復帰
事件が解決しアビゲイル、ルースティン、ワイアットの三人が訪れた。婚約者二人を迎えに来たのかと思ったのだが、ワイアットも同席している。
彼は成長期なのか、以前あった時より身長が伸び体つきも逞しく感じる。成長したワイアットに圧倒されていると、彼から私に招待状が渡される。
「パー……ティー……ですか? 」
本音を言うとあんな事件があって、パーティーを楽しむ気にはなれない。
「このパーティーは毎年開催されているもので、取りやめるにも何の連絡もなくだと事件に一切関わっていない貴族からしたら不審に思われ詮索されてしまう。今回の事を公にしないと決定した今、パーティーは開催するしかない」
アビゲイルが王族の決定を代表者として発表する。
「そう……なんですね……」
「今回の事件は二人の協力があってこそ解決できたと王家は判断しているし、私としてもエメラインを救ってくれた事を個人的に感謝している。ありがとう」
「僕もありがとうございます」
アビゲイルが頭を下げると、ルースティンも頭を下げる。
「ぁっ頭を……あげてください二人とも。私は何も……」
私は彼らと会話していただけで、解決の為に動いたりはしていない。サーチベール国の滞在が長引くと更に巻き込まれるのではと思い、逃げてきたに過ぎない。そんな私の無責任な行動に感謝されてしまうのは、申し訳ない。
ここにいるのは、そんな真実を伝える勇気もない人間なんですよ……なので、頭を下げるのはおやめください。
「そうです。それに、今回の事に気が付いたのはアンジェリーナです」
アンドリューも謙遜するのかと思えば、手柄を私一人に与えようとしてくれている。どこまでも優しい兄だ。
「えっ、私は何も……」
「アンジェリーナ嬢の何気ない発言により事件が発覚し、手掛かりとなったのも確かだ。なので、お礼を兼ねてパーティーにぜひ参加してほしい……それに、きっと令嬢にとって我が国の印象はあまり良くないだろう。その記憶を塗り替えさせてほしい」
今まで黙っていたワイアットが熱く語るのは、自身の国を愛しての事だろう。
「わ……かりました。参加させていただきます」
了承したというより、根負けしたという言葉が正解だろう。
「その際は、僕の屋敷に滞在してください」
ルースティンが嬉しそうにする姿はなんだか犬を見ているようだ。
「よ……ろしくお願いいたします」
「はいっ」
それから、私達は令嬢達と共にサーチベール国に戻る計画を立てる。
事件が解決し、久しぶりの婚約者との再会に令嬢達だけでなく令息の方も浮かれているのが分かる。
「アンジェリーナ嬢、少し話したいのだが」
婚約者のいないワイアットが同じく婚約者のいない私に声を掛けるのは、きっと二組の姿を見て逃げてきたのだろう。
「はい……ん? 」
「えっと、少しの時間を頂けないでしょうか……妹様と……散歩に……」
ワイアットがおどおどと私を誘うというより、目線が高い。確認するとアンドリューと見つめ合っている。
以前パーティーでダンスをした時はヒールを履いた私と同じくらいの身長だったのだが、今ではアンドリューと変わらないほどだ。
「あぁ、構わないよ。アンジェリーナ、私はここにいるから見えない場所にはいかないように」
なんだかよく分からないアンドリューの提案だったが、私としては全く問題ない。
「はい。では行ってまいります」
「うん、気を付けて」
ワイアットが緊張したように見える。確か彼は令嬢のことが好き・嫌いではなく、苦手……とも違うか、婚約者狙いの令嬢を遠ざけたい振る舞いをしていた。なので、私の事も無意味に距離を縮めたくないのだろう。
そうまでして散歩に誘うのはそれほど何か事情があるに違いない。




