密偵
娼館の最上階に踏み入れたことのある男に行方不明とされる令嬢達の確認をしたが収穫なしだった。
「令嬢達は一体どこへ消えたんだ……」
振り出しに戻ってしまい数日。
アビゲイル殿下に報告するも「娼館の監視を続けてくれ」だった。
王族派を離脱したドレスト伯爵を疑いたいのかもしれないが、これだけ調査して何もないのだから伯爵に疑わしいことなどないのかもしれない。
それからも監視を続けていると、あることに気が付いた。
「あの男、最近来てないな……」
娼婦に入れ込み本気になってしまったあの男……最後に会った時は諦める様子は無かった。
「何かあったのか? 」
確か、エーバンキール国の人間と会うと言っていた。
もしかして商談が失敗して経営難にでも陥ったのか?
いくら調査してもドレスト伯爵に不審な点は無かったので、男の状況を確認することにした。
町に到着したが、男の父が営む商会が傾いたという噂は無く彼の仕事場まで向かった。
「おぉ、元気してたか? 」
「おっ、おぉ」
「どうした? 最近娼館来てないだろう? なんかあったのか? 」
「あっ……あぁ」
男はその話には触れてほしくない表情を見せる。
あれからずっと娼館を監視していたので、男が訪れたことは無い。
それなのに何かあったという事は、別の抜け道のような入り口があったりするのか?
「なんだよ? 」
「ここじゃ無理だ。時間あるなら、仕事上がりに角の酒場で聞いてほしいことあんだけど……」
「あぁ。構わない」
「それじゃ、また後で」
男はそれだけ言って仕事に戻っていく。
以前とは全く違う男の反応に何かあったのだと推測。
男が言う時間まで町を観察するも、ドレスト伯の領地とは全く雰囲気が異なる。
というより、ドレスト伯の領地が異様に新参者に対して我先にと親切に声を掛けているように感じた。
「他人に対して「親切」や「優しい」事を異変に感じる俺の方がおかしいのか? 」
次第に暗くなり、男が指定した酒場で先に待つことにした。程なくして男は遣って来た。
「おぉ、先に飲んでるぜ」
「あぁ……」
「どうしたんだよ。仕事で何かやらかしたのか? 」
「いや、仕事は順調だ」
「なら、以前言ってたエーバンキール国の人間と何かあったのか? 」
俺の質問に男は急に顔色を悪くし黙り込む。
「エーバンキール国となんか……あったのか? 」
商売をする人間は特に我が国とエーバンキール国との力関係を知っている。
商談する時はかなり用心しないといけない相手である。
「どうしたんだよ? 」
「それが……俺が気になってるあの子なんだけど……」
男はそこまで言うと、黙り込む。
「まさか、誰かのものになっちまったとか? 」
本気になった女性を誰かに奪われて落ち込んでいるのか?
「いや、そうじゃないんだ……」
「なら……なんだよ? 」




