聖女、様子を見る
いや、大丈夫です。
私はうっかりと“聖女”だと名乗ったりはしませんから。
(私は普通の中学二年生……普通の……)
でも、普通の中学二年生は、前世の聖女の記憶なんて持ってないですよね…
考え込むとよくわからない結果に繋がりそうなので途中で思考を放棄する事にしました。
それよりも…さっき大臣っぽい人が言っていましたがまた魔王が現れたのですか?
魔王を倒す為に協力を求める…とは…
いえ、そもそもそんな召喚が許されていたでしょうか…?
異世界からの召喚は古い昔に問題が起きた為、禁止されたと習った気がするのですが…
ひょっとしたら、私の前世とは違う世界なのかもしれません。
「では、皆様の力を確認させていただきます!」
そんな言葉と共に何人かの神官達によりスキル判定の魔道具が運び込まれ始めました。
暫くは戸惑うクラスメート達と準備を進める城の者達の様子を伺います。
…この召喚の場にいる方々は…本当にそんなに困ってる方達なのでしょうか?
なんだか、みんなやたらと質のいい服や装飾品を付けている方が多い気がします。
指揮官らしき人物はともかく、聖職者の方も華やかですし、兵士達でさえ傷ひとつ付いてない防具を身につけています。
前世、本当に逼迫していた時には、それぞれの国の王達ですら暗い影を背負いながら最低限の装いをしている事が多かったのですが…
いえ、もしかしたら私たちの為に一張羅を準備したのかもしれません。
「準備が整いました!こちらの方へ順番にお越しください」
部屋の奥には金色に輝く石碑のようなものが設置されました。
見覚えのある魔道具です。
「これは《神託の石》です。手をかざせば、皆様の持つスキルが判明します」
そう、通常は3歳の洗礼式にてこちらでスキルの判定を行うのです。
「マジか……」
「ゲームみたいだな」
クラスメイトたちは戸惑いながらも何処か興奮しているようにも見えました。
「では、順番にどうぞ!」
なんだか不安よりも興味や期待感が勝っているような空気感に思わず眉を顰めてしまいました。
一人目の男子が恐る恐る手をかざします。
《剣術》《火魔法適性》
「おおっ! なんと、スキルが2つもあります!通常はスキルがない事も多い中でこの結果とは素晴らしいです!…これは、戦士向きですね!!」
「え……俺…コレってすごい事なの…?」
「もちろんです!!通常、スキルとは誰でも与えられるようなものではなく、才能のある者のみに与えられるものですので……」
最初に判定を受けた男子はスキルが2つでした。これはとても珍しい事です。
神官の説明にクラスメート達もざわざわと騒がしくなりました。
そんな様子に感化されたのか次々とクラスメイトが判定に向かいます。
《光魔法適性》
《俊敏強化》
強そうな名前のスキルが次々に現れ、歓声が上がります。
そんな中一際大きな歓声が上がりました。
《勇者》
「《勇者》!!なんと《勇者》スキルが現れるとは…!!やはり、召喚は成功だったのです!」
一際興奮した声と共にクラスメート達からも歓声も上がります。
「おおっ……! ついに、この時が!」
「やっと勇者スキルの者が現れたのか!!」
護衛らしき人達からも興奮した声が上がりました。
そんな《勇者》スキルを授かったクラスメートの進藤君はしばらく石碑に浮かび上がる文字をじっと見つめていましたが、やがてニヤリと笑いました。
「へぇ……俺、勇者なんだ?」
神官が厳かに頷きます。
「ええ、間違いございません。あなたこそ、魔王を討伐する可能性を持つ『勇者』スキルを持つ者です!」
進藤君は得意気にぐるりとまわりを見渡します。
そんな進藤君の様子にクラスメイトたちも興奮を隠せないようです。
「さすが進藤……! やっぱ運動神経いいし、そういう才能もあるんだな!」
「すげぇ、マジで勇者かよ……!」
興奮するクラスメイトたちを横目に、私は静かに様子をうかがっていました。
…多くの人に授けられるとはいっても、スキルは全ての者に与えられるわけではないのに、今のところ全員がスキルを授かってます。
やはり、異世界からの召喚となるとなにか特殊な力が働いているのでしょうか…
珍しいスキルも沢山あるので見ていて興味深くはありました。
中には見たことのない特殊スキルの更に上の希少スキルを持ってる人もいました。
感心しながら見ていましたが私は皆の様に喜ぶことは出来ません。
ずっと複雑な気持ちでその様子を伺っていました。
皆、本当に今の現状がわかっているのかな…
皆は単純に希少なスキルを授かって喜んでいる様子ですが私は心配でなりません。
そのスキルが希少であればある程、そして戦う力が強ければ強いほど…魔王討伐メンバーへの道が近くなってしまいます。
そう、そして…
今世において黒歴史を作る事になってしまう事間違いなしです。
そもそもスキル名からして厨ニ病感が溢れているように思えるのですけど、大丈夫なのでしょうか…
…これはひょっとして、あとで後悔する事になっちゃう奴なのではないでしょうか…