして、決まったのですかね? 」
「……ほらっ、目に留まるところに移動しなさい」
何をか察知して興味を抱く者に、自身の娘の背中を押し出す者達と途端に会場内がざわめき始めるので何が起きたのかと周囲を確認する。
令嬢達が先程よりも姿勢が良くなり笑顔を携えている。
次第に目の前にいた人達が移動していくので、視界が開けていき見知った人物が会場内を歩いている事が分かった。
何が起きているのか分からず、彼を目で追えば視線が合う。
「ぇっ、何? 」
私を見たまま迫ってくる。
彼の様子に私の前に佇んでいた令嬢達も移動して行くので、対面してしまった。
「アンジェリーナ嬢、ダンスをしていただけないだろうか? 」
会場内で貴族が注目する中、王族自ら迎えに来てダンスに誘われた時誰が断る事ができるという?
「ワイアット殿下……よろ……こんでっ」
どうして私が貴族令嬢であれば誰もが憧れる貴重な一組しかダンスできないファーストダンスに選ばれたのだろうか?
いつものように、二曲目からのダンスをアンドリューと熟し静かに中央から離れる予定でいたのに……まさかの中心にいる。
助けを求めるようにアンドリューに視線を送るも、腕組みをしてワイアットを睨み続けている。
他国の王族が相手であれば公爵家といえども、強く出ることは出来ない……
ワイアットにエスコートされるまま避けていた中央に到着すれば宮廷楽団による演奏が始まる。
以前ダンスの練習をしたがそれは集団の中では目立たないレベルであって、このように衆人環視の中では粗さがしされまくりだろう……
「大丈夫、そんなに緊張することない」
ワイアットはそう言うも王族として育った彼には分からないだろうが、私はこの視線に恐怖を感じていた。
音楽をよく聴きリズムだけは外さないように気を付ける。
「まぁあ」
バランスを崩してしまうと、咄嗟にワイアットに強く導かれ彼の腕の中で密着していた。
ダンスで言えば減点されるのだろうが、女性陣からは悲鳴にも似た声を聞く。
慣れない視線の中でのダンスのせいなのか、男性に抱きしめられたことによるものなのか分からないが、心臓の鼓動がうるさい。
「ドレス……似合っている」
「ぁっりがとうございます」
私の緊張が解れるように話しかけてくれているのだろうが、会話もダンスも中途半端になってしまう。
下手なダンスを見せたくないが会話をするワイアットを無視するわけにもいかず、今までになく脳が忙殺されている。
令嬢達の睨むような視線など気にする余裕なく、ダンスに集中する。
「……ぉわった……」
なんとか目立つ失態はせずに一曲目という大役を終えることが出来た。もしダンスをするなら事前に予告しておいてほしいものだ。
そうしたら、全力で逃げるのに……
ワイアットの手から離れ、最後の挨拶をする。
「アンジェリーナ嬢、俺と婚約していただけないだろうか? 」
まさかのワイアットの宣言に、私だけでなく会場内の貴族達も驚愕する。
今まで令嬢との距離を避けていた彼が自らの意思で令嬢をダンスに誘った事でなんとなく察していたとしても、まだ確定したわけではないと貴族達は機会を窺っていた。
最初のダンスは諦めるも二曲目があると虎視眈々と狙っている令嬢はいた。
それが、ワイアットの宣言で崩れ去る。
誰も、王族からの婚約を拒否するとは思っていないのだろう……私の答えは……
「……よろ……こんで……」
空気を読んでしまった。こんな衆人環視で「王族に恥をかかせるわけにはいかない」だったり、私の一存で断り両国間に何かあれば「責任問題」や、その後のパーティーで王族を拒絶した他国の令嬢という目で「針の筵」になるのではないかと怖くなり受けてしまった。
ワイアットの事は嫌いではない。
好きに近い感情だが、それをはっきりと考えたことはない。
私にとって「王族との婚約」は悪役令嬢としては鬼門ともいえる。
貴族令嬢に対して良い印象のない彼なら、何も起こることはないと私も気軽に接していた。
隣国のパーティーはこれで最後になるだろうと参加すれば、婚約を申し込まれるとは思っていなかった。
「本当かっ」
「キャッ」
私が婚約を受け入れる返事をすれば、彼に抱きしめられていた。
「この度、ワイアットの婚約者が決定した。その者の名は、アンジェリーナ・カストレータ。シュタイン国の公爵令嬢だ。皆の者、二人の仲を末永く見守っていてくれ」
国王陛下の宣言に招待された貴族は私達の婚約に盛大な拍手で答える。
受け入れている者もいれば、拍手せず睨みつける者もいる。
反応は様々で、静かに暮らすという私の夢が遠のいていくのが分かる。
それからは、エメラインとアイリーンが訪れお祝いの言葉を頂き、先程挨拶した二人の当主だけでなくミューリガン公爵にまで祝われてしまえば私の逃げ道は塞がれていく。
その光景を眺めていた貴族も私が既に高位貴族に認められていると知り、自分達も祝いの言葉をと動き出す。
だが、それを遮る人物が現れた。
「ワイアット、おめでとう」
「あぁ、ありがとう」
ワイアットに対して親し気に声を掛ける人物は、見たこともない令息。
私達と同じくらいの年代の彼は王族であるワイアットにも堂々とした振る舞いを見せる。
「アンジェリーナ嬢。こちらエーバンキール国の王子、ナサニエル・エーバンキール」
王子……そうだ。
隣国の人が挨拶したいと言っていた……それって、王子だったの?
