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ワイアット・サーチベール

 マデリーン・ドレスト令嬢宛に手紙を送った。

 皮肉なことに令嬢に手紙を贈ったのはこれが初めての事た。

 なんて書けばいいのか分からず、単刀直入に……


「一度令嬢と話したい。時間が欲しい、いつ頃可能だろうか?」


 と手紙のやり取りが長引かないように書いた。

 令嬢からの一度目の返事で日時が記されていたので令嬢が指定した日時で問題ないことと、令嬢の屋敷に伺うことだけを書いた手紙を届けさせた。


「……ふぅぅぅ……」


 令嬢の意思かどうかは不明だが、令嬢の淹れる紅茶には気を付けなければならない。

 紅茶だけでなく、出されたものすべてを警戒するべきだろう。


 約束の時間通り令嬢の屋敷に到着する。


「ようこそ、ワイアット殿下」


「あぁ」


 令嬢の微笑む姿にアンジェリーナ嬢が語る人物と同一人物なのか疑ってしまう。

 何度も思い込みで勘違いしていたので、アンジェリーナ嬢との件はアビー兄さんの調査報告書で確認済み。

 アンジェリーナ嬢の婚約解消の原因となったのは間違いなく、目の前の令嬢だ。


「では、行ってまいりますね?」


 見送りに来た使用人に俺と出かける事を印象付けているようにも見えてしまう。

 令嬢には申し訳ないが、過去を知ってしまったのですべての行動に疑念を抱いてしまう。


「いや。初めての令嬢を外出に誘うわけにはいかない。本日は令嬢が安心に過ごせる屋敷で会話をしたいと思っている」


「……まぁ、そこまで私の事を心配して頂きありがとうございます。では応接室に……」


「今日は過ごしやすいので、庭ではどうだろうか? 使用人がいるとはいえ、異性と密室に過ごしたとなれば令嬢に良からぬ噂が立つ恐れがある」


「そうですね。では、庭でお茶でもいかがでしょう。今は丁度見ごろな花がありましてご案内したいですわ」


「あぁ」


 令嬢と密室になることを避け庭へと促す事は出来たが、令嬢を誘う事を意識した事がないので不自然に思われていないか令嬢を盗み見ると不満な様子はないと見えた。

 俺は手紙で「話したい」としか書いてないので、「どこで」については一切触れていない。

 屋敷とも外出とも言及していないので、令嬢に勘違いさせたのはこちらの不手際と反省する。

 使用人により庭の準備が整い移動する。

 促されたテーブルには既に紅茶セットが用意され、席に着くと令嬢は手際よく紅茶の準備を始める。


「令嬢自ら淹れるのか?」


「はい。私は出来ることは自分でやりたいので……貴族らしくないですよね……」


「……いいんじゃないか」


「んふ。ありがとうございます」 


 令嬢の目の前で検査も出来ないこの状況では、彼女の淹れた紅茶を飲むのは危険だ。

 喩え同じティーポットで注いだからと言ってカップが安全とは限らない。

 目の前で令嬢が口にしてもそれは同じだ。

 もしあの紅茶の茶葉にアヘンが混入されていたとして、令嬢は無関係と言えるのだろうか?

 令嬢の意図とは別に伯爵の独断であった場合、なぜ令嬢にはアヘンの症状が出なかった? 

 やはり令嬢はあの茶葉がアヘンが混入しているという情報を事前に入手していたのではないかと考えてしまう。

 いつまでも紅茶を飲まずにいるので怪しまれたかもしれない。

 どうにかこの紅茶を飲まずに乗り切れないものだろうか?


