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吐きそうになる空間

 私が能天気に地下牢で眠りについた頃、本来は卒業を祝うパーティーであったのを断罪パーティーに変更され、知らないうちに巻き込まれた生徒達の様子はというと誰も楽しむという雰囲気ではなかった。

 それは、断罪を決行したあの四人でさえこの状況をどうするべきなのかわからないでいた。


 卒業を祝うために陛下が登場するも、生徒達は一縷の望みをかけるも空気は変わらず。

 会場の雰囲気からなにかを察した陛下は、挨拶を終えると会場内で待機していた騎士を呼びつけ事の経緯を把握する。

 事実を知ると言葉も発せず立ち尽くすしかない四人を下がらせ、卒業パーティーは延期と発表した。



 〈国王陛下執務室にて〉


 沈黙をうるさいと感じる異常な空間。

 卒業パーティーで誰にも報告せず、婚約破棄を断行してしまった四人は静かに立ち尽くす。

 広いはずの国王専用執務室。

 国を治める王としての貫禄が部屋全体を支配している。

 呼吸の仕方さえ忘れそうになる程の息苦しさを四人は感じていた。


「パトリック、説明しろ」


 シュタイン王国、十二代目。

 王命である婚約を独断で破棄した息子を肉親だからと許すことは無く、王子に対しても国王陛下として対応している。

 王子と持て囃されはしても、十八歳の子供。陰謀詭計蠢く世界で何十年も生きてきた人間の前では赤子当然。

 そんな人の前で王子は、先程の醜態を口にするのを躊躇っている。


「早くしろ」


「はいっ」


 国王陛下の言葉に王子は震えながらも恥を承知で自身が仕出かした卒業パーティーの出来事を口にする。

 嘘偽りなく婚約者であるアンジェリーナのマーベルへと嫌がらせと、それを理由に婚約破棄を宣言したこと。

 そして自身のマーベルとの関係についても詳細に報告する。


「……イーリアス・ゴードン」


「はひぃ」


 既に自身の行動について後ろめたさを感じているのか、返事すらまともにできないイーリアス。

 国を支配している人の前で命知らずな嘘など言えるはずもなく、彼もまたアンジェリーナによって暴露されたマーベルとの秘密の関係について口にする。


「トラウデン・シャガール」


「はっい」


 二人が真実を話したことでトラウデンも隠すことなく全てを語る。

 彼は混乱のあまり、マーベルとの口づけを交わした詳細まで報告していた。


「はぁ……」


 トラウデンが話し終えると、国王はため息を吐き長い沈黙が訪れる。


「して、パトリック。どうするんだ? 」


 先ほどもアンジェリーナに問われ答えられなかった質問を国王が再び尋ねる。


「そこの女と婚約するつもりか? 」


 そこの女とは今まで存在を消していたマーベルの事だ。

 三人に自身との関係を暴露され、青白い顔でガタガタと震えている。


「……ぁっ、ぁの……」


 か細い声でマーベルは弁明を図ろうとするもその場の雰囲気に負け、それ以上言葉を発せずにいる。

 ゲームで初めてヒロインが国王と謁見するシーンでは、アンジェリーナの悪事にもめげず学園では優秀な成績を残し教師や生徒間の評判も上々。

 何より王子との仲が良好で側近二人の援護もあり国王には快く受け入れられたが、今は違う。

 アンジェリーナによる悪事はあったが、それ以上に優秀な成績の裏で複数の男と逢い引きし学園での評判は先程のパーティーで一気に下落した。


「私は……」


 王子はそこで口籠る。

 パーティー直前までの王子であれば、国王の問いに間髪を容れずに『はい。ここにいるマーベルとの婚約を望みます』と宣言出来ていただろう。


「まったく……」


 国王は眉間に皺を寄せ呟く。

 マーベルを王妃に据えれば、誰の子を孕むか分からないのは明らかだ。

 血筋を重んじる王族にとって、マーベルが王妃に相応しくないのは言うまでもない。

 婚約破棄を告げたアンジェリーナは公爵令嬢。そのような事は言わずとも理解している。

 喩え二人の仲に問題があったとしても、そのようなくだらない心配は無かった。


「……お前達全員、謹慎していろ」


「「「「……はい」」」」


 反論することもなく、全員が謹慎を受け入れた。

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