表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/144

始まり

「聞いているのか? 」


 男の声で眼が覚めるよう意識がハッキリとしていく。それは霧が晴れていくような感覚に近い。


 ここはどこだろう? 目の前の男は誰?

 確かどこかで観たことがあるような気がするのだが、私に日本人離れした顔立ちの人物との知り合いはいない。なのに、どうしてか知っているような気がする。思い出せない記憶を探ろうと気づかず男の顔を凝視していた。


「そんなに不満か? アンジェリーナ・カストレータ。君が今までマーベルにしてきた罪は全て把握済みだ。言い逃れしても無駄だ」


 男に気を取られていたが、不安な様子で寄り添うピンクブロンドの髪の女性の姿が目に入る。珍しい髪色の彼女もまた、見覚えがある感覚。だが、男同様に見覚えはあるものの出会った記憶を思い出せないでいる。


「……ぬぁっ? 」


 先程男は私に対して「アンジェリーナ・カストレータ」と言ったのか? アンジェリーナ・カストレータといえば私が唯一体験した乙女ゲームの悪役令嬢の名前だったように記憶している。それが分かると目の前にいる男性に身なりもまた、ゲームの主要人物と一致する。ゲームというものに慣れていない私に、乙女ゲーム大好きな友人から勧められたもの。初心者が入りやすいゲームだからと言って無料版のお試しをダウンロードされたのだ。


 興味本位でプレイしていけば乙女ゲームというのは主人公に都合のいい展開が進むように感じられ、私としては納得できない展開が続く。私から言わせてもらえば、いくら婚約者に問題があったとしても関係を終わらせる前に他の女性に気移りし、さらには自身の行動を正当化し正義感から婚約者を追い詰める男性に思いは寄せられない。そんな男ははっきり言って「屑野郎」だ。もしヒロインが現れなくてもこいつは「いずれ浮気する」と画面越しに罵っていた覚えがある。


 そのゲームの人物が目の前にいるのは……何故? もしやこれは……


「転……生? 」


 今の状況を把握すると声が漏れていた。


「聞いているのか? 」


 会場内に響く男の声で顔を上げれば、目の前の人物は苛立っているのが伺える。


「……今……とても……混乱……しておりますので、少々……お時間を頂いてもよろしいですか? 」


 男の反応などは気にせず私は再び考え込む。

 何故私がゲームの世界に転生してしまったのか。しかも悪役側に……いや、今はそれどころではないのかもしれない。現状は見るからにゲームで一番盛り上がる悪役令嬢断罪シーン。物語は大詰め、私の記憶が正しければヒロインに嫌がらせをしていたのを暴かれる場面のように思える。


「これは……」


 逃げ道……なし……なのか?


 私としても嫌がらせは良くないが、忠告したくなる振る舞いをしているヒロインにも原因はある。人の恋人……ではなく「婚約者」に親密すぎる接触をしていれば、厳しく忠告をするのは当然のこと。それにも拘らずヒロインは行動を改めないどころが、今も彼女は堂々と人の婚約者の腕に絡みつき被害者面をしている。

 王子と悪役令嬢の婚約は王命であり、誰も覆す事は許されないはず。それを王子が率先して反故にし婚約者の悪役令嬢を断罪している状態。周囲の人間も不貞を行っている彼らがあまりにも堂々と振る舞うので、ヒロインが正しいのだと錯覚し始めている。


「この状況……どうしろと? 」


 現状を把握してしまえば、まさに気が遠のき別人になりたいと思わせる。


「……フフッ」


 ん? ……今……ヒロインは、私を見て笑ったのか?


 悪役令嬢断罪シーンでのヒロインのドレスと宝石の色は、彼らとの距離感を表している。冷静に状況を観察すると、ヒロインは攻略対象とは既に逆ハーレムが成功しているようにみえる。現実世界の人間であれば逆ハーレムを実行しようとは思わないし、相手の男性もそのような関係を許すはずがない。それはゲームだから許される関係であって、現実は平民出身の女性が王族と高位貴族の令息達を手に入れることは不可能。それに資料設定でもヒロインの性格は「真面目で純粋無垢、健気で一途」とある。三人の男性を手に入れようとする人物を「真面目」なんて表現できるはずがない。


 何かがおかしい。


 もし目の前のヒロインが私のように転生者だと仮定し、自らの意思でこの状況を選んだのだとすれば、ゲームのアンジェリーナが追放となるのも理解した上での犯行となる。ゲームのアンジェリーナが嫌がらせに走るのはヒロインの常識外れの行動が発端である。そこを改めることなく彼女はゲーム知識を利用し男性三人を手に入れ、悪役令嬢を断罪している事になる。

 

 この状況、私一人が悪いの? 


 人の婚約者に手を出していたヒロインはなんの罪もなく、これから輝かしい未来を歩む……

 ゲーム通りであれば悪役令嬢の私は「国外追放」となる。その決定を覆すことが出来ないなら、ヒロインを道連れにするしかない。


 一人でなんて堕ちるもんですか……


「ヒロイン……お前も道連れなんだよ……」


 唸るように呟き、闘志を燃やす。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