「……少し散歩しないか?」


「はい」


 立ち上がり令嬢をエスコートする際、令嬢の視線を気にしながらハンカチに紅茶を染み込ませた。

 その行為を令嬢に目撃されたのかもしれない、不審に思われた可能性も考えられ緊張しながら令嬢の様子を窺う。

 何かする度に令嬢の様子を窺っていれば、その行為が不審に思われかねない。

 その後は質問だけだと自身を落ち着かせ、真正面を向き今回の目的を果たす。


「……令嬢達の間で病が流行っていると聞くが、ドレスト令嬢はどうだ?」

「ドレスト伯爵とはどうだ?」

「……令嬢は、ミューリガン公爵のパーティーに参加したことがあったと聞くが本当か?」

「その時、黄色いドレスを着用していたか?」


 会話というより質問ばかりで怪しまれ始める。

 俺はこんなにも会話が下手だったのか?


「主催者であるミューリガン公爵は兄なんだ……素敵な……令嬢を見たと話していた」


 急いで取り繕い会話を進めるも、令嬢と伯爵には気になる点が多すぎる。

 次いつ機会が訪れるとも限らない、不審に感じた伯爵に警戒される恐れもある。

 今ある疑問は今日全て聞き出したいと思っている。


「学園は慣れたか?」

「アビー兄さんの婚約者と何度か茶会で共にしていると聞いたが……その時も、令嬢が紅茶を?」

「令嬢自らは珍しいが、伯爵は令嬢の使用人のような行為を咎めたりはしないのか?」


 その後も散歩を続けながら令嬢自身の事を聞き出す。

 不躾ではあったが「伯爵とどう出会ったのか」「出会う前はどうしていたのか」気になる事をあらかた。

 令嬢や伯爵の事は事前調査で調べが付いているが確認というか、本人の口から聞くことが大事。

 令嬢が我が国に訪れることになった経緯。

 令嬢の受け答えは嘘ではなく事実ではあるが、真実とも異なる。

 詳細を知らない者であれば、勘違いしてしまいそうな言い回し。

 欲しかった情報を聞き終え俺達がガゼボに戻れば既に紅茶は片付けられ、新しく準備されているのを確認する。


「今日はありがとう」


 席に着くことなく別れの挨拶をすれば見送られる。

 俺の聞き方が悪いのか、抱えていた疑問を令嬢にぶつけると全ての回答が令嬢を怪しく見せる。

 あまりにも怪しすぎるので、令嬢をこのまま第一容疑者として疑っていいのか、誰かに誘導されているのではないかと勘ぐってしまう。


「……私がお茶会へ招待されたことを伝えると伯爵様の提案で、「紅茶を持参し皆様に披露して差し上げなさい」と仰ってくださいました」


 令嬢は後ろめたさもなく、そう答えた。

 反応からしてエーバンキール産の茶葉について知らないように思える。


「伯爵による指示のもとに動いたにすぎないのか? 令嬢と茶葉は無関係……伯爵は何故このようなことを?」


 ドレスト伯爵家から戻り、ハンカチを執事に渡し検査するように手渡す。

 その後は自身の部屋で一人悩み続けている。

 ドレスト伯爵は貴族派に属しているが、以前までは王族派だったとも聞いている。

 父と……国王と意見の食い違いが起こり、王族派を離脱に至ったと……

 ただ、離脱しただけで、完全に貴族派とも言い切れず中立の立場に属している。

 貴族派が伯爵を取り込もうと必死な事で貴族派と囁かれているようだ。


「意見の食い違い……」


 父にドレスト伯爵と何があったのか尋ねたが、詳細は聞けなかった。


「ワイアット殿下、ご報告いたします」


 先程ハンカチの検査を依頼した執事が報告に来た。

 内容は言うまでもなく、ハンカチに染み込ませた紅茶の分析。


「あぁ」


「検査結果は、陽性。アヘンが検出されました」


「……そうか」


 令嬢の真意は分からないが、王族にアヘンを提供したことは確実となった。

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― 新着の感想 ―
自分の妻が公娼というか愛娼というか、王のお手つきに…いや、お下がりを貰ったのか? 現代日本でもある『部長(など肩書きある人)の愛人と知らずに、部長に紹介された見合い相手と結婚して托卵された夫』 的な?…
続きが気になりすぎる。まじでミステリー小説と恋愛小説のいいとこ取りすぎる。
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