言っておいてよ……逃げるのに……
「私、アンジェリーナ・カストレータと申します。シュタイン国の者です……」
王子への挨拶文なんて考えてなった。
「エーバンキールのナサニエルです。今回令嬢とお兄様には大変お世話になりました。感謝しています」
「いえっ、そんなっ、私達は……」
「国が落ち着きましたら、改めて感謝を示したいと思っております。今日は婚約おめでとう」
明確な内容は伝わらずとも他国の王族が自ら訪れ、感謝と祝いの言葉を口にしたのを確認した貴族達は我先にと挨拶の列を作る。
今回のパーティーの目的としては令嬢二人の健康な姿を貴族に見せつけ、エーバンキール国の方と挨拶をして、その後「美味しい物を食べて帰る」という私のパーティーは始まることなく終わった……
パーティー後お世話になっているフォーゲル伯爵邸には、私宛の手紙がわんさか届き始めていた。
それら全てがお茶会の招待状。
私の今後は未定だが、シュタイン国の領地でのんびり過ごすという私の夢は叶えられそうにないのではと不安になるが私はまだ諦めていない。
だが、現実というものは私の思い描く理想とかけ離れていく。
「アンジェリーナ、父上から手紙が届いた」
私宛という手紙を誰からなど確認することなく開封した。
事件は解決し、私にはなんの後ろめたいものなどないと楽観的に手紙を読み進める。
「ん? アンジェリーナ・カストレータの……「王都追放」を撤回すると共に、サーチベール国第四王子との……婚約パーティーを……シュタイン国王宮にて開催したいと思っている。前回の事もあり令嬢の名誉回復に助勢できればと……ぇっ、誰から? 」
理解できない内容に誰からの手紙だったのかを確認すれば、私が婚約解消され王都追放となった、あのシュタイン国の王族からの手紙。
私としては、王都追放の撤回など求めていないし、わざわざパーティーを開催してほしいとも願っていない。
お断りしようと手紙の文言を考えているとワイアットが訪れる。
「シュタイン国の王族に婚約の挨拶に向かう為、連絡したところパーティーを開催したいと返事が来た。俺としてもアンジェリーナ嬢が濡れ衣で王都追放のままだと、両国の問題に繋がる可能性を秘めているので、そうならない為にシュタイン国でもパーティーを開催しアンジェリーナ嬢と俺の婚約を明確にさせておきたい」
ワイアットは四番目とはいえ王子。
彼の婚約は他国の王族に知らされる。
もちろん、シュタイン国にも。私としては、パーティー……特に王族主催のものは遠慮したいのだが、「両国間の問題」なんて言われてしまえば拒否できない……
「はい、分かりました。では……私の方もパーティーの件について了承の返事をしたいと思います」
ワイアットの満足そうな表情を見るに、私の「王都追放」を撤回させるに至ったのは、彼が私の知らないところで動いたからではないだろうか?
マデリーンによって受けた私の「婚約解消」や「王都追放」を不当と考え撤回に動いたように思える。
パーティーの件が決定すると、他愛もない会話をする。
私達はずっと深刻な話ばかり話していたのに気が付く。
恋人関係には程遠く友人の域だなと思っていると、去り際にワイアットは頬にキスをする。
令嬢達とは距離を置いていたのでそういう事には無関心かと思い油断していたが、意外にもスマートにそんな事が出来てしまう彼に翻弄される。
彼はまめにフォーゲル伯爵邸に訪れては会話をするのだが、たまにアンドリューが屋敷にいると、二人きりになることは無い。
それどころか私の隣には常にアンドリューがいて、ワイアットは蚊帳の外になることもある。
王族に対してそのような態度は許されるのか悩むも、娘を取られた父親のようなアンドリューの姿が面白いのと、それでもめげないワイアットの攻防が最近の光景で安らぐ……
「来てしまったのか……」




