聖女、クラス召喚に巻き込まれる
…ついこの間、この世界にてこの人生を謳歌すると決意した私。
…なのに…どうしましょう…
…なんと迂闊にも、クラス召喚?とやらに巻き込まれてしまったのです。
この世界の生活にも馴染み、何不自由のない夢のような学生生活が現実だとやっと実感出来るようになった今日この頃。前世の事もこのまま忘れていけば良いと呑気に思っていました。
平和な日常に慣れきっていた私は、この生活がいきなり終わりを告げるなどとは考えてもいなかったのです。
やはり…今世もまた、私は聖女として生きなければならないのでしょうか…
…いえ、そんな事はないはずです。
私は今世では新しい世界にて幸せな人生を歩むと決心したのです。
それを叶えるためにも、まずは精一杯出来ることをやってみようと思います。
…そう、想定外にもクラス召喚に巻き込まれてしまったのは…
…中学2年生となり、そろそろ新しいクラスにも慣れ始めた前期後半の頃でした。
いつものように学校へと登校したのです。朝のホームルームが終わって担任の先生が教室から出た時にそれは起こりました。
先生が教室から出て、扉を閉めたと思ったのと同時に眩しい光が、急に教室中を埋め尽くしました。
そして、耳鳴りがして足元がふわふわしてまるで地面が消えたみたいに感じたのです。
……一体何が……?
私は状況把握の為にも目を開けようとしたのですがまぶしすぎて開けられませんでした。
でも、光の中ではクラスメートの誰かの叫び声が聞こえてきたのでこれが自分だけに起こった事象ではない事はわかりました。
「な、なんだよこれ!?」
「先生!? どこですか!?」
「なに?なんなのこれっ!」
「ちょっと、どうなってんのよ!!」
響くクラスメイト達の声は混乱と恐怖に満ちていました。
そして、次の瞬間——。
ドンッ!
身体が床に叩きつけられるような衝撃を感じました。
息が詰まり、すごい圧を感じていると急にフワッと身体が軽くなりました。
……あれ?え、床の感触が…?
ようやく光が収まり、目が開けられるようになると…そこはすでに教室ではありませんでした。
「おお……!」
「成功したぞ!」
冷たい石の感触に驚き、見上げた先にいたのは豪華な衣装をまとった人々。壁には複雑な紋様が描かれ、天井には美しいシャンデリアが輝いていました。
……ここは…城?
私は思わず息を飲んでしまいました。
……これは、知っている光景です。
前世の記憶の中にある風景…
…私がほんの少しだけ滞在した事のある王宮にある一室にそっくりです。
それに、まさかこれは……召喚魔法では…?
「勇者様方、ようこそ!」
堂々とした声が響き渡りました。
「ようこそ、我がガルディア王国へ!」
クラスメイトたちが騒めき始めます。
「ガルディア……? どこ?」
「いや、そんな国知らねぇし……」
「……え、これってやばくない?」
混乱するみんなの前で、年配の男がゆっくりと話し始めました。
立ち位置的に見てこの召喚の責任者、大臣の内の1人といったところでしょうか。
「皆様をお呼びしたのは、世界を救うため。勇者として、魔王を討伐していただきたいのです!」
「勇者!?」
「は!? 冗談だろ!?」
私は端の方で静かに息を整えます。
どうしましょう……
聞き覚えのある国名と既視感を感じるこの王宮。
…どうやら、前世で聖女だった世界へと召喚されてしまったようです。
そんな…
…ここで“ガルディア王国知ってます、聖女でした”なんて言ったら、私は…
私はきっと…
…厨二病だと診断されること間違いないです